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世界で一番わかりやすい『ビットコイン』と『仮想通貨』の本質的なこと

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
『仮想通貨』や『ビットコイン』って何? 何度聞いても意味がわかりません…(写真:ロイター/アフロ)

KNNポール神田です。

日本の仮想通貨取引所、コインチェック社からの580億円相当の『NEM』コインの流出は、世界的なニュースになっている。日本でもタレント出川哲朗さん出演のCMで知られていた会社だ。これは4年前のビットコインの『マウントゴックス』騒動(2014年2月7日)を彷彿させる…。今回は、さらに紛失金の規模が増えた…。一番危惧するのは、やはり『仮想通貨』や『ビットコイン』、そして『ブロックチェーン』は危ない、怪しい、近寄るな…という話になる展開だ。そこで今日は、世界で一番わかりやすい『仮想通貨』のお話をしたいと思う。

そもそも『仮想通貨』とは…

「仮想通貨」の説明の前に、「通貨」の話をさせていただきたい。

人類は有史以前から『物々交換』が基本でした。育てた麦などの作物を、採れた魚や肉、牛や豚と交換する、つまり『交易』を繰り返してきました。モノとモノを交換するのは、当事者同志が互いの価値を「等価」として認めることによって、はじめて取引が成立する。すなわち『約定(やくじょう)』という。

しかし、「モノ対モノ」だと、必ず、保存場所が必要だったり、数日で腐ってしまったりと大変だ。価値が日々刻々と変化する。そこで、登場するのが『トークン』と呼ばれる硬貨の代用品だ。石を加工したり、貝殻等でトークンを作り、「モノ対トークン」「トークン対トークン」「トークン対モノ」に、一端、置き換えて取引きをはじめると、生きた牛やら豚も奴隷も、トークンひとつで移動がとても簡単になった。そしてそのトークンも勝手に作られてはまずいので、トークンを作ることを中央で管理するようになった。それが時の政府や権力者であったりする。現在の貨幣の基礎となる『中央集権型』の貨幣が誕生する。

メソポタミアの『粘土板』はブロックチェーン技術だった

そして、その便利な『トークン』も量が膨大に増えてくると、移動とセキュリテイ管理が大変になる。そこで、紀元前3500年のメソポタミア文明で、象形文字から進化した楔形(くさびがた)文字による『粘土板(タブレット)』が発明された。粘土板に記載れた記録を改ざんされないように粘土板を焼いて取引内容を固定化した。つまり改ざんされない『暗号化』された『台帳』が発明された。古代メソポタミアでは、重要なことは金銭にかぎらず、すべて、タブレットに焼きこまれて保存された。取引、利息、金利、不動産、法律、辞書、数学、測量、天文、酒造、医療…すべての重要な事項がタブレットに焼かれて保存される。そう、これぞ『ブロックチェーン技術』の先祖の誕生だったのだ。そう、ブロックチェーンは「仮想通貨」だけでなく、改ざんされにくい台帳技術だからいろんなことに応用ができる。

シュメール人による都市国家は絶え間ない戦争のため、金銭だけでなくいろんな事象が、タブレットによる『分散型台帳技術』として流用された。中央集権に依存しない『Cryptocurrency(暗号通貨)』のデータは、地方の権力者たちが自由に勝手に決めたトークンよりも、楔形文字を操れる人たち(エンジニア)が、焼きつけた(暗号化)「取引台帳」の方がはるかに「信用度(クレジット)」が高くなる。むしろ、その暗号化された解読(デコード)が日常化し、楔形「文字」をさらに進化させる事となる。

ブロックチェーン技術とは

現代の『ブロックチェーン技術』の最大の利点は、ひとつの「ブロック」を形成するのに、莫大な計算を必要とさせ、次のブロックにつなげてチェーン化していることだ。それにより、改ざんしようとするとその膨大な計算をすべて遡らなければならない。つまり悪意を持って改ざんするよりも正しくブロックをチェーン化して運用するほうが効率が良いのだ。そして、サトシ・ナカモト氏は、その計算をする人に「ビットコイン」という報酬を与えたのだ。計算することによってビットコインという「金」がもらえるので、「採掘=マイニングする人」、ビットコインマイナーが生まれる事になった。採掘するには、『プルーフオブワーク(PoW)』という作業をして報酬を得る。

ビットコインのはじまり 2008年11月1日

『ビットコイン』は2008年11月1日に「サトシ・ナカモト」という謎の日本人らしき人がメーリングリストで 「私は全く新たな電子キャッシュシステムを開発してしまった。信用されているとされる第三者を一切経由せず、完全なるピアツーピア型で(※筆者訳)」 と、論文を紹介したことによって社会に公表される。

