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DX挫折の秘密: マイナンバーカード以外に存在する日本の隠された壁

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
出典:デジタル庁

KNNポール神田です。

『マイナンバーカード』をめぐるトラブルが止まらない…しかし、根本的な問題はそこではない。DX化を妨げる要因は、マイナンバーカードではなく、日本の隠されたデジタルの壁にあると筆者は考えている。

平成14年/2007年

『情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(個人番号法)』が制定

平成24年/2012年 『社会保障・税一体化法案(マイナンバー制度)』

平成27年/2015年11月『マイナンバー通知』 国民全員に発送

平成27年/2015年 12月 『住基カード』発行終了

平成28年/2016年 01月 『マイナンバーカード』発行開始  

令和元年/2019年 『デジタル手続法』公布

令和3年/ 2021年 『デジタル庁設置法』施行 デジタル庁スタート

■3年後に更新となる前にできることを立ち止まってしっかりと考えるべき

『マイナンバーカード』の有効期間は、18歳以上は発行日から10回目の誕生日までなので、7年前の2016年に取得した人は、あと3年後の『2026年』に更新となる。

そして、18歳未満は、発行日から5回目の誕生日なので、2021年にすでに更新の時期を迎えた人もいるはずだ。

そこでマイナンバーカードの運用について、そろそろ一度立ち止まり、スマートフォン化や生体認証化もふくめた『マイナンバーカード2.0』のような規格で更新するようにしてはどうだろうか? いや、理想のDXを目指して、いろんな日本の長きにわたるアナログの壁を整備するほうが重要だ。

マイナンバーカードの不祥事報道が、政局に影響を与えて頓挫してしまうのが一番の税金の無駄使いでもある。

保険証やパスポート、運転免許証などとの紐づけは、あくまでも任意として、2026年の3年後に、ブロックチェーン技術やAI技術も含めた『新たな規格』として再出発するべきではないだろうか?

マイナンバーカード』は、単なる、2015年11月に付番した住民票をもとにした『マイナンバー通知』とそれにヒモづいたプラスチックの写真つきICカードですべてをまかなおうとういう発想そのものが安易ではなかっただろうか?

現在の、マイナンバーカードの交付状況は、総務省のサイトで公開されている。

■2023年4月末に交付された『マイナンバーカード』は8,786万枚。残りの936万枚は随時交付中

現時点での、有効申請受付数の累計で 9723万0186件で人口比は77.2%である。 (令和5年/2023年6月18日時点)

https://www.soumu.go.jp/kojinbango_card/kofujokyo.html

出典:総務省マイナンバーカードの申請状況
出典:総務省マイナンバーカードの申請状況

しかし、この数字は、あくまでも申請受付数で実際に2023年4月末で交付されたのは、全国で、8,786万5,814件で、69.8%である。

2ヶ月間弱の差があるとはいえ、その差は、『936万件、7.4%ポイント』の差が生じている。それは延期に延期を重ねたマイナポイントの締め切りにも深く関与している。

2023年2月末までの申請期限の結果が『9723万件 77.2%』という数字に影響しているからだ。そして、連日話題となっている、公金受取口座の登録完了期限は、2023年の9月末までと、あと3ヶ月以上残しているが、今後もトラブルが続けばこれもまた、延期せざるをえないだろう。

https://mynumbercard.point.soumu.go.jp/deadline_extension/

出典:総務省マイナポイント
出典:総務省マイナポイント

■『総務省』と同じことを『デジタル庁』でもやっている…二重行政の問題

出典:デジタル庁
出典:デジタル庁

一方、こちらの数字はマイナンバーカードの累計申請数の97,23万件こそ一緒だが、累計交付枚数については、デジタル庁、9233万8,749枚と、総務省の8,786万5,814枚との間で『447万2,935枚』もの誤差がでている。

これはデジタル庁が週次で統計しているからだ。

しかも、デジタル庁では、週次で

健康保険証の累計利用登録数 6,408万8,852枚 (69.4%)

公金受取口座の累計5,597万0,853(60.6%)がわかる。

2023年6月18日の土曜日の先週のデータだ。

…であれば、総務省のデータは、デジタル庁のデータをうまく使うべきではないだろうか? 4月末の情報など公開する必要はどこにない。

これも、二重行政にしか見えない。 デジタル庁も省庁の壁を超えたデジタルの司令塔ならば、しっかりと総務省を指導すべきだろう。

https://www.digital.go.jp/resources/govdashboard/

■そもそも、マイナンバーカードに記載されている情報には『フリガナ』も『英文字名』もなかった…

マイナンバーカードに記載されている情報は下記のとおりだ。

1.氏名

2.住所

3.生年月日

4.性別

5.顔写真

6.電子証明書の有効期限の記載欄

7.セキュリティコード

8.サインパネル領域(券面の情報に修正が生じた場合、その新しい情報を記載(引越した際の新住所など))

9.臓器提供意思表示欄

そして、裏面にある12桁の『個人番号』だ。

https://www.soumu.go.jp/kojinbango_card/03.html#card

そもそも、『同姓同名』である確率もあるので、各自治体での手作業、目視確認において、最低限、名前に『フリガナ』は、必要だっただろう。できれば、海外などでもパスポート以外の本人確認として『英文字名(ローマ字含む)』があるべきだった。

 『電話番号』や『メールアドレス』もあれば個人とすぐに連絡がとれたはずだ。

『個人情報』をできるだけ排除したい当初の思惑は、すでに『保険証』などと組み込んだだけで崩壊しているので、万一、落とした場合の連絡先やSMSで連絡がつくという『非常時』の運用も考えられるだろう。むしろ、SNSのLINEなども9500万人もユーザーがいるので、任意でヒモづけてもよいとさえ思う。

■マイナンバーカードの交付が終わるとSMSでメッセージではダメだったのか?

