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小林麻央さんも活用! がん闘病ブログは本人のQOL向上も

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
ブログはがんサバイバーの心の支え(写真:アフロ)

がんサバイバーを孤独から救うブログ

乳がんで闘病中でフリーアナウンサー、小林麻央さんのブログ「KOKORO.」が大きな反響を呼んでいる。何万人もの人々から、毎日、共感や応援の声が寄せられている。

がんという病気の診断を受けた日から、人はがんサバイバーになる。同じ自分、同じ体なのに、診断を受ける前とは、違う人生に迷い込んでしまったように感じる。

体調が悪くて外出がままならない時の閉塞感、病気や治療に対する不安を他の人に理解してもらえない苛立ち、診断を受ける前まで当たり前にこなしていた家族として、社会の一員としての責任を果たせない自分を無力に感じ、罪悪感にさいなまれる。そしてボディブローのように効いてくるのが、深い孤独感だ。

しかしソーシャル・メディアは、そんながんサバイバーたちがより多くの人々とつながり、孤独感を癒す手段を与えてくれた。小林麻央さんが今年9月から開始した闘病ブログもその一つだ。最初のエントリー「なりたい自分になる」には、18万人以上が「いいね」を押し、1万6千人がコメントを寄せた。その日、2回目のエントリーで、麻央さん自身もこう書いている。

こんなにたくさんの方が

読んで下さり、驚いています。

顔はみえなくても

言葉の中に、

優しさを感じ、

愛を感じ、

人生を感じ、

感動しています。。。

(中略)

人と人。今日は、たくさんの皆様と

繋がれて、勇気づけられました。

うれしいです。ありがとうございます。

出典:小林麻央のオフィシャルブログ 2016-09-01から抜粋

ブログで前向きに

アメリカでも、以前から多くのがんサバイバーたちが闘病ブログを活用してきた。米国国立がん研究所(NCI)発行のニュースレター「キャンサー・ブルチン」の2010年7月13日号には、「癌サバイバーとブログの力」と呼ばれる記事が掲載されている。(JAMT翻訳)

この記事で紹介されたアン・シルバーマンさんは、2009年8月に乳がんの診断を受け、その2週間後に闘病ブログをはじめた。シルバーマンさんは、「治療や体調不良から開放されるのは、その事をブログにどう書こうかと考えている時」、「癌について他人のために書くことができて、癌治療の否定的な面よりも、前向きな面に注目できるようになった」と言う。

アン・シルバーマンさんは、「乳がんを疑った時から、診断、治療まで、私の人生を綴っています。今はステージ4のライフスタイル。末期がんだって、面白いことはあるのよ」と、今もブログを続けている。

書くことでQOLが改善という研究結果も

2008年には「自分の思いを自由に書くこと」は、がん患者の生活の質(QOL)の改善につながるという研究がOncologist誌に掲載された。この試験では、白血病と悪性リンパ腫の患者71人を対象に、診察の待ち時間に20分ほど自分の思いを書いてもらい、その直後、そして3週間後に追跡調査を行い、変化について患者に尋ねた。

書き物をした直後の調査では49.1%の人が、また追跡調査時には53.8%の人が、書くことで「病気についての考え方が変わった」と答えた。またそれは、追跡調査時の「身体的なQOLが向上した」という回答と相関していた。

前述の記事の中で、ジョージタウン大学のロンバルディ総合がんセンター講師のナンシー・モーガン氏は、がんサバイバーのブロガーが、「がんについてのさまざまな考えや気持ちをはっきりと表現し、他の人とつながりを持つことで、大きな力を得ています」と述べている。ブログを通して読者や仲間とのコミュニティができあがるのだ。あるブロガーは、「病気や治療のことで失望しても、感じたことやその日の出来事をブログに綴ると、誰かがコメントやメールをくれる。そうした、ちょっとした励ましが、私の心を持ち上げてくれる。ブログ・ファミリーがいなければ、どうなっていたかわからない」と言う。

がんサバイバーご用達、多機能の無料個人サイト

最近アメリカでは、ブログだけではなく、ウェブサイトを活用して家族や友人への連絡、通院などのスケジュール管理からサポート要請を行う例もでてきた。昨年春、コロラド州に住む夫の友人が40代半ばにしてがんの診断を受けた。地理的にも離れており、状況もわからずヤキモキしていたら、彼の妻がすぐにウェブサイトを立ち上げてくれた。

サイトには友人の病状や治療についての情報、予定表、伝言板、写真ギャラリーのページなどがあり、全米の友人から続々とお見舞いコメントが投稿された。手術当日は、アップデイトを知ろうと、私達のようにこのサイトを何度もチェックした人が大勢いたはずだ。地元の友人達からは、病院への送り迎えや買い物代行といった支援を申し出るメッセージが寄せられ、あっという間にサポート・コミュニティが出来上がった。

今では、自分でウェブサイトを立ち上げなくとも、がんサバイバーたちが無料で自分のウェブページを作れる「マイ・ライフライン」、「ケアリング・ブリッジ」というプラットフォームがあり、ブログや写真投稿、スケジュール管理など必要に応じて様々な機能を手軽に使うことができる。

不特定多数の人が目にする一般的なブログだと、健康食品の押し売りや、心無いコメントが舞い込んでしまう場合もある。しかし、こうした個人サイトなら、家族や親戚、友人、知人との間の実用的なコミュニケーションツールとしても使えるし、どの情報を誰に公開するかといったコントロールも自分でできるので安心だ。

闘病ブログは誰のため?

私自身が数ヶ月にわたる化学療法で自宅にこもっていた時にも、ずいぶんと他のがんサバイバーさんのブログを訪問させていただいた。眠れない長い夜には、同じ病で治療中のブロガーさんたちとコメントで励ましあったり、情報交換させていただいたりした。

小林麻央さんをはじめとするがんサバイバーたちのブログをきっかけに、がん検診やがんサバイバーの生活に対する関心や意識が高まるのは良いことだろう。実際、多くのサバイバーが、自分達の経験を他の人の役に立ててほしいと願っている。

しかしその一方で、不特定多数の人に公開されているブログの場合、心無いコメントや議論を挑むようなコメントをめぐってコメント欄が炎上してしまったり、望まない健康法や治療法を強く勧められたり、病状について憶測が飛び交ったりして、がんサバイバーたちの心に負担をかけてしまう場合もある。がん闘病ブログは、あくまでもサバイバーが自分の気持ちと向き合い、その思いを他人とシェアし、自分の人生を豊かにしていくための場であってほしい。

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』(エスコアール)がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

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