2023年6月発表が噂されるAppleの『VRヘッドセット』の『Apple Watch戦略』
KNNポール神田です。
いよいよ、噂レベルであった『AppleのAR/VRヘッドセット』の具体的な発表が2023年6月に向けて、動きが先週(2023年3月第3週)あったようだ。
■Bloomberg誌にコラムを持つマーク・ガーマン氏のリポート(英文)から
□先週、カリフォルニア州クパチーノにあるSteve Jobs Theaterに、Apple Inc.の最高幹部約100人が集まりました。トップ100と呼ばれるこのグループは、アップルにとってここ数年で最も重要な新製品である複合現実型ヘッドセットを見るために集まった。
□(2023年)6月に予定されているヘッドセットの一般向け発売を前に、重要なマイルストーンとなるこのデバイスは、グループのためにデモンストレーションされました。これは、iPhone、iPad、Mac、Apple Watchに次ぐ主要なプラットフォームとなる可能性のある、複合現実のチームにとって、リーダーたちを結集させる機会でもありました。
□2018年以降、毎年、同社のトップ意思決定者に控えめにこの製品を示してきました。(こうしたプレゼンテーションは「ファイトクラブ・デモ」と呼ばれ、「ファイトクラブの最初のルールはファイトクラブについて話さないことだ」というブラッド・ピットの映画のセリフにちなんだものだ)。
□しかし、今回は違う。これまでのデモは、進捗状況を示し、継続に必要な人数を確保するための控えめなものだった。今回のプレビューは、アップル最大のショーケースであるスティーブ・ジョブズ・シアターで行われ、一般公開が間近に迫っていることを示唆しています。幹部たちは、カリフォルニア州カーメルバレーのリゾートで開催される年次オフサイトに向かう前に、このイベントに参加しました。
□デモンストレーションは洗練され、華やかでエキサイティングなものでしたが、多くの幹部は、この新市場に参入するアップルの課題について明確な認識を持っています。
□複合現実(拡張現実と仮想現実を融合させたカテゴリー)は、まだ始まったばかりの分野であり、アップルが以前試みた新しいビーチヘッド(限定市場)の確立よりもはるかにリスクが高いのです。Mac、iPod、iPhone、Apple Watch、iPadでは、Appleは本質的に、人々が慣れ親しんでいる製品の改良版を作っていた。しかし、今回のヘッドセットでは、なぜそのような製品を持ちたいのか、消費者に説明しなければならない。
□さらに、このデバイスは約3,000ドルからで、明確なキラーアプリがなく、数時間ごとに交換する必要がある外部バッテリーを必要とし、一部のテスターが快適ではないと判断したデザインを使用することになります。また、メディアコンテンツも限定された状態で発売されることになりそうです。
□そのため、社内では現実的な意見が出されています。いきなりヒット商品になるわけではありません。しかし、Apple Watchと同じような軌跡をたどる可能性はあります。
□あのデバイス(発売当初のAppleWATCH)は、平凡なアプリ、ごちゃごちゃしたインターフェース、低速なプロセッサ、そして明確でない目的を持って発売され、かなり遅いスタートを切りました。しかし、時間の経過とともに、アップルはサードパーティ製アプリの機能を改善し、オペレーティングシステムを簡素化し、より高速なプロセッサを追加しました。製品もまた、その役割を見つけた: フィットネストラッカーであり、健康仲間であり、通知を簡単に処理する方法である。それが消費者の心を捉えたのです。Apple Watchは8年の間に、アップルのビジネスのごく一部から、アップルの戦略の中心的存在になったのです。
□ヘッドセットも同じような結果になることが一番の望みです。販売台数の面では、最初のバージョンは、同社の既存製品の中では不発に終わるだろう。それでも数カ月以内にアップルが複合現実のマーケットリーダーになる可能性は高いが、それは現在の市場がいかに弱いかを示しているに過ぎない。
□ヘッドセットの後続モデルが登場すれば、消費者の関心が高まることをアップル社の幹部は期待しています。同社は、価格が半分になるバージョンと、性能がはるかに向上した最初のモデルの後継モデルを準備しています。これらは、最初のヘッドセットから2年以内に発売される予定です。腕時計もまた、同じような道をたどった。ハイエンドとローエンドのモデルがあり、GPSやLTEワイヤレスサービスなどの機能を備えたアップルのデバイスは、事実上のスマートウォッチとなった。
□同社は、Reality ProまたはReality Oneと名付けられるであろうヘッドセットを、最初の1年間で約100万台販売できると考えています。3,000ドルであれば、約30億ドルの売上となる。このデバイスの部品は非常に高価であり、Appleはまだ一般的なマージンを求めていないことを考えると、最初のうちはほとんど利益がないだろう。
Apple Watchは、AirPodsやApple TVなどのガジェットと並んで、同社のウェアラブル、ホーム、アクセサリー部門に含まれる製品なので、これを直接比較するのは難しいです。しかし、ウェアラブル部門は、Apple Watchがデビューしたときの約100億ドルから、最新の会計年度には412億ドルにまで成長しました。
Appleは、約8年の歳月と数十億ドルを費やしたプロジェクトであるヘッドセットで、同じ成功を収めることができるのか。私たちは、それを見極めようとしています。
https://www.bloomberg.com/authors/AS7Hj1mBMGM/mark-gurman
■Appleのヘッドセットデバイスは、期待できるヘッドセットになるのか?