マイナンバーカードの交付準備ができると、自治体ごとにハガキで本人に通知をだし、予約をとってもらい、自治体に来てもらい、さんざん、待たせたあげくの本人確認でようやくマイナンバーカードの発行だ。

登録された電話番号でその場でSMSなどの『多要素認証』ができれば、郵便局の配達人にマイナンバーカードを配布してもらうことですら可能だったはずだ。

また、確認番号などもマイナンバーカードとスマートフォンで

また、『署名用電子証明書用暗証番号』の長ったらしい名前も『署名番号』と省略することもできるし、『半角の6文字から16文字英数字』を紙にその場で、手書きをして、自治体で代わりに打ち込んでもらうというのも忘れて要因だ。しかも、3回間違えると、自治体にかけこまなければならなかった…(現在はコンビニでも対応となった)。最初からすべて『4文字の数字』では、だめだったのか?セキュリティを気にするあまり、ユーザビリティーを悪くしている要因だ。

出典:唐津市
出典:唐津市

■マイナンバーカードは、金融機関等本人確認の必要な窓口で本人確認書類として利用できますが、個人番号をコピー・保管できる事業者は、行政機関や雇用主等、法令に規定された者に限定されているため、規定されていない事業者の窓口において、個人番号が記載されているカードの裏面をコピー・保管することはできません。

■マイナンバー制度導入後は、就職、転職、出産育児、病気、年金受給、災害等、多くの場面で個人番号の提示が必要となります。

 その際、『通知カード』であれば、運転免許証や旅券等他の本人確認書類が必要となりますが、『マイナンバーカード』があれば、一枚で番号確認と本人確認が可能となります。

https://www.soumu.go.jp/kojinbango_card/03.html#card

■マイナンバーカードへの紐づけは、すべて任意として、根本的な日本のデジタル化を考えなおす機会とすべきでは?

そもそも、日本の住所の表記も『2-17-5』であったり、『2丁目17番地5号』、あ『2丁目17の5』全角『2−17−5』などと、表記ゆれだらけだ。

まずは、住所の統一表記を決めるべきだろう。そして『全角・半角』問題は、どちらでも読見込めるように事業者側に規制すればよい。

スマートフォンで銀行名を『半角カタカナ』で打てと言われても、時間の損失ばかり生んでいる。『数字英文字の全角』はトラブルの元凶であり、『半角カタカナ』などは機会損失でしかない。

さらに、元号と西暦のW表記も無駄だ。少なくとも国際化を考えると行政文書を『西暦』に統一すればそれだけで元号の利用度は、一気に変わるだろう。個人のお祝い事や特別な行事にこそ暦の一貫としておごそかに継承していけばよいと思う。元号の新たな価値の創出だ。

クルマの運転免許なども、誕生年は元号で有効期限は西暦和暦のW表記はもったいない。

出自や家族関係を証明するための日本独特の『戸籍謄本』や『戸籍抄本』なども住んでもいない場所に適当に変えられるのだから、全く無意味な存在でもある。しかも『公的書類』の相続や結婚や立候補、厚生年金、遺族年金などで必要という大事な局面で必要なのでさらに疑問だ。

『マイナンバーカード』が国民の資産を管理する目的であれば、『戸籍謄本』を抑えたほうが、相続で必ず必要なので、そのほうが利にかなっているはずだ。

筆者の戸籍は、東京都千代田区千代田一番だ。そう、皇居である。特に、千代田区は日本でも早くからコンビニからコピーが取得できたのでとても便利だった。実際に、千代田区は6.7万人の人口に対して、戸籍登録人数は20万9,302人(令和4年/2022年)と、区民の3倍以上の人たちが戸籍登録している状態だ。

このように、日本のデジタル化を考えた場合、マイナンバーカードだけで、一気通貫するのはかなり無理があるのは当然で、10年目を迎える前に、一度サンクコストを無視して、本当に改修にかかるコストよりも、新たにICチップのプラスティックカードで良いのかも踏まえて、一度立ち止まって考えるべきだと思う。

ヒモづけ、名寄せするのが大変なのではなく、その前にデジタル化できる土壌を一度、整理する作業も法律面も含めて検討すべきではないだろうか?

政局のムードや、マイナポイントなどで、貴重な税金を投入するだけでなく、本当の意味でのデジタル化で便益を供与すべきなのである。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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