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DolbyATOMOS『空間オーディオ』の世界観とビートルズ時代の『ステレオ』とのデジャブ

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
出典:Apple Music

出典:AppleMusic
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KNNポール神田です。

Appleが2021年6月8日にリリースした『Dolby Atomos 空間オーディオ(iOS14.6〜 macOS14.4〜)』の世界に触れて約一ヶ月が経過している…。最近の新譜を中心に、『空間オーディオ』の世界を中心に楽しめるが、なんといっても、かつてよく聞いた、50年以上も前の楽曲でも聞き慣れた『ステレオ』だけではなく『空間オーディオ』で楽しめるところがとても良い。しかもAppleMusicのサブスク料金は、まったく変わらずのままだ。

つまり、『ドルビーアトモス空間オーディオ』が普及するまでは、Appleのサブスクはかなりのアドバンテージになるのかもしれないと感じた。ほかのプラットフォーマーでのサブスク採用が、まだ見られないからだ。

https://www.dolby.com/jp/ja/experience/dolby-atmos-vision/streaming-serivices.html

■秀逸な落合健太郎のオーディオガイドによるマービン・ゲイ

出典:Apple Music
出典:Apple Music

秀逸なのが、落合健太郎の『空間オーディオ(Spatial Audio)』ガイドだ。

https://music.apple.com/jp/album/marvin-gaye-from-mono-to-stereo-to-spatial/1571230792?i=1571230793

50年前のマービン・ゲイのヒット曲『What's Going On(1971年)』が、『モノラル→ステレオ→空間オーディオ』と再生される。この楽曲の違いはわかりやすい!

絶妙な落合健太郎の解説ナビゲーションにうなづきながら、ヘッドフォンで楽しめる。

これだけで、『空間オーディオ』という聴き方がヘッドフォンひとつで再現できることがよくわかる。しかも、よく聴き馴染んだ楽曲だからこそ、その差に驚く。何よりも、ステレオでさえ、十分に普及していなかった50年前の楽曲が、最新の『空間オーディオ』で蘇るのだから見事な『マスタリング』の効果といえよう。

真の実力としての『DolbyATOMOS空間オーディオ』は、映画館のような10数台のスピーカーのセッティングで体感するものだが、iPhoneとヘッドフォン、しかもワイヤレスのBluetoothヘッドフォン類で、有線でなくても体感できるところがすばらしいといえる。

ハイレゾ・ロスレス』の世界はCDクオリティ以上の『原音の最高の音質』を望む人であり、『マスタリング』の『空間オーディオ』を楽しむのとはまったく別物である。もちろんハイレゾ・ロスレスで空間オーディオを楽しめるのがベストではあるが、個人的には、有線の世界にはあまり戻りたくない…。

また、『AirPods Pro』などの『ダイナミックヘッドトラッキング』による『ジャイロ』や『加速度』センサーを必要としなければ、通常のヘッドフォンでも『空間オーディオ』は普通に楽しめる。実際に映画や音楽を鑑賞中に首をまわして音の定位を確かめる人は多くはないはずだ。

『ハイレゾ・ロスレス』が『48kHz/24bit以上』以上の音質を再生できるということに対して、『DolbyATOMOS』は『Atmosphere(大気、空気、環境)』の臨場感を再生することを目指しているので別個のものと考えるべきだ。

『DolbyATOMOS』は、米ドルビー・ラボラトリーズ社が、開発した最新のサラウンド技術のひとつである。

本来は、映画館でのサラウンドシステムで空間的な広がりを再現することを家庭用で、『5.1.4』『7.1.4』などのスピーカーシステムを配置するが、Apple Musicではそれが、ヘッドフォンひとつで再現される。

■『ミックス』と『マスタリング』の大きな違いとは?

