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5月8日は世界卵巣がんデーです

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
卵巣がんのシンボルはティールリボン。みんなで一緒に卵巣がんに立ち向かおう。

5月8日は世界卵巣がんデー

 卵巣がんは女性特有のがんで、罹患率が他のがんより低いため、見過ごされがちです。しかし世界保健機関(WHO)のがん専門研究機関IARCがまとめた2020年のがん統計GLOBOCANによれば、世界で毎年31万人以上の女性が卵巣がんの診断を受け、20万人以上が命を失っています(注1)。

 それというのも卵巣がんには有効なスクリーニング検査がなく(子宮がん検診では発見できません!)、自覚症状があいまいなために進行期で発見されることが多く、死亡率が高いがんでもあるからです。その一方で治療に有効な薬剤も多く、早期に発見できれば高い生存率を見込めます

 そんな卵巣がんについて多くの女性に知ってもらい、ともに卵巣がん撲滅に向けて取り組むべく、各国の卵巣がん支援団体が協力して「5月8日 世界卵巣がんデー」を2013年にスタートさせました。今では世界のさまざまな地域で卵巣がん患者を支える200近い団体が参加。日本の卵巣がん体験者の会スマイリー(片木美穂代表)も当初から参加し、卵巣がんに関する様々な情報提供から患者と家族からの相談受付など、幅広い患者支援活動をしています(注2)。

筆者の卵巣がん体験

 筆者が卵巣がんに罹患し、米国で治療をしたのは2008年。急にお腹まわりが太くなり、食欲はあるのに膨満感で一度にたくさん食べられないと感じていました。それ以外には特に不調を感じなかったものの、ふと手でお腹をさわると何やら固い大きなしこりのような感触が。婦人科専門医からは「卵巣腫瘍は手術してみないと確定できないけど、年齢的にも良性の可能性もある」と言われました。

 インターネットでも卵巣腫瘍の大半は良性で、卵巣がんの発症年齢は50歳以上が多く、日本人には卵巣がんが少ないといった情報を目にして、まだ43歳だった私は楽観的な気持ちで手術を受けました。ところが手術の結果、比較的早期ではあるものの骨盤内に転移のある卵巣がんであることがわかり、術後は4カ月にわたり化学療法を受けました。

 当時は知らなかったのですが、筆者は遺伝子変異のために大腸がんや婦人科がんを発症しやすいリンチ症候群だったのです。BRCAという遺伝子変異も卵巣がんのリスクを高めることが知られていますし、遺伝子変異がなくとも血縁家族に卵巣がん、子宮体がん、乳がん、大腸がんの病歴がある人は、気をつけておいた方がいいでしょう。

日本の卵巣がん罹患率は上昇傾向?

 以前は欧米に比べ日本では卵巣がんが少なかったのですが、今や日本の罹患率は欧米より高いようです。GLOBOCANの統計をみると、米国で新規に卵巣がん診断を受けるのは人口10万人あたり8.1例で、西ヨーロッパも8例以下の国々が大半ですが、日本では人口10万人あたり9.3例です。ただし死亡率は、日本の方が欧米より低い状況です(注3)。

 卵巣がんの治療は手術と化学療法の組み合わせが基本です。一般的に抗がん剤がよく効きますが、再発してしまう場合も少なくありません。しかしこの10年で再発卵巣がん治療向けに、がん細胞に栄養を与える血管が作られるのを妨げる分子標的薬のベバシズマブ(販売名:アバスチン)、損傷したDNAの修復を助ける酵素を阻害してがん細胞を死滅させるPARP阻害剤のオラパリブ(販売名:リムパーザ)など、新たなタイプの薬も登場しています。

 また昨年11月には、新たに葉酸受容体α(FRα)陽性プラチナ抵抗性で治療歴のある卵巣がん患者に対する新薬も、米国食品医薬品局の承認を受けました(日本では未承認)(注4)。5月3日には、このミルベツキシマブ ソラブタンシン-gynx(販売名:Elahere、ImmunoGen, Inc社)という新薬の確認試験である臨床試験で、既存の化学療法と比べ無増悪生存率、客観的奏効率、全生存率がすべて改善したという明るいニュースが発表されました(注5)。

正しい情報で卵巣がんから身を守る

 卵巣がんは早期に発見できれば治療しやすく治癒も期待できますが、今も確立された検査方法がありません。そのため卵巣がんのリスク要因や自覚症状を心にとめておき、気になることがあれば早めに医療機関に相談することが大切です。

世界卵巣がん連盟が2023年世界卵巣がんデー啓発資料として作成
世界卵巣がん連盟が2023年世界卵巣がんデー啓発資料として作成

 健康で医療機関とはあまり接点がなく、敷居が高いという人は、前述の卵巣がん体験者の会スマイリーのウェブサイトからも患者目線でのわかりやすい情報が得られます。国立がん研究センターのがん情報サービスや日本婦人科腫瘍学会のウェブサイトにも、一般向け情報が掲載されています(注6)。

 できれば気軽に相談できるかかりつけの婦人科医を持つと心強いのですが、そうでない場合は全国のがん診療連携拠点病院や地域がん診療病院に設置されている「がん相談支援センター」が活用できます。ここではその病院にかかっていなくとも、がん診断を受けていなくとも、誰でも無料で匿名でも電話や面談で相談したり、情報収集をしたりすることができます(注7)。

 5月8日の世界卵巣がんデーのテーマは「一人の女性も取り残さない」。インターネットのおかげで、世界中で情報交換をしたり、繋がったりすることが容易になりました。その反面、古い情報や間違った情報も氾濫しているので、信頼できる情報元から正確な情報を得ることがとても大切です。

 世界卵巣がんデーのあるこの5月、母娘で、姉妹で、女友達との間で、卵巣がんについて話したり、卵巣がんについての知識を共有したりすることで、一人の女性も取り残さずに、卵巣がんで失われる命を減らしていくことができるはずです。

関連リンク

注1 世界卵巣がん連盟 2020年卵巣がん罹患率、死亡率等のデータ概要(英文リンク)

注2 卵巣がん体験者の会スマイリー

注3 IARCのCancer Today統計サイト(英文リンク)

   IARCのGLOBACAN統計 卵巣がんのデータ、グラフ(英文リンク)

注4 FDAが卵巣/卵管/腹膜がんにミルベツキシマブ ソラブタンシンを迅速承認 | がん治療・癌の最新情報リファレンス (cancerit.jp)

注5 ImmunoGen社の葉酸受容体α(FRα)陽性プラチナ抵抗性患者向けのElahere臨床試験に関するプレスリリース(英文リンク)

注6 卵巣がん・卵管がん 全ページ:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)

   公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会 (jsgo.or.jp)の卵巣がんに関する患者向け動画

注7 誰でも無料で利用できるがんに関する相談窓口「がん相談支援センター」

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

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