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HUAWEI に降り注ぐ災難 HUAWEI サプライチェーンショックで一番の被害者は?

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

KNNポール神田です。

□米商務省が(2019年5月)15日、中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)への事実上の輸出規制を決めたことで、同社の経営への打撃は避けられない見通しだ。同社は海外企業から670億ドル(約7兆円)前後の部品を調達、米国から年間で100億ドル規模の部品を輸入しているとされ、特に基幹部品の半導体で米企業に頼る部分が大きい。

出典:ファーウェイ、世界92社から調達 制裁で打撃必至

■止まらないHUAWEIへの供給停止

HUAWEIのスマートフォンの出荷量は1億台におよび、販売シェアは、サムスン電子37%に次ぐ29%と世界第2位のメーカーだ。2018年のスマートフォンの売上は5兆6,000億円、通信向け設備機器は4兆7,000億円 合計10.3兆円規模に及ぶ。

中国のHUAWEIへの米国の輸出規制が続くことによってHUAWEIは20%程度の減産を覚悟している。同時に自前化を進めるという。HUAWEI傘下には、『ハイシリコン』があるが、自給率は50%程度である。

トランプ大統領による『大統領令』を発令したことによって、スマートフォン用のクアルコム、通信設備用のインテル、ザイリンクス、ブロードコムなどの企業は、通知があるまで供給しないことを各社内に通達している。スマートフォンだけでなく、5Gなどの通信設備に関しても、この制裁は世界の技術の進化に影響することだろう。

HUAWEIの生産在庫は3ヶ月。もしもこのまま、供給停止が続けばHUAWEIだけでなくその影響は、サプライチェーン全体に響いていく。

■日本企業もHUAWEIの重要なサプライチェーンで6,700億円を担っている

HUAWEIの製品は、すでに中国製であっても、中国製品ではない。made in Chaina ではあるが、世界の部品が集積されて最終的に中国の製品として生産されているに過ぎない。電子部品やカメラは、富士通、ソニー、パナソニック、村田製作所、三菱電機などが重要なサプライチェーンとして加わっている。HUAWEIの出荷の減衰はそれらのサプライチェーンへの影響力も多大だ。スマートフォン、通信機器においての影響力も大きい。2018年の日本企業からのHUAWEIの調達額は6,700億円に及ぶ。

■GoogleからのOSとソフトウェア、プラットフォームからの締め出し…

□(2019年)5月19日、ロイターは関係筋の話として、「グーグルはファーウェイとの取引を一時停止した。これによりファーウェイのハードウェアは、グーグルのアンドロイドOSの最新版にアクセスできなくなる」と報じた。

□ファーウェイCEOの任正非(レン・ツェンフェイ)は(2019年)5月18日、「我々は既に、これから起こる事態に備えている。ファーウェイの成長は鈍化するかもしれないが、ごくわずかな範囲にとどまる。当社のパートナー企業を脅かす政策をとることで、米国は信頼を損なう」と述べていた。

□しかし、米国は最後の切り札を出してきた。ロイターは「今後販売されるファーウェイ端末は、Google PlayストアやGメールアプリにアクセスできなくなる」と報じている。「個別のサービスの対応についてはグーグル社内で協議中」という。

出典:ファーウェイ端末でグーグル利用不能に、米中対立激化で

しかし、Googleからは…

Google(グーグル)は米国時間(2019年)5月20日、既存のHuawei(ファーウェイ)製デバイスのユーザーはGoogle Playストアを引き続き利用できると発表した。

出典:既存ファーウェイ端末はGoogle Playストアを継続利用可能とグーグルが声明

ロイターのスクープをGoogleは否定をしないが、既存のデバイスについては、問題ないという声明をおこなったのだ。つまり、今後の米国側の制裁には応じるということになる。

■任正非(じん・せいひ レン・ツェンフェイ)CEOのブレない態度

中国人民解放軍出身でHUAWEIを興した、任正非(レン・ツェンフェイ)CEOだが、中国企業の中では、『民間企業』であることをことある度に主張しつづけている。HUAWEI製品に不必要な部品のスクープ時に関しても『意見広告』をだし、2018年の日本企業からの調達が6,700億円に達し、HUAWEIへの輸出が対中国輸出額の4%相当と発表している。

□「我々は法に触れることは何一つしていない」と反論、半導体など基幹部品の自社開発を進める方針を示した。

□「(過去に米国から制裁を受けた中国の同業大手)中興通訊(ZTE)のように求めに応じて経営陣を刷新したり、監視を受け入れたりすることはしない」と米政府に強気の姿勢を見せた。

□次世代通信規格「5G」製品に関し「米国から5G環境を構築してほしいと言われても、行くことはない」と米国進出の可能性を否定した。

出典:ファーウェイCEO「米半導体製品は不要」 輸出規制に反論

それと、同時にHUAWEIでは、OSレベルからGoogleに全面依存しないようなAIツール群の開発などは以前からすすめていた。半導体の設計では、すでに、2018年、ARMとの中国合弁事業のArm ChinaはARMの子会社ではなく51%の関連会社として中国企業となっている。

■中国以外の国々に影響が及ぶ可能性

そして、今回の制裁で最も、影響を受けるのは、中国ではなく、中国から輸入している国々の製品やサービスに影響を与える。そう、中国では、Googleの主要アプリサービスは使用できない仕様になっているからだ。中国では、騰訊控股(テンセント・ホールディングス)や百度(バイドゥ)のアプリが使用されているからだ。そのため、中国市場での影響は限定的とみられる。

中国HUAWEIへの制裁は、安くそれなりのサービスを得られている世界の国々へのサービスへの制裁へとなりかねない。

いずれにせよ、トランプ大統領の常套の戦術で、一度問題を作りだし、それをネタに国際関係での修復を迫り、自分の手柄にするという手法だが、HUAWEIの場合は、政治的にも習近平との共産党との距離を保っているのでどこまで効果に現れるかは未知数だ。むしろ、交渉のテーブルよりも先に、全世界の5G展開での足枷になる可能性すら考えられる。

すでにグローバル時代のメガ企業では、どの国に属するかは最終的に税金問題くらいの問題になってしまっている。グローバルな世界からの製品調達の出口をせき止めると、自国の輸出にまで多大な影響を及ぼすのは間違いない。

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ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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