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熊本地震でのトイレ問題 発災から6時間以内に73%がトイレに行きたくなる

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
地震発生後、最初にトイレに行きたいと感じた時間

熊本地震から4年が経ちます。

2016年4月14日と16日に最大震度7を観測し、甚大な被害をもたらしました。

避難生活で困ったことは?

熊本地震被災者のうち災害仮設住宅に居住する方を対象にアンケートを実施(岡山朋子氏 大正大学人間学部人間環境学科)したところ、「避難生活の初期において、もっとも困ったことはなんですか?(複数選択可)」という問いに対して、上位を占めたのは「睡眠」「トイレ」「食事」でした。今回の記事ではトイレ問題に着目し、熊本地震での経験を備えに活かすことについて考えてみたいと思います。

作成:岡山朋子氏 大正大学人間学部人間環境学科
作成:岡山朋子氏 大正大学人間学部人間環境学科

大地震が起きたとき、みなさんはどのような行動をしますか?

自分の身を守ることが最優先で、そのあと人命救助、安否確認、水や食料、避難場所の確保などを思い浮かべたと思います。このようなときに、必ずと言っていいほど抜け落ちるのがトイレです。

アンケート結果では、3時間以内に39%、6時間以内まで含めると73%もの人がトイレに行きたくなっていると回答しています。大混乱時においても私たちの排泄は待ったなしです。

作成:岡山朋子氏 大正大学人間学部人間環境学科
作成:岡山朋子氏 大正大学人間学部人間環境学科

では、このようなときにトイレに行きたくなったら、みなさんはどうしますか?避難所のトイレを使いますか?

ニュース映像などで避難所のトイレを見たことがある人であれば、そのように思うかもしれませんね。ですが、'''震災時は停電・断水している可能性が高いので、避難所となる小中学校のトイレも使うことはできません。

使用禁止になった避難所のトイレ(撮影:日本トイレ研究所)
使用禁止になった避難所のトイレ(撮影:日本トイレ研究所)

'''仮設トイレが配備されることを期待したいのですが、道路事情等によって左右されますし、仮設トイレが余っているかどうかもわかりません。今回の新型コロナウイルス感染症により、マスクやトイレットペーパー不足が発生したことを考えると、流通在庫がいかに不安定なのかがわかると思います。

アンケートに寄せられた被災者の声をいくつか紹介します

  • グラウンドの隅など(中学校の体育館がすぐには避難所としての許可がおりなかったので)
  • 家のトイレ(水は流れないので、そのまま用を足した)
  • 家の周りにスコップで穴を掘って用を済ませた
  • 最初の避難場所が近くの小学校だったので、そこで使いました。地震直後から、水は断水していたので、初めは水も流れず、溜まっていく一方でした
  • ○○出張所のトイレ使用。オマルのようなトイレに砂のようなものをかけ、次々に大便をした。あまりにひどいので○○小学校に移動した
  • 福祉保健センターに朝方行って、長い行列に並んでやっと使用した
  • 役場駐車場の片隅で、段ボールにビニール袋を敷いた中。周りを何人かの人がシート等でかこっていてくれたので助かりました

トイレ問題がいかに深刻なのかが分かります。

私たちは、トイレを不快もしくは不便と感じると、出来るだけトイレに行く回数を減らそうとして水分摂取を控えがちになります。そうすることで脱水し、エコノミークラス症候群等により命を落とすこともあります。そのため、トイレの備えは命にかかわることとして取り組む必要があります。トイレぐらい何とかなると言う方がたまにいますが、トイレは1日に7回、もしくはそれ以上行くところです。雨でも嵐でも、暑くても寒くても行かなければなりません。トイレが落ち着いてできなくなると心理的にストレスにもなります。だからこそ、トイレはできるだけ日常に近いかたちで出来るようにすることが必要なのです。

もし自宅が安全であれば、そこで避難生活を送ると思いますが、トイレの備えがなければ自宅にいることが出来なくなってしまいます。そうならないためにも、発災直後のトイレ対応として携帯トイレが必要です。携帯トイレの使用方法はこちらを参考にしてください。

自宅の下水の使用可否の確認方法

本記事では、自宅で避難生活を送るために必要なもう一つのこととして、自宅の下水の使用可否の確認方法についてご紹介します。

この方法は、熊本地震のときに益城町で実施された方法です。益城町では、下水道が復旧していても宅地内の排水管が壊れてしまって水洗トイレが使えない状況がありました。そこで、熊本県益城町浄化センター下水道課は、主に戸建てを対象として、家庭から生活排水(台所、洗濯、風呂、トイレ等)を排水してよいかどうかを確認する方法を示しました。

まず、私たちが理解しなければいけないのは、宅地内の排水設備は自分で対応しなきゃいけないということです。例えば下図のようになります。

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この図でわかるとおり、住民の工事負担と書かれている側は、自分でやらなきゃいけないのです。この部分が被災しているかどうかの確認方法は以下の4ステップです。

ステップ1

トイレ、台所、風呂など、それぞれから汚れた水が流れた先には「汚水桝」と呼ばれる点検口がありますので、その蓋を開けます。

ステップ2

トイレ、台所、風呂から、それぞれ流してみて、各汚水桝に流れてくるかを確認します。

ステップ3

各汚水桝に水が流れてきたら、今度は、上の図でいうと一番遠くにあるトイレから流した水が公共桝に向かって流れていくかを確認します。

ステップ4

流れてきた水が汚水桝に溜まったままにならないかを確認します。水が流れてこなかったり、水位があがってきたら途中で不具合があると考えられます。

画像

平時にこのような点検を行っておけば、災害時の点検をスムーズに行うことができます。また、平時の状態を知っておくことで、災害時の点検時に異常を把握しやすくなります。

水洗トイレは、住民と行政が連携し、それぞれの排水機能が確保できてはじめて成り立ちます。もちろん上水と電気も必要になります。これらのすべてが必要なシステムなのです。

そのことをご理解いただき、自宅の水洗トイレシステムを点検してみてください。

集合住宅に関しては、他の住戸と設備を共有しているので点検方法も複雑になります。これに関しては、「集合住宅におけるトイレの災害対応」を参考にしてください。

集合住宅における排水のイメージ(作成:特定非営利活動法人日本トイレ研究所)
集合住宅における排水のイメージ(作成:特定非営利活動法人日本トイレ研究所)
特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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