YouTubeが音楽ベストテン番組になった「YouTubeチャート」開始

KNNポール神田です。

Google日本法人は(2018年)5月15日、YouTube上の注目の新曲や楽曲ランキングなどをまとめた音楽チャートページ「YouTubeチャート」の提供を始めた。

ユーザーがいま視聴している注目の新曲をリアルタイムに提供する「トレンドチャート」(急上昇)と、YouTube で再生された同じ楽曲のさまざまなバージョン(フルMV、許諾された楽曲が使われているユーザー投稿動画など)の合計再生回数を集計・生成する「楽曲ランキング」、アーティストによる音楽関連動画全体の合計再生回数に基づいて生成する「アーティストランキング」、フルバージョンの公式ミュージックビデオの再生回数ランキング「ミュージックビデオランキング」を提供。トレンドチャートはリアルタイムに更新。それ以外は毎週月曜日に更新する。

出典:「YouTubeチャート」日本でも提供開始 人気曲ランキング、今の1位は?

2018年5月、「YouTubeチャート」がついに登場!

https://charts.youtube.com/

YouTubeの音楽チャートが世界で展開されている。これは、音楽のビジネスモデルの変遷期を物語っている。

YouTubeは長年、「著作権侵害」という違法投稿動画と戦ってきた歴史を持っている。しかし、今やYouTubeは音楽ビデオを検索し、視聴するプラットフォームとしての地位を完全に築いてしまった。もはや、YouTubeに新曲のプロモーションビデオをアップロードしておかないと視聴されないし、販売プロモーションや興行動員にも影響を与えてしまうという逆転現象が起きている。そう、かつての「ラジオ」と同様に、無料のラジオに楽曲が流れないと有料の「レコード」は、売れないという逆転現象がYouTubeでも起きている。ラジオでヘビーローテーションでかかればかかるほど、気に入ったレコードを購入するという、かつての現象だ。

現在のYouTubeでは、再生回数が上がれば、CDやダウンロード販売に直結するというよりも、「ライブ」という興行ビジネスモデルに直結する数字に意味を持つようになった。もちろん、広告費用をYouTube側とレベニューシェアするというビジネスモデルも機能しているが、音楽産業全体が、「所有する」パッケージメディアのCDや、スマートフォンの容量を圧迫するダウンロード販売からは大きく変遷しているからだ。

月額課金による、ストリーミングプラットフォームからの楽曲印税収入よりも、ライブや興行収入のほうが当然、稼ぎはよい。そして、その楽曲やアーティストの価値は自分が好きだからだけでなく、第三者的な評価もあったほうが人気度やチケットのプレミアムに差が出てくることだろう。

その為の指標としては「チャート」や「ランキング」が重要だったのだ。今回の「YouTubeチャート」は、YouTubeの膨大な再生回数によるランキングデータは YouTubeしか持っていない。そこに大きなアドバンテージがある。

テレビ離れ、MTV離れを「YouTubeチャート」が肩代わりできる?

1980年代、日本のテレビでは、「ザ・ベストテン」がランキングを元に生放送で放送され、「MTV」が音楽プロモーションビデオの24時間放送をCATVで開始した。当時は、テレビが最大の家庭エンタテインメントであった。しかし、現在では、視聴率に変化はあまりなくても、確実にテレビを視聴する人は減っている。さらに音楽番組は激減し、音楽トークバラエティですら、ごくわずかである。この状況でミュージックビデオを作ったとしても視聴されるメディアがテレビにはほとんど存在しない。フルで見てもらえるミュージックビデオは、インターネットメディアしか存在しないのだ。

テレビの視聴率は、視聴率調査の端末設置に協力してくれる世帯の協力が必要であり、その調査サンプルを母数として構成されている。基本的にテレビ視聴率調査にボランティア的に協力してくれる人、テレビ番組に対してポジテイブな人が調査協力をしていると思ったほうが良い。すると視聴率 > 実質視聴世帯とは違う。YouTubeは調査ではなく実データでランキングを公表している。この差は大きい。

一方、本当に音楽にお金を使っている人は、音楽番組が少なくなったテレビには決してヒモづいていはいないだろう。むしろ、定額ストリーミングで音楽を自由にサブスクリプションしているはずだ。さらに、24時間、好きな音楽を聞きながら、気づいていなかった音楽に対して貪欲に深堀り聞きをしているはずだ。

「YouTubeチャート」を利用する属性は?

