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誰のせいでもない。がんで家族を失った子供たちへ

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
子供は悲しみを言葉で十分に表現できない(写真:アフロ)

家族を失った子供のサポート

私もお世話になったGilda’s Club(ギルダズ・クラブ)は、アメリカのがんサポート団体の代表的な存在で、がん患者のみならず、何らかの形でがんに影響を受けた家族らが集うことの出来る場所だ。テーマ別に、臨床心理士や社会福祉士が率いる「おしゃべり会」を定期的を行い、家族や友人ではなく、同じような立場にある人と安心して話せる場と心理的なサポートを提供している。

がん患者へのサポートはもちろんだが、がんで愛する人を失った家族、そして子供たちに特化したサポート活動もある。がんで家族を失い悲嘆にくれている人に、どう声をかけてよいかわからないと、誰もがとまどうだろう。ましてや親や兄弟を失った子供たちにどう接したらよいのか。

米国国立がんセンター(NCI)によれば、深い悲しみに直面した時の子供の悲しみのプロセスは、大人とは違う。また子供といっても、年齢によって発達や病気や死に関する知識も違うので、やみくもに子供の気をそらすような対応ではなく、年齢や性格に応じた対話が必要だという。またできるだけ正直に、正確な表現で子供にわかる言葉で、質問に答えることをすすめている。

幼い子供には刺激が強いからと「死んだ」と言わずに、「遠いところに行った」とか、「眠っている」という説明をすると、その言葉通りに理解した子供は、なぜ帰ってこないのか、なぜ起きないのかと、混乱してしまう。むしろ「死」は一時的な現象ではないことを説明し、お葬式などの儀式にも参加することで、死に対する子供の理解を深めることが重要だという。

誰のせいでもない

特に子供は何か悪いことが起こると、自分の「マジカル・パワー(魔法の力)」でそうなったと思い込んでしまうことがある。自分が「いなくなっちゃえ」と言ったから、お父さんは死んでいなくなってしまったと考えることがある。また風邪のような軽い病気と、がんのような深刻な病気の区別が理解できず、風邪でも病気の人はみな死んでしまう、あるいは、がんがうつってしまうと誤解することもある。

年齢にかかわらず、ほとんどの子供が死について次の3つの不安を抱く。

  • 私のせいで死んじゃったの?
  • 私も同じようになるの?
  • 誰が私の面倒をみてくれるの?

死は誰のせいでもないこと、むやみに死を恐れる必要はないこと、見捨てられる心配はないことを繰り返し伝えて、まずは子供が心身ともに安心できる環境を整えることが第一歩だ。

日本語にも訳されているので、NCIの悲嘆、死別、喪失への対処を参照してほしい(左側目次の「子供と悲嘆」をクリックして下さい)。

Gilda’s Clubの講演会で、10代で母親をがんで失った体験を話してくれたニコールさんは、「母に対して何もできない自責の念に苦しみ、がんのために家族が崩壊するのを最も恐れていました。でも母がどのような状態でも父が最後まで一生懸命支える姿を見て、家族の絆の強さを感じることができた。それで安心して、なんとかやっていけると思うようになった」と話した。ニコールさんは今、Gilda’s Clubのボランティアとして、同じようにがんに影響を受けた子供たちの支援に携わっている。

子供の悲しみに寄り添い続けて

家族を失った後の子供は、悲しんでいたかと思えば、その直後には遊んでいたりして、理解できていないのか、あるいはもう悲しみを乗り越えたのかと誤解されることがある。しかしこれは、深い悲しみなど強い感情を長期的に抱えないよう子供自身の心の防御作用が働いているためだという。

大人と違い、子供は悲しみ、死への恐怖、怒り、不安といった感情を十分に言葉で表現できない。赤ちゃん返りや、人にまとわりつく、食事や睡眠の変化、感情の爆発、病気や死に対する過度な心配といった形で現れることもあるという。

アメリカではGilda’s Clubなどのサポート団体や学校のカウンセラーなどを含め、こうした子供たちには絵を描く、スクラップブックをつくるといったアートプロジェクトやゲームを活用しながら、子供たちが状況を理解し、自分の感情を表現しながら悲嘆や喪失感に対処できるよう支援している。

また子供たちは何年にもわたり、何度も悲しみにくれることを、私達は覚えておく必要がある。学校で優しい声をかけてくれる人がいても、友だちはいつも通りの家族が待つ家に帰っていく。こうした日常生活のささいな場面で孤立感を深めてしまうこともある。家族の行事、卒業式などの学校行事、結婚式など人生の節目を迎えるたびに、失った家族を悲しみとともに思い出す。

つらいけれど、家族が時間をかけてお互いに寄り添い、助け合いながら悲しみを乗り越えていくしかないのだろう。

Gilda’s Clubは、アメリカのテレビ番組サタデーナイトライブのレギュラーだったギルダ・ラドナーさんをしのんで作られたがん患者支援団体だ。ギルダさんは1989年、42歳の若さで卵巣がんで亡くなった。闘病中、彼女が自宅の居間を開放してがん患者のおしゃべり会をしていたのを継承し、夫のコメディ俳優ジーン・ワイルダーさんとギルダさんのサイコセラピストが創設した。現在はCancer Support Community(日本支部はがんサポートコミュニティー)と合体して、各地の支部およびインターネットを介した全米サービスで、がん患者とその家族のサポート活動を行っている。

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

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