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気候変動「100年観測所」が問うこと

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
2020年1月の日本の平均気温は122年間で最も高くなった(著者作成)

 1月の日本の平均気温は史上最高を記録した。気候変動の今と未来を知るために欠かせないのが長期的な気象観測データだ。WMOが「100年観測所」を認定する意味とは?

過去122年間で最も暖かい1月

 2020年1月の日本の平均気温は基準値を2.27度上回り、1898年以降の122年間で最も高くなりました。これまでの最高は1989年のプラス1.84度で、先月は統計史上初めて基準値との差が2度を超えました。

日本の1月平均気温偏差の経年変化グラフ、1898〜2020年(著者作成)
日本の1月平均気温偏差の経年変化グラフ、1898〜2020年(著者作成)

 日本の平均気温は長い期間、気象観測が行われている場所で、都市化など環境の変化が小さく、地域的な偏りのない、全国15か所の平均気温から求められています。

「東京」は4回移転

 長期的な気象データは天気予報と気候変動の土台となる重要なものです。しかし、人の一生を越える長い間、同じ場所で気象観測を続けることはとても難しい。

 たとえば「東京」の気象観測は1875年(明治8年)、赤坂区溜池葵町(現在の東京都港区虎ノ門)で始まり、その後、皇居北桔橋門付近、KKRホテル東京付近、大手町、そして北の丸公園と4回にわたって移転しました。

 皇居周辺のわずかな移転と思われるかもしれませんが、大手町と北の丸公園では環境の違いから、年平均気温が1度ほど変化したのです。これは東京都で、この100年間に起こった気候変動の半分に匹敵する値です。観測する場所を変えただけでも、気象観測データは大きく影響を受けてしまうことがわかります。

「100年観測所」 日本で唯一、石垣島

 長期的な気象観測データは人類のかけがえのない文化的で、科学的な遺産であるとして、世界気象機関(WMO)は2017年に「100年観測所」を認定しました。

世界気象機関(WMO)が認定する「100年観測所」の紹介ページ
世界気象機関(WMO)が認定する「100年観測所」の紹介ページ

 「100年観測所」とは100年以上にわたり同じ場所で、途切れることなく気象観測が続けられている観測所のことで、現在は世界47か国140か所が選ばれています。日本で唯一、認定を受けているのは1896年から気象観測が行われている石垣島地方気象台で、日本の平均気温を求める際の15か所にも選ばれています。

ストックホルム観測所は1756年から

 一方、世界には250年を超える観測所もあります。スウェーデンのストックホルム観測所では気象観測データが1756年から現存するそう。1756年といえば、日本では江戸時代中期、田沼意次が活躍した時代です。

 これら観測所以外にも、世界には認定を待っている観測所がいくつもあります。一方、日本では石垣島地方気象台に続く観測所は見当たりません。気候変動や温暖化は一朝一夕でわかることではない。短期的な結果を求めやすい現代において、「100年観測所」が問いかけるものは何か、と考えさせられました。

【参考資料】

気象庁ホームページ:日本の月平均気温

気象庁観測部:「東京」の観測地点の移転について、2014年11月14日

東京管区気象台:「気候変化レポート2018」関東甲信・北陸・東海地方、2019年3月

気象庁:石垣島地方気象台が人事院総裁賞を受賞、2020年2月6日

世界気象機関(WMO):Centennial Observing Stations

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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