「YouTubeチャート」はというと、YouTubeの音楽ビデオの分類で急上昇やオフィシャルビデオのランキング状態を国ごとに分類したものだ。「YouTubeチャート」は、有料の「YouTube RED」を除き、基本的に無料で視聴できるミュージックビデオと考えるべきだ。

つまり、音楽と同時に映像を一緒に『無料』で楽しみたいというユーザー属性のランキングと考えることができる。音楽を定額サブスクリプションしている属性よりも、ライトなユーザー、もしくは、現在の「流行音楽ランキング」を見たいというどちらかというと、ライトよりな音楽ユーザーが、多くなる傾向にあるだろう。

現在、「YouTubeチャート」のランキングは国別ベスト10、 世界ベスト10という、大まかなものだ。しかし、「YouTubeチャート」の最大のアピールポイントは、調査ではなく、実再生回数というリアルなデータによるランキング形式だ。もちろん、YouTube側はブラウザ情報からもっと再生回数以上のデータを分析しているはずだが。

音楽ランキングの歴史

ビルボード」は1936年、全米のジュークボックスでかけられている楽曲を集計からスタートしたチャート情報だ。その後、1968年からはラジオ局へのシングル盤でのリクエストも集計され「ビルボードホット100」となった。

日本では、1967年、「オリコンチャート」の元となった「総合芸能市場調査」が誕生する。あくまでも、調査してきた数値によるランキングだったのだ。AKBのように「握手券」というマーケティングでランキングが上がるという現象も可能性がある。ユニークユーザー数は調査では決して掴めないのだ。

「YouTubeチャート」のビジネスモデルは?

もちろん、YouTubeは、広告モデルを第一モデルとして考えているので、音楽興行のチケットをダイレクトで販売するなどのプラットフォーム業務を取るとは考えにくいが、動画からチケット販売サイトへのトランザクションを課金するなどのビジネスモデルは広義の意味での広告としても考えられるだろう。

かつて、YouTubeは「著作権侵害」で苦しんだが、むしろ、その法的な側面よりも「営業機会の損失」を現在は、「営業機会の発生」へと変えるプラットフォームづくりをしているので、音楽出版会社の「オフィシャルビデオ」というカテゴリーが存在している。また、音楽の二次利用の許諾なども、包括契約により、たとえ、誰かが、誰かの音楽をカバーした楽曲動画をアップロードしても、YouTubeのAIが、誰の楽曲かを分析し、著作権利者に広告料を分配するビジネスモデルが導入されている。つまり、音楽を聴くだけでなく演奏するという楽しみも合法的に可能となった。この、しくみがなければ、著作権侵害カバー動画をアップロードしているだけになる。

基本的にはYouTube同様の広告だが、アーティストとファンの場をつなぐファンクラブ的な、1対nのコミュニティづくりは可能だろう。YouTubeを運営するGoogleは、テクノロジードリブンな企業体質なので、コミュニティという「人対人」のプラットフォームは、過去にさんざん失敗し続けている。しかし、情報提供と情報の到達距離をオフィシャルサイト側が選べるプラットフォームにすることは可能だろう。CDには付いていたリアルな生音のカラオケがYouTubeではオフィシャルでなかったりするからだ。これが月額ファンクラブなら使える…。アレンジの違う状態。音声やパート別にリミックスできる権利など…。「YouTubeチャート」というランキングならではの、今まで知らなかった、音楽に関連性のない出会いや、動画ならではのアーティスト名や楽曲名情報も常に可視化されている。オフィシャルサイト側がチャージできるビジネスサポートをやるのは Google側のテクノロジーでなんとでもなるのではないだろうか?

音楽産業の歴史は繰り返される…

かつて、レコードが普及する前は、ピアノの楽譜が販売され、ピアノが家庭に売れている時代があった。

1890年から(ピアノの)ブームが起こるがレコードが普及した1910年代に頭打ち。ラジオの普及した1920年代につるべ落としとなっている。レコード産業は、フリーメディアのラジオに勝てず、かつて売上が25分の1に落ちたことがある。1930年初頭のアメリカのことである。

出典:連載第36回 ラジオの登場で売上25分の1になったレコード産業、イノヴェーションを重ね復活

19世紀まで音楽は、演劇や音楽会を劇場で見たり、ピアノで楽譜を見て、自ら自演して楽しむものであった。それらが19世紀後半のレコードの誕生から、1920年代には、無料の「ラジオ」がレコード産業を席巻していくという歴史を持っている。フリーミアムモデルの「YouTubeチャート」はまさにミュージックビデオにおける「ラジオ」の役割をにないそうな気がしてならない…。21世紀の「YouTubeチャート」という「ラジオ」は、いつでも好きな時に聞けるラジオという機能つきなので、音楽パッケージを無意味にしてしまっている。だからこそ、音楽は、再び19世紀にまい戻り、劇場で見たり、二次利用で楽しむという「先祖帰り」を果たそうとしているのかもしれない。そこに新たな音楽のイノベーションがありそうな気がしてならない。