サトシ・ナカモトによる9ページによる論文 出典:Bitcoin.org
サトシ・ナカモトによる9ページによる論文 出典:Bitcoin.org

https://bitcoin.org/bitcoin.pdf

2009年1月3日 ビットコインの誕生日

翌2009年1月3日より、「分散型台帳」の登録更新(マイニング=「採掘」)がされることによって「ビットコイン」の運用がなされる。常に台帳管理をコンピュータで計算し、台帳を更新するボランティアには、1ブロックごとに50ビットコインの報酬が与えられた。現在は25ビットコイン。

ピザ2枚が1万ビットコインと交換 2009年5月22日

2010年5月22日、アメリカフロリダ州のプログラマーが、ピザ2枚を1万ビットコインと交換したのが、ビットコインでの最初の商取引だった。1万ビットコインは現在106億円。

ブロックチェーン技術によるビットコインは、個人同士でもやりとりができるが、交換相手を見つけるのが難しい。そこで登場したのが、ビットコインの取引所だ。仮想通貨取引所を設けることにより、現在の通貨をビットコインと自由に交換できるようになった。しかし、取引所のセキュリティ管理の不備によって「マウントゴックス社」や「コインチェック社」のような事件が発生する。現在、日本の金融庁が認可している仮想通貨取引所は現在16社だ。

ビットコインの発行枚数は、発行上限枠が2,100万枚に限定されている。すでに1680万BTCが採掘の報酬として配られており、残りは420万BTC(20%)となった ※2018年1月13日時点 しかし、4年毎に報酬が下がり、全部採掘するのは、22世紀の2141年頃となる。ビットコインの採掘ブロック数は、このように誰もがすぐに知ることができる。これがブロックチェーン技術の良いところだ。

採掘されているブロック 出典:blockchain.info
採掘されているブロック 出典:blockchain.info

https://blockchain.info/

まるで1849年の『ゴールドラッシュ』掘る人よりも『マイニングプール』で道具を売る人が稼ぐ

ビットコインの膨大な計算をする為に、グループで計算(採掘)する手法が「マイニングプール」と呼ばれる。そして、マイニング専用のマシン「ASICエーシック(Application Specific Integrated Circuit)」が販売されたり、レンタルされたり、クラウド化されたりしている。さながら1849年の「ゴールドラッシュ」の頃のスコップやシャベルを販売した業者のビジネスモデルがここに再現されている。しかし、21万ブロック(約4年間)の計算ごとにビットコインの報酬は半減させることによってビットコインは「」と同様に埋蔵量を限定するメタファーを持つことによって価値が目減りしないように目論まれた。採掘は難しくなり、ビットコインの価値は上がるという図式だ。サトシナカモトはビットコインに19世紀の「ソブリン金貨」と同じ価値を与えたと言えよう。

しかし、新しい技術には常に新しい詐欺が常に取り込まれる…。最近多いのが「マイニングプール詐欺」だ。スターバックスのWi-Fiにアクセスしたらブラウザ経由でマイニングソフトウェアを侵入され、プールマイニングに利用されたという。もはや無料Wi-Fiほど恐いものはない時代だ。

ビットコインの思想、空気抵抗のない貨幣社会

ビットコインの思想は、中央集権制度に対してのカウンターカルチャーであり、インフレやデフォルトするような国家の貨幣の肩代わりをし、手数料のかからない貨幣社会をめざしている。しかし、ビットコインは、非中央集権で分散台帳技術が基本なので、コミュニティと呼ばれる運用者たちが話し合うことにより、取引の処理速度を上げる為の分裂などが頻繁に行われている。「ビットコインキャッシュ」「ビットコインゴールド」「ビットコインダイヤモンド」という新たなビットコインからの分裂コインが増えている。株式の分割と違って、すべての株の価値が希薄化するのではなく、保有するビットコインに応じて、新しいコインが付与されるので分裂は決して悪いことではない。しかし、新たなコインが付与されるかどうかは仮想通貨取引所によって変るので、取引所は複数検討しリスクを分散しておくべきだろう。

金融業界もこぞって参入フィンテック化するブロックチェーン

仮想通貨取引所では、非中央管理者不在のビットコインだけではなく、ヴィタリック・ブテリンが19歳のときに考案した「イーサリアム」、 管理者のいる「リップル」やコミュニティが