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2000人中300人がトイレ後「手を洗わない」 新型コロナの接触感染、防ぐには?

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

世の中には目に見えないものがたくさんありますが、その1つがウイルスです。目に見えないというのが曲者で、見えないがゆえに対応はとても難しいですし、得体がしれないと、さらに不安が募ります。まさに今回の新型コロナウイルスがそれです。現在は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するため、テレワークを推進したり、学校を一斉休校するなど、様々な取り組みが行われています。

一般的に感染症の感染経路は、接触感染、血液感染、飛沫感染、空気感染の4つですが、厚生労働省によると新型コロナウイルス感染症は、接触感染と飛沫感染が考えられるといわれています。

そこで、今回は接触感染の原因の場となりうるトイレ対応について考えてみます。

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出典・作成:新型コロナウイルスを防ぐには(厚生労働省、令和2年2月17日改訂版)

トイレを介した感染は?

まず「感染者の糞便から感染することがあるか?」ということですが、これについて厚生労働省は以下のように回答を示しています。

「これまで通り通常の手洗いや手指消毒用アルコールでの消毒などを行ってください。また、新型コロナウイルス感染症の疑いのある患者や新型コロナウイルス感染症の患者、濃厚接触者が使用した使用後のトイレは、急性の下痢症状などでトイレが汚れた場合には、次亜塩素酸ナトリウム(市販されている家庭用漂白剤等はこれにあたります、1,000ppm)、またはアルコール(70%)による清拭をすることを推奨します。」(2020年3月7日時点版)

感染することを断言はしていませんが、リスクがあるので下痢症状で汚れた場合はしっかり消毒してください、ということです。

また、シンガポール国立感染症センターと軍事技術の研究・開発会社DSOナショナル・ラボラトリーズ(旧国防科学研究所)によると、新型コロナウイルス感染者が隔離されていた部屋で清掃前にサンプルを採取した結果、以下のような報告がされました。

「サンプルを採取した15か所のうち、椅子、ベッドの柵、ガラス窓、床、照明のスイッチなど13か所が汚染されていた。トイレでサンプルを採取した5か所のうち3か所(シンク、ドアの取っ手、便器)も汚染されていたことが分かり、便器も伝染経路になり得ることが改めて示された。」(時事通信2020年3月6日)

以上を踏まえると、とくに不特定多数の人が利用するトイレにおいて、「ドアの取っ手」「洗浄ボタン・レバー」「トイレットペーパーホルダー」「便座」「便器のフタ」等は、トイレ使用時に多くの人の手が触れるためウイルスが付着している可能性があると考えられます。そのため、一般的な消毒剤を使用した定期清掃を行うことは効果的であり、その徹底が望まれます。ただ現実的に考えて、トイレを使用するごとに毎回清掃することはできません。自分が使用する直前のタイミングで汚染されてしまうこともありえます。

トイレ後に「手を洗わない」が15.4%

そこで、重要になるのが「手洗い」です。

手洗いするのは当たり前と思う方も多いですが、消費者庁消費者安全課(2015年)の調査によると、全国2000名の男女(16~65歳)に家庭でトイレ後の手洗いについて聞いたところ、手を洗わない割合は合計15.4%という結果でした。

また、手洗いの方法については「学んだことがあるし、覚えている」は26.2%「学んだことはあるが、覚えていない」は28.7%、「学んだことはない」が45.2%でした。

つまり、6~7人に1人の割合で手を洗わない人がいること、手を洗ったとしてもしっかり手洗いができているのは、3割未満ということになります。

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出典・作成:消費者の手洗い等に関する実態調査について(消費者庁消費者安全課)

大腸菌・ウイルスはトイレットペーパーを通過

ショッキングかもしれませんが、排便後にトイレットペーパーでお尻を拭くときに私たちの手に菌やウイルスが付着する可能性はかなり高いです。トイレットペーパーを何枚も重ねて拭いているから大丈夫と思う方もいるかもしれませんが、たとえば、大腸菌を含む液体を少しだけトイレットペーパーに垂らしたところ、35枚通過したという試験結果もあります。ウイルスは大腸菌よりも、もっと小さいので、手につくことを前提に考えておいた方がよいです。

また、下痢便の場合、和便器・洋便器のいずれにおいても肛門周辺を中心にお尻に飛散します。そのため、排便後の肛門拭きとり時に手のひらから手首にかけて付着する可能性が高くなります。さらに、和便器の場合は便器周りの床、洋便器の場合は便座裏にも飛散することが考えられますので、その際は丁寧な掃除が必要です。

洗いすぎによる手荒れには注意

とはいえ、手洗いをやりすぎると皮膚が荒れてしまいますが、これは皮膚の表面にある皮脂層の免疫バリアが壊れてしまうことを意味します。皮膚が荒れた状態が続くと、細菌が皮膚に侵入しやすくなるので逆効果です。

また、皮膚が荒れた状態で消毒薬を噴霧すると、皮膚の細胞に攻撃してしまいさらに荒れてしまいますので、洗いすぎには注意が必要です。

手洗いはタイミングが大切

そのため、効果的なタイミングで正しく手洗いをすることが大切です。

とくに重要なのは「帰宅時」「トイレ後」「食事前」です。もちろん汚れたものを触ってしまったときにも必要です。正しい手洗いの方法は、様々な団体や企業から提案されています。参考までに厚生労働省のものを以下にご紹介します。

洗い残しが多い部分は、爪、指先、指の間、親指と人差し指の間、手首と言われていますので、その部分はより丁寧に洗ってください。また、手洗い後にアルコール消毒する場合は、手をしっかり乾かしてから行ってください。

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出典・作成:厚生労働省

いずれにせよ、リスクはゼロにできませんので、手洗いや咳エチケットなどできることを徹底することが必要です。

衛生習慣は頭で理解するだけでなく、繰り返し実践して身につけることが重要です。そういった意味では、子どものいる家庭では、学校が始まる前に家族で正しい手洗い方法について話し合い、手洗い習慣を身につけておくことが望ましいと思います。

まとめ

トイレの汚れやすい箇所

・ドアの取っ手

・洗浄ボタン・レバー

・トイレットペーパーホルダー

・便座

・便器のフタ

手洗いのタイミング

・帰宅時

・トイレ後

・食事前

手洗いで洗い残しの多い部分

・爪

・指先

・指の間

・親指と人差し指の間

・手首

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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