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果汁100%でもダメか。仏の研究で、甘い飲料とがんリスクの関連が示される

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
100%オレンジジュースは、健康的じゃない?(写真:アフロ)

そのフラペチーノ、ちょっと待った

 コーラやエネルギー・ドリンク、フラペチーノなど、気がついたらけっこう甘い飲み物を飲んでいるという人も多いと思う。砂糖の取り過ぎは肥満の原因になり、肥満とがんリスクの関係は過去の研究で指摘されてきた。

 これまでは砂糖とがんの直接的な関連を示す研究はなかったが、先ごろ、砂糖入りの飲料摂取で、がんの発症リスクが上がることを示す研究結果が、英医学誌のブリティシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)に掲載された。(注1)

果汁100%でも油断しちゃダメ

 健康的と思われている果汁100%のフルーツ・ジュースだけしか飲まないという人も、残念ながら安心はできない。がん発症リスクとの関連は、砂糖入り飲料も、果汁100%のフルーツ・ジュースも同じであることがわかったからだ。

 約10万の成人(79%は女性)を対象としたこのフランスの研究では、砂糖入り飲料と、がん全般および乳がんや前立腺がん、大腸がんなど一部のがんの発症との関連を調査した。試験参加者がオンライン上で回答した飲食記録をもとに、それぞれの1日の砂糖入り飲料(100%果汁飲料を含む)の摂取量を計算した。

 最長で9年にわたる追跡調査を行い、砂糖入り飲料の1日の消費量と試験参加者のがん発症件数の関連を調べた。この調査期間中にがん発症が診断された件数は2193件で、うち693件が乳がんだった。果汁飲料を含む砂糖入り飲料を1日あたり100ミリリットル多く摂取することで、全体的ながん発症リスクが18%上昇し、乳がんではリスクが22%上昇していた。この調査では、その他のがんリスクとは関連が見られなかった。

100%フルーツ・ジュースもソーダも砂糖の含有量はほぼ同じ?

 健康的なイメージがある100%果汁のフルーツジュースにも、砂糖入り飲料と同じくらいの糖分が含まれている。この調査では、100%果汁のフルーツジュースに含まれる砂糖の量は中央値で100ミリリットルあたり10.3グラム、それ以外の砂糖入り飲料では10.7グラムとほぼ同等だった。

 缶ジュースの小さなものでも160ミリリットル、コーラなどの炭酸飲料だと一缶で350ミリリットルだから、のどが渇いたといって一缶飲み干すと、意識せずに糖分を沢山とっていることになる。

 また低糖をうたう飲料でも、がんリスクの上昇が認められた。研究者は、低糖だとより多くの量を飲んでしまい、結局は砂糖の摂取量が変らないためと推測している。

 その一方で、糖分が入っていない飲料や茶、コーヒーの摂取、および人工甘味料を使った飲料では、がん発症リスクとの関連は見られなかった。ただし、人工甘味料の飲料は例が少なかったため決定的な結論には至らないという。

内臓脂肪や血糖の上昇はNG

 これまでの研究で、肥満は乳がん、大腸がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がんなど多数のがん発症リスクを上昇させることが示されている。今回のフランスの研究は観察研究なので、ここから砂糖ががんの原因になるといった因果関係を導くことはできない。

 しかし研究者らは、糖分の取りすぎで肝臓やすい臓など重要な臓器のまわりにつく内臓脂肪が増える影響や、急な血糖の上昇とそれに伴う炎症反応なども、がん発症リスク上昇に関連する可能性があるとしている。

砂糖断ちしてもがんは縮小しない

 一方、よく「がん細胞は砂糖で増殖する」とか、「砂糖を食べなければ、がん細胞を縮小できる」といった間違った情報をもとに食事制限を考える人もいるが、米国立がん研究所(NCI)のウェブサイトでは、次のように説明されている。

研究では、がん細胞は、正常細胞よりも糖分(ブドウ糖)を消費することが示されていますが、糖分を摂取することによりがんが進行することや、糖分の摂取をやめることでがんが縮小、消滅することを示した研究はありません。ただし、糖分が多い食事は過度の体重増加の原因になり得ます。がんによっては肥満が発症リスクの増加に関連します。

出典:がんに関するよくある迷信と誤解、米国国立がん研究所ファクトシートより

 暑くなるにつれて、十分な水分補給を心掛けたいが、基本は水や無糖の飲料にしておいたほうがよさそうだ。

(注1)BMJに発表された砂糖入り飲料の摂取とがんリスク研究(英文リンク)

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

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