『空間オーディオ』や『ステレオ』などの『マスタリング』効果は、いわゆる『ミックス』との違いがわかりにくい。

たとえば…、クルマにおいての『ミックス』といえば、製造したばかりの基本設計でのクルマであり、『マスタリング』はクルマのカラーリングや、内装オプションに値する。

『写真撮影』での『ミックス』といえば、絞りとシャッタースピード、フィルム感度を表し、『マスタリング』は、写真の加工などの後処理にあたるだろう。

さらに『ヘアサロン』でたとえると『ミックス』といえば、ヘアカットやパーマネントであり、『マスタリング』はヘアカラーやヘアアレンジに当たる。

当然、クルマも写真もヘアスタイルも、『ミックス』という土台があり、『マスタリング』という見せ方で大きく見た目はかわる。音楽は聞いた目が大いに変わるのだ。

そう考えると、『ステレオ』も『空間オーディオ』も『マスタリング』の種類と考えればわかりやすい。

『リ・ミックス』というと楽曲がまったく別物。『リ・マスタリング』というと楽曲は同じでも聞こえ方が全く違うという理解となる。

■モノラル志向で作られたのが『ホワイトアルバム』まで

『ザ・ビートルズ』の活躍した8年間(1962〜1970年)は、『ステレオ』登場(1957年)の歴史と進化そのものだったといえるだろう。

それまで、音楽はレコードに直接録音されてきた『ダイレクトカッティング』の時代であった。

原理は、1877年のエジソンの蓄音機の発明の頃から1948年の71年間も変わらなかった。レコードに直接刻み込んで録音していたのだ。

その後、1948年より『磁気性テープレコーダー』でマスターコピーを収録。複数トラックによるマスターコピーを編集し、ミックスダウンし、そこからレコードの原盤を作り、それをスタンプコピーするようになった。

そして、1957年に左右のスピーカーの特性にあわせた『ステレオ(ステレオフォニック)』が登場する。しかし、ハードウェアとしてのステレオが普及するには1970年代にまで及ぶのだ…。まさにビートルズの時代はステレオの黎明期と重なるのである。

その後、1970年前半にいまは亡き、『4チャンネルステレオ』といった懐かしの時代の多彩な方式が乱立して登場する。そう、音楽のマスタリングフォーマットは普及しなければ、すたれてしまうのだ。

しかし、Appleの iPhoneやiPadというデバイス機器はすでに世に何億台も普及しているので、OSさえアップデートできれば、視聴環境は非常に多い。

残るのは、人々が、『空間オーディオ』という聴き方に魅力を感じるかどうかだ…。

最新のマスタリング技術の可否については、ザ・ビートルズのモノラル盤とステレオ盤との違いというベクトルで考えてみるのがありかと思う。

■ステレオ マスタリングされた初期のザ・ビートルズ・サウンズ

出典:Apple Music
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『ステレオ』コンポーネントシステムが、産業において、家具調ステレオに代表されるような贅沢品として普及してくるのだから、レコード業界としてもこれが大金脈であることに変わりはなく、音楽業界全体が『ステレオ対応』していく。

ザ・ビートルズもメインはモノラルのままで、スタッフが『ステレオ版』のマスタリングを担当するようになる。

しかし、『ステレオ』の特性が当時まだ確立されておらず、ボーカルトラックやコーラストラックはすべて右チャンネルでその他はすべて左チャンネルのまるで片チャンネルカラオケのようなマスタリングがなされていたほどだ。

もちろん、ステレオ化にはメンバーもプロデューサーのジョージ・マーティン氏も関わっていないというほどの力の入れなさ具合だった。

いわば、『空間オーディオ』もこの頃の『ステレオ』同様で、わざと左右にふりわけたりするような演出が行われる。

■『ホワイトアルバム(1968年)』 からは『ステレオ』もリリースされるようになる。

あの『サージェントペパーズ(1967年)』もモノラル視聴を中心で考えられたアルバムであった。そして、ようやく『ホワイトアルバム(1968年)』ではじめて『モノラル』版と『ステレオ版』が登場し、米国では『ステレオ』版のみのリリースとなった。

冒頭1曲目の『バックインザUSSR』では、飛行機音がモノラルでは遠くから近づくがステレオでは左から右へとマスタリングされたのだ。このわざとらしいギミックが当時の『ステレオ』の扱われ方であった。