マーク・ガーマン記者のリポートにあるように、Appleのヘッドセットは、『Apple Watch』の発売サイクルが参考になりそうだ。当初のモデルから毎年のように、iPhoneのような値段はそのままで性能が上がるというパターンだ。
Apple Watchは2015年からの8年間このように進化してきた。3〜5万円で買えるスマートウォッチとして、高級ブランド路線、ラグジュアリーモデルでは200万円超えの製品を販売してきた。
ティム・クック体制になってからのAppleの製品は常に計画的に世界最大の単一機首販売メーカーとして、在庫のいらない製品供給とロジスティックスをおこなってきた。また、Apple Watch発売時はラグジュアリーなシリーズをアップデートもなく登場させ度肝をぬいた。
Apple Watchもスマートウォッチ市場の後期参入組みであったが、比較的参入時期は早いほうだった。しかし、今回のVR/ARヘッドセットの分野はすでに市場がある程度、成長時期とはいえ鈍化してきている状況でAppleの今までの新規参入時期としては珍しく遅い。…とはいえ、長年、噂ばかりが先行の『AppleCar』の新規参入よりは早かった。
現在、VRヘッドセットの2022年の世界出荷台数は、前年比20.9%減の880万台である。メタの『MetaQuest』が8割の約700万台を占めるが、MetaQuest2のみで2020年は1480万台であった。しかしAppleが初年度100万台を達成したとしても、世界の現在の市場では2000万台程度が上限ではないだろうか? つまり、2年後に1,000万台として、シェアを奪還したとしてもそこが上限のように感じる。
時計のように数百年の歴史の上になりたつデバイス市場ではなく、頭の上にかぶるという異質なゲームデバイスが、コミュニケーション市場の中で成立するには、安全が確保された個室と共に成長するか、軽量化され、違和感のない装着デバイス、少なくともスキーゴーグルサイズやサングラス型、もしくは、コロナで一般化したマスクと一体化するようなデザインが必要となるだろう。
むしろ、ヘルメットのような一体型や、かつてのパーマ屋さんのような椅子に設置された中に入るような新たなデザインタイプへの進化も期待したい。ゲームデバイスであればそんなコックピット型でもニーズがある。
しかし、Appleのゲームプラットフォームに進出はしているが、PC分野でもゲーミングPC分野としてはプラットフォームに強みがまったくない。iOSやiPadOSでのゲーム分野でも、世界で普及しているデバイスの市場があったからこそのマーケットだ。Apple税をいやがるゲームデベロッパーも増えている。
今までのAppleが、VRヘッドセットを投入しない理由はいくらでも考えられた。しかし、現在の期を熟したと判断をするならば、性能で勝負し、価格を上げてでも参入しないと手遅れになるとの判断なのかもしれない。
ゲーム、コミュニケーション分野でも、VRヘッドセットとの親和性が高いのが、対話型AIだろう。現在はテキストベースが主体だが、音声対テキスト、音声対音声というスマートスピーカーとも相性が良い。
意外に『Siri』のような機能とVRヘッドセットの組み合わせでもいけるかもしれない。そこには、『AirPodsPro』という自社ライバルがいるので、差別化が必要だ。
2022年、AppleWatchは5,000万台出荷で市場シェアは34.1%で売上シェアは60%だ。他社の出荷台数シェアは、Samsungが9.8%、Huaweiが6.7%、Noiseが5.6%、Fire Bolttが5.5%、Garminが4.0%、Amazfitが4.0%、Boatが3.8%
当初はAppleのVRヘッドセットは、3,000ドルの高価格帯だが、2年以内に1,000万台、1,000ドル以内で購入できれば、約100億ドルのビッグなビジネスカテゴリーが誕生する。
それでも、2022年のiPhone2,054億ドルの1/20の市場規模にしかならない。
それでも、ウェアラブル分野の412億ドルに100億ドルプラスされれば、512億ドル規模となり、かつてのメインであったパーソナルコンピュータのMac部門401億ドルを大きく離し、好調なサービス部門781億ドルに近づくだろう。
Appleほどの企業規模感となると、新製品を投入することは他の企業よりも、容易であるが、新たな戦略的なカテゴリーとして、数100億ドルを毎年計上できるカテゴリーとして成長できるかどうかが一番の課題だ。経営陣や株主と消費者の物欲マインドが一致するポジショニングのとれる製品カテゴリーが求められている。
https://investor.apple.com/sec-filings/sec-filings-details/default.aspx?FilingId=100117017468