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インド洋ダイポールモード現象 豪の森林火災と日本の暖冬

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
オーストラリアで大規模な森林火災 煙による大気汚染も深刻に(写真:ロイター/アフロ)

 オーストラリアで続く大規模な森林火災。インド洋西部の海面水温が上昇するインド洋ダイポールモード現象が発生し、オーストラリアだけでなく、日本にも影響が広がっている。

豪で記録的な高温と干ばつ

 南半球のオーストラリアはこの夏、観測史上最も暑い夏になりました。1月24日はアデレードで最高気温46.6度を記録、都市部でも極端な暑さに見舞われました。また、1月から10月までの降水量はオーストラリア全体で平年を34パーセント下回り、1902年以来最も少なくなったそうです。

 この極端な雨不足により、ニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州、南オーストラリア州で深刻な森林火災が発生しています。大規模な火災による煙(赤破線で囲った部分)は日本の気象衛星ひまわりでも捉えられました。

気象衛星ひまわりが捉えたオーストラリア森林火災の煙(2019年11月21日、ウェザーマップ)
気象衛星ひまわりが捉えたオーストラリア森林火災の煙(2019年11月21日、ウェザーマップ)

 

 また、米航空宇宙局(NASA)の専門家はオーストラリアから南太平洋に流れだす煙を追跡し、南アメリカから大西洋まで達したと述べています。

インド洋ダイポールモード現象が発生

 この異常とも言えるオーストラリアの雨不足はインド洋の海面水温に原因があります。エルニーニョ現象が終息したこの春以降も、インド洋西部の海面水温は基準値より高い状態が続いていて、それにより発生した上昇気流が乾いた空気となって、インドネシアからオーストラリアに吹き降り、雨が降りにくい状況を作り出しているのです。

オーストラリアの干ばつと日本の暖冬をインド洋ダイポールモード現象で説明した模式図(著者作成)
オーストラリアの干ばつと日本の暖冬をインド洋ダイポールモード現象で説明した模式図(著者作成)

 インド洋ではエルニーニョ/ラニーニャ現象と同じように、西部と東部の海面水温がシーソーのように変動することが知られていて、これをインド洋ダイポールモード現象(Indian Ocean Dipole)と言います。

日本は暖冬に

 このインド洋ダイポールモード現象は日本の天候にも影響します。インド洋西部で海面水温が高い場合、雲が通常よりも活発に発生し、上昇気流が強められます。この強い上昇気流はユーラシア大陸を西から東に流れる偏西風の流れを変え、偏西風は日本の北を流れやすくなるのです。

 偏西風が日本の北を流れると、暖かい空気が日本列島を覆い、全国的に気温が高くなります。この秋の記録的な高温も、この冬の暖冬予想も、元をたどればインド洋にたどり着きます。

向こう1か月(12月7日~1月6日)の平均気温は全国的に平年を上回る可能性が高い(気象庁ホームページより)
向こう1か月(12月7日~1月6日)の平均気温は全国的に平年を上回る可能性が高い(気象庁ホームページより)

 オーストラリア気象局はインド洋ダイポールモード現象が当初の予測より長引き、来年1月まで続く見通しを示しています。日本も年始にかけて、強い冬型の気圧配置が現れにくく、全国的に気温が高くなりやすいとみられています。

【参考資料】

気象庁:1か月予報、2019年12月5日発表

オーストラリア気象局:ENSO Wrap-Up Current state of the Pacific and Indian oceans、26 November 2019

オーストラリア気象局:Special Climate Statement 70 update drought conditions in Australia and impact on water resources in the Murray-Darling Basin、29 November 2019

世界気象機関(WMO):2019 concludes a decade of exceptional global heat and high-impact weather、3 December 2019

世界気象機関(WMO):Australia hit by heat and fires、21 November 2019

米航空宇宙局(NASA):NASA's Terra Satellite Sees Fire and Smoke from Devastating Bushfires in Australia、November 14 2019

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは117冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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