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発災後、水や食料より早く必要になる 絶対に知っておいてほしいトイレの5つのこと

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
使用禁止になった避難所のトイレ(写真:NPO法人日本トイレ研究所)

2011年3月11日から9年になります。

岩手県のある町で危機管理の指揮を執った方の言葉がずっと心に残っています。

「災害時は、いつもやっていることしかできない」

私たちは、災害時の対応方法を考えるとき、いつもやっていないような特別な方法で対応することを考えてしまいがちです。ですが、食べ慣れていないものは食べにくいですし、いつもベッドで寝ている人が床で寝るのはしんどいです。日頃やっていないことは、いざというときもできないのです。また、突然の変化はストレスになり、体調を崩すことにつながります。

そもそも災害とは強烈な変化への対応が強いられるわけですが、だからこそ日常をいかにして取り戻すかが求められます。

今回は、3.11の教訓を備えに活かすため「絶対に知っておいてほしいトイレの5つのこと」について書きます。

その1.発災後6時間以内に約7割がトイレに行きたくなる

災害時に真っ先にやるべきことは、もちろん自分の命を守ることです。その次は安否確認や水・食料を確保することだと思います。ここで、多くの人が思いつかないことが「トイレ」です。宮城県気仙沼市の小学校の保護者36名に「発災から何時間でトイレに行きたくなりましたか?」と聞いたところ、3時間以内31%、4~6時間36%で、これらをあわせると6時間以内に67%になります。ちなみに熊本地震では6時間以内が73%(大正大学人間学部人間環境学科 岡山朋子氏による調査)でした。これらの結果から、発災後、トイレはすぐに必要になることがわかります。水や食料はもちろん大事ですが、それよりも早くトイレが必要になる、ということを覚えておいてください。

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その2.携帯トイレは在宅避難のマストアイテム

災害時は停電や給排水設備の被害によってトイレが使えなくなります。だからといって、夜間や荒天時に外のトイレに行くのは大変です。残念ながら性暴力被害もありました。携帯トイレを使えば、水が出ない、排水できないときでも自宅のトイレ空間と便器を活用できます。携帯トイレとは便器に取り付ける袋式のトイレで、吸収シートや凝固剤を入れて、うんちとおしっこを安定化させる製品です。(携帯トイレ(製品)はこちらを参考にしてください。性能も公開しています

過去の災害では、水が出ない、もしくは流せないことに気づかずにトイレを使ってしまい、詰まらせてしまうなど、とても不衛生な状態になりました。自宅で避難生活を送るには携帯トイレが不可欠です。

宮城県多賀城市のマンションに住んでいた方の話では、携帯トイレがあったおかげで、津波のときにマンションに避難してこられた方にもトイレを貸すことができたそうです。昨年の台風19号で被害を受けた武蔵小杉(神奈川県川崎市)のタワーマンションでも携帯トイレが活躍しました。(詳細はこちら「タワーマンションから考える都市の防災」

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その3.携帯トイレは1人35回分必要

携帯トイレをいきなり便器に取り付けると、便器の底に溜まっている水が付いてしまい、携帯トイレを交換するときにポタポタと水が垂れてしまいます。そこで、まずは便座を上げて、便器そのものに45リットルくらいのポリ袋を被せ、便座を下ろしてから携帯トイレを取り付けるとよいです(上図参照)。

携帯トイレの必要数は、大雑把に計算すると1人当たり35回分となります。

1日5回(トイレ回数)×7日(備蓄日数)=35回分

これをもとに、2人家族なら70回、3人なら105回と考えてみてください。

1日当たり5回としたのは、「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(内閣府(防災担当))に出てくる、「トイレの平均的な使用回数は、1日5回」という目安を参考にしています。ただし、トイレの回数は人によってちがいますので、1日にトイレに何回行くのか、それぞれが数えてみることが大事です。使った後の携帯トイレの処分方法は自治体に確認することが必要です。多くの場合は可燃ごみになると思います。可燃ごみとして出す場合は、し尿ごみということがわかるようにして出すことを提案します。ごみ収集車で破裂して作業員がし尿を浴びてしまった事例があるからです。

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その4.照明やトイレットペーパー、手指消毒薬が必要

トイレには窓がない場合が多いので、停電時は昼夜問わず真っ暗です。暗いと不安ですし、失敗したら掃除する水もないので大変です。そのため照明が必要です。

照明は空間全体を照らすランタンタイプが良いです。両手がフリーになるヘッドライトも役立ちます。

また、トイレットペーパーも欠かせません。トイレットペーパーの必要量については、前回の記事「新型コロナウイルスで品薄騒動のトイレットペーパー、普段どれだけ必要?」を参考にしてください。さらに、流水による手洗いができないときのため、ウェットティッシュやアルコールを含んだ手指消毒薬の備えも必要です。

その5.排水設備や処理施設が大丈夫なら、バケツで水を流すこともできる

飲用水が確保できていて、排水設備や処理施設が問題ないのであれば、バケツで水を流すことができます。ただし、便器から先の排水管や処理施設に被害があるにもかかわらず流してしまうと、詰まったり下階等から溢れたりすることもあるので注意が必要です。

被災された方から「災害時には飲用水の確保すら難しいということを実感しました。必死に運んだ水をトイレに流すということは、たとえ排水ができたとしても考えられないと思いました」というコメントをお聞きしました。

バケツで水を流す方法や必要な水量は、便器によって異なります。災害時の便器の操作についてはメーカーのホームページを確認してください。バケツで流すことが可能な場合、詰まるリスクを小さくするためトイレットペーパーは流さない方がよいです。なお、ロータンクにお風呂の残り湯等を入れるのは、カビが生えるなどトラブルの原因となるので避けた方がよいと思います。

災害が起きてから考えるのでは間に合いません。災害時にトイレをどう対応するのか、日頃から話し合っておくことが大切です。

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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