また、この頃より、8トラックレコーダーが正式に採用されたことにより、メンバーがバラバラでも収録できるようになったり、ステレオでのミックスダウンも多様化しはじめた。メンバーが顔をあわせずにレコーディングできるようになったのだ。

ザ・ビートルズが『ステレオ』をはじめて意識したのはグループとしての最後のアルバム『アビーロード(1969年)』からであった。

■『アビーロード(1969年)』で初めてステレオを意識した音づくり

1969年、実にステレオ技術が登場してから、12年間もビートルズのメンバーは『ステレオ』に興味をまったく示さなかった。…とはいえ、ヒットチャートの音楽の一線で活躍していた彼らからすると、『ステレオ』技術は知っているものの、はまだまだ本命ではなく、マスタリングにさえ立ち会わなかったものの、さすがに『ステレオ』が定着したころに初めて『ステレオ』を意識したアルバムづくりに乗り出した。

メンバーやプロデューサーがはじめて『ステレオ』を意識して製作したアルバムでビートルズも『ステレオ』時代を認めたといえる。ゆえに『アビーロード』にはモノラル盤が存在しない。

その後、ビートルズのアルバムは1987年から順次CD化されていくが、初期のアルバムはモノラルのままCD化された。

■Apple Musicで楽しむ3種類の『アビーロード』

Apple Musicで空間オーディオを楽しめるのがビートルズの『アビーロード』だ。

その後、『サージェント・ペパーズ』も空間オーディオ盤が登場した。

https://music.apple.com/jp/album/sgt-peppers-lonely-hearts-club-band-remix/1573250333

Apple Musicでは、

2009年リマスター版、

2019年のSuperDeluseEdition ハイレゾロスレス、

2019年のSuperDeluseEditionの空間オーディオ版 の3種類が楽しめる。

2009年 リマスター版

出典:Apple Music
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https://music.apple.com/jp/album/abbey-road-remastered/1441164426

2009年 ビートルズ、ジョージ・マーティンのステレオマスタリングの忠実な再現

右へ行ったり、左へいったりのステレオ観

ヒア・カムズ・ザ・サンのジョージのメインボーカルは右から聞こえる。

2019年 SuperDeluseEdition ハイレゾロスレス

出典:Apple Music
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https://music.apple.com/jp/album/abbey-road-super-deluxe-edition-2019-remix-remaster/1474833332

■ヒア・カムズ・ザ・サンのジョージのメインの声がセンターで聞こえる。

2019年 SuperDeluseEdition 空間オーディオ

出典:Apple Music
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https://music.apple.com/jp/album/abbey-road-2019-mix/1474815798

■『ComeTogether』のボーカルのリバーブがかなり違う

■『The End』のドラム・ソロから空間オーディオ ステレオとの違い

■『The End』のポール、ジョージ、ジョンのギターバトルの定位がはっきりとわかる。

ポール左にいて、ジョージが右前、なんとジョンは天井から弾いている!

このように、『空間オーディオ』によって、まったく新しい、ビートルズのサウンドの味付けを楽しむことができるようになった。

しかし、あくまでも『空間オーディオ』が『ステレオ』とは違う聞こえ方になるようなマスタリングの味つけは、モノラルがステレオと違うと右と左へ、行き来するような空間利用のマスタリングのデジャブにかられて仕方がないのが本音のところだ。

ステレオマスタリングする標準で、空間オーディオが、どこから聞こえるのがベストなのかを考えてマスタリングしてほしい。

ステレオとの差を意識したマスタリングをすればするほど、陳腐な空間となるからだ。

空間オーディオを意識したいアーティストが採用すれば良いだけである。ステレオとちがって、リスナーはすでに、空間オーディオの機器は購入済みであるからだ。

過去のサウンドの『空間オーディオ化』によるマスタリングは、ビートルズの『ステレオ化』同様に、過剰な演出は、まったくいらないと思う。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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