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「走るトイレ」は日本に不可欠? 世界に先駆けて導入が叫ばれる3つの理由

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
(写真:アフロ)

2014年に私がイメージしたトイレの進化の中で、「ロボット化」が今注目を集めています。米で年初に開催されている見本市「CES」でTOTOがトイレ一体型の車を披露、アプリを通じてトイレを呼ぶことができるサービスを発表したからです。なぜ「走るトイレ」が必要か、日本への導入可能性を考えてみます。

駅等に以前設置されていたフリーペーパー『R25』(現在は休刊)の2014年11月6日号では絶景、豪華、アートトイレ、有名人の驚きのトイレタイムなど、誌面が魅力的なトイレコンテンツで埋め尽くされた、メインテーマは「至福のトイレ」でした。この時、未来のトイレ展望について取材を受けました。

写真:筆者撮影
写真:筆者撮影

私がトイレの進化に関してあげたキーワードは次の3つです。1つ目は「資源化」で、世界的に枯渇すると言われているリンをし尿から回収するというものです。2つ目は「多様化」で、利用者のニーズに対応してトイレ機能の細分化がすすみ、それと同時に“自分を取り戻し落ち着ける場所”という付加価値が生まれることです。そして3つ目は、今回の原稿のテーマと関連する「ロボット化」です。ロボット化というのは、健康チェック的な機能が備わるという意味もありますが、それ以外に、2020年の東京五輪や災害対策の観点から考えて、必要なときに必要な場所へ移動するトイレを実現してほしい、という意味を込めています。

この取材から5年以上の月日が経ち、2020年1月、日経電子版に「走るトイレ、TOTOがCESで公開『Taas』を目指す」という記事が掲載されました。内容としては、トイレ一体型の車で、スマートフォンアプリを通じて公共トイレが少ないエリアやイベント時にトイレを呼ぶことが出来るという仕組みのようです。サンフランシスコ州で実証実験を進めているとのこと。私がイメージしていたことの実現が目前のようでワクワクしますね。

前述の「走るトイレ」はアメリカでの取り組みですが、私は世界に先駆けて日本国内での社会実験が必要だと思います。タクシーのように街なかをトイレが走っていて、必要なときに来てくれるというのも面白いのですが、空車のトイレが走り続けるのも悩ましいですし、必要なときに満車で来ないというのも困りますよね...

そこで、「走るトイレ」から「必要なときに移動するトイレ」に考え方を少し変えて、日本での導入可能性を考えてみます。

1.街の変化への対応

現代社会は働き方も住み方も様々です。これからは都市部だけでなく魅力的な地方に拠点をつくることも増えてくると思います。つまり、近未来の街づくりは変化の激しい社会ニーズに応えることが必要になるため、トイレも街の状況にあわせて臨機応変に移動できることが求められると思います。たとえば、「この地域は住みやすくて子育て世代が急増したのでベビーカーで利用できる公共トイレがもっと必要だね」となることもあれば、逆に「この地域はコンビニがたくさん出来たから、この公共トイレはもう必要ないね」ということもあるかもしれません。変化に対応するには、簡単に移動もしくは移設できるトイレが必要になります。

2. 老朽化への対応

日本における公共トイレは、新築時がもっとも満足度が高く、残念ながら経年とともに価値が落ちていきます。使えば使うほど味が出るトイレ、なんてことはありえないですよね。劣化や故障と付き合いながら、数十年使い続けるというのが一般的です。ですが、公共トイレがリースやレンタルになったとしたらどうでしょうか?たとえば、30年間もつ公共トイレを3000万円で建築するのではなく、10年間使用するトイレに1000万円を支払い、10年ごとに新たなトイレに更新するという感じです。時代のニーズや価値観も変わっていくため、公共トイレもどんどんアップデートすることが必要だと思います。

3.災害やイベントへの対応

2018年は西日本豪雨、大阪北部地震、北海道胆振東部地震、そして2019年は台風15号・19号など、近年は水害や地震が頻発しています。災害時に真っ先に必要になるのはトイレです。熊本地震では発災後6時間以内に約7割の人がトイレに行きたくなったというデータもあります。水や食料よりも早くトイレが必要になると言っても過言ではありません。トイレがなかったり不便だと、出来るだけトイレに行かなくても済むように水分摂取を控えがちになります。そうすると、脱水してエコノミークラス症候群等で命を落としてしまうことにもつながります。もし、街中のトイレが移動式だったとしたら、被災地にスピーディにトイレを集結させることが出来ます。災害時に必要な移動式トイレを日頃から使いながら街中にストックしていることになるのです。

地震後、何時間でトイレに行きたくなったか? 調査:阪神淡路大震災・尼崎トイレ探検隊/東日本大震災・日本トイレ研究所/熊本地震・岡山朋子(大正大学人間学部人間環境学科)
地震後、何時間でトイレに行きたくなったか? 調査:阪神淡路大震災・尼崎トイレ探検隊/東日本大震災・日本トイレ研究所/熊本地震・岡山朋子(大正大学人間学部人間環境学科)

今年は、オリンピック・パラリンピックが開催されます。競技会場周辺には多くの人が集まるので、臨時の飲食ゾーンが出現するかもしれませんし、パブリックビューイングのようなものが設置されることも考えられます。

このような場所には、一時的にたくさんのトイレが必要になります。このときのためだけにトイレを建設するのは効率的ではありません。他のエリアから快適な移動式トイレが集結できればよいと思いませんか?移動式トイレに排泄されたし尿は、基本的には溜めてくみ取るか下水道に流すことになります。くみ取るのであれば、バキュームカーの手配と運用を考える必要があります。一方で、国土交通省下水道部は災害時用のトイレとして、マンホールトイレの整備をすすめています。マンホールトイレというのは、平時に下水道管を敷地内に引き込んでおき、地上入口にマンホールトイレ専用のマンホールを設けておきます。災害時にはマンホールの蓋を開け、そこにトイレを臨時に設置するものです。

この仕組みを応用すれば、マンホールトイレを設置するところに移動式トイレをもってきて、臨時に給排水工事をしてしまえば、水洗トイレの出来上がりです。このような考え方を競技会場やイベント会場の設計に事前に組み込むことが必要です。そうすれば、災害時も同様の運用を行うことが出来ます。イベントを開催するたびに災害時のトイレ訓練を実施するようなものなので、防災力も高まります。もちろん、下水道が被災した場合はそのバックアップは必要になります。

札幌でのYOSAKOIソーラン祭りでは、コンテナ型のトイレを設置し、下水道に仮設配管で接続しています(写真)。トイレが移動式になることは、時代のニーズだと感じます。快適で誰もが安心して使用できるトイレが必要なところに移動する。そんな社会は目前です。自然災害が多い日本、そして多様性社会を目指す日本だからこそ、世界に先駆けてトイレに困らない社会が実現することを望みます。

YOSAKOIソーラン祭りのトイレの外観・札幌市大通公園 写真提供:ウォレットジャパン(株)
YOSAKOIソーラン祭りのトイレの外観・札幌市大通公園 写真提供:ウォレットジャパン(株)
特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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