北米でのHPVワクチン効果と、HPV関連がん予防から取り残される日本

子宮頸がんやHPV関連がんを予防できるワクチンがあるのです。(写真:アフロ)

その情報元、信頼できる?

 れいわ新選組の山本太郎代表が、10月18日に鹿児島で行った街頭演説で、子宮頸がんワクチンについての質問に答えている様子をYouTubeで見ました。最初に「子宮頸がんワクチンが今、現在どのような状況にあるかというアップデートは、私はできていません」と言ったので、それで話は終わりだなと思ったのですが、そこから驚きのプレゼンテーションが始まりました。

 「子宮頚がんワクチンの有効性は非常に低く、他のワクチンに比べて重篤な副反応を起こす割合が高い。子宮頸がん検診とDNA検査でほぼ完全に予防できるので、子宮頸がんワクチンは必要ない」という内容で、薬剤師で元参議院議員でもある元秘書の主張を説明しはじめたのです。

 政治家が、子宮頸がんや感染症予防の専門家ではない個人の主張を、確信をもって大衆に説明するという行為に当惑しました。しかもWHO(世界保健機関)をはじめ、CDC(米国疾病予防センター)やEMA(欧州医薬庁)など世界中の医療専門機関、そしてHPVワクチン推奨の再開を求める日本の産科婦人科学会の認識(注1)とは正反対の主張なのです。

 日本でのHPVワクチンをめぐる現状は、先日もYahoo!ニュース-個人で感染症専門医の忽那賢志さんが、「国内のHPVワクチンの現状と課題 感染症医の視点」で、わかりやすく報告されていましたので、私は北米の現状についてアップデートしたいと思います。

HPVワクチンの有効性を示す研究結果

 米国では2006年から、HPVワクチンの定期接種を推奨してきました。そして今年2月、実際の有効性を見るために、HPVワクチンが標的とする16型、18型による子宮頚部異形成(前がん病変)がワクチンによって減ったかどうかを調べた研究結果が、米国がん学会の学術誌で発表されました。(注2)

 対象は、2008年から2014年に、子宮頸がんにつながる「前がん病変」の診断を受けた18歳から39歳の女性です。調査した37種のHPVのうち、HPV16型、18型による異形成件数は、推計で2008年の1235件から、2014年には819件に減ったことがわかりました。またHPVワクチン接種を受けた女性で、16型、18型陽性の前がん病変があった割合は55.2%から33.3%に大きく下がっていました。逆に接種を受けていない人では、51.0%から47.3%に若干、下がっただけでした。

 この研究を行ったCDCのマクラング博士は、HPVワクチン接種者の中で16型、18型陽性の人がいる理由について、この調査対象者では大部分がすでに性的活動を始めている20代前半でワクチン接種を受けていたことをあげています。逆に、ワクチン接種を受けていない人の間でも前がん病変保有率が下がったのは、「集団免疫」(注3)による恩恵を指摘しています。

 同博士はこの結果について、「米国の若い女性に関し、HPVワクチンが子宮頸がんを予防することを明確に示す証拠。HPVに感染する前の10代前半でワクチン接種する人が増えているので、今後はさらに効果が明らかになるでしょう」とコメントしています。

 また2008年から学校での任意のHPVワクチン接種に取り組んだカナダのブリティッシュ・コロンビア州でも、ワクチン接種を受けた人は、受けていない人と比べて前がん病変の発生が57%低かったという研究報告が、10月21日に発表されました。(注4)

子宮頚がん以外の予防効果も

 子宮頸がんだけでなく、圧倒的に男性に多い中咽頭がんや、肛門、膣、陰茎などのがんもHPVに関連します。米国でも以前は日本で使っている2価、4価ワクチンを使っていましたが、2017年からは7種類の発がん性HPVと、尖圭コンジローマ(性器のいぼ)を起こす2種類のHPV感染を予防する9価ガーダシル(日本未承認)が使われています。

 2011年からは男子も接種の対象とし、接種回数も男女にかかわらず、11歳~12歳の小児、遅くとも15歳未満で、2回接種(6カ月から12カ月の間隔をあける)が推奨されています。15歳から26歳までの人は3回接種ですが、HPV感染は性交により起こるので、性的に活発になる前の10代初めに接種することが最も効果的です。

 CDCの罹患率・死亡率週報によれば、2012から2016年にかけて、HPVが引き起こすがんは各年で推計平均34,800件。そのうち最も多いがんは子宮頸がん(9,700件)と中咽頭がん(12,600件)だったそうです。またこの推計34,800件のがんのうち、92%がHPVワクチンが対象とするHPV型によるもので、HPVによるがんの撲滅に向けて、接種率を80%にあげる取り組みを続けています。(注5)

 学童へのHPVワクチン接種を義務づけている州もいくつかあり、ハワイ州でも2020年7月から男女を対象に接種義務を開始することになっています。また成人についても、すでにある型のHPV感染をしていても、再感染や他の型のHPV感染を予防できることから、昨年10月にFDA(食品医薬品局)は、27歳から45歳の成人についても、9価ガーダシルの接種を承認しました。

日本では若い女性の子宮頸がんが増加中

 一方、今年1月、大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学の研究者らは、米国がん学会の「Cancer Research」誌に、日本の子宮頸がんの動向に関する研究を発表しました。2000年以降、日本の子宮頸がん患者数が増えているという内容です。

 また子宮頸がんのうち特に治療が奏効にしにくい腺癌では、30歳代以下の若年層で増加していることが分かりました。子宮頸部のみにがんが限定されている場合は、近年、相対生存率があがっているのに対し、若年層では放射性治療が効きにくいことが判明したそうです。(注6)

 国立がんセンターの2019年のがん統計によれば、1万5000人が新たに子宮頸がんと診断され、2900人が子宮頸がんで命を落とすという予測です。(注7)

 山本氏は街頭演説で、子宮頸がん検診で予防できるという説を紹介しましたが、検診でできることは異常を早期に発見することであり、予防ではありません。前がん病変の段階で発見できたとしても、「ひょっとしたらがんになるかも」といった不安を抱えながら経過観察を続けることになります。手術が必要になる場合もあるのです。

 また現実問題として、日本の子宮頸がん検診率は他国と比べても、非常に低いのです。米国の子宮頸がん検診の受診率は80%以上ですが、日本では40%台前半です。(注8)

自分の体は自分で守る

 日本でのワクチン接種率は今や1%以下です。副反応の調査が行われてきた一方で、米国等で使われている2回の接種で、より多くのHPV型を予防できる9価ガーダシルは導入されていません。子宮頸がん検診の受診率も低いままです。

 「少しでもリスクがあるものを薦めるのは無責任」という意見がありますが、予防接種にせよ、治療にせよ、100%リスクがないものはありません。リスクより利益が大幅に上回るかどうか、リスクをどのように最小限に抑えることができるか、より効果的なワクチンはないかなど、世界中の医師や医療研究者が継続的に研究を重ねています。

 政治家や行政が推奨するから「安全で効果がある」のではなく、こうした幅広い研究で安全性や効果に対する多くのエビデンスを客観的に評価して、諸外国ではHPVワクチン接種率アップに取り組んでいるのです。

 日本でもHPVワクチンの定期接種という位置づけに変わりはなく、小学校6生から高校1年生はHPVワクチンを無料で接種できます。

 「リスクがあるものは怖い」というのは自然な感情ですが、恐怖にかられると、肝心の目的を見失い、幅広く専門家の意見を聞こうとか、客観的な情報を収集してみようという気持ちも薄れてしまいます。でも、自分の体を守る責任は、結局は自分で引き受けるしかないし、自分の子供の健康も親が真剣に考えるしかないと思います。

 知り合いだから、自分が好感を持っている人からの情報だからと、耳を傾けてしまう前に、不安があるなら専門の教育を受けて、医療現場や医療研究の場でその問題について多くの事例にかかわってきた専門家の話を聞いてみましょう。かかりつけの小児科、婦人科の医師も相談にのってくれるはずです。

 私は子宮頸がんではありませんが、卵巣がんにかかり、44歳の誕生日に手術で子宮と卵巣を失いました。長い化学療法を経て、幸運にも健康を取り戻すことができましたが、「いつ再発するか」という不安感は常にあるのです。非常に高い確率で安全にがんを予防できることは、早期発見で治療を受ける幸運より、はるかに素晴らしいことだと私は思います。

関連リンク

注1 日本産科婦人科学会のHPVワクチン接種の早期勧奨再開を強く求める声明

注2 HPVワクチン導入以後、子宮頸がんにつながるHPVの2つの型が減少(英文リンク)

注3 HPVワクチンで、前がん病変の発症率が50%以上下がる(カナダ)(英文リンク)

注4 2009年から2016年までで、HPVワクチンを受けていない男性の口腔内HPV感染が37%下がったのは、HPVワクチンの「集団免疫」の恩恵の可能性という研究結果 (英語リンク)

注5 HPVが引き起こすがんの推計92%はワクチンにより予防可能(CDC、海外がん医療情報リファレンス翻訳)

注6 日本における子宮頸がんの動向が明らかに(大阪大学)

注7 2019年のがん統計予測(国立がん研究センター)

注8 低い日本の検診率(厚生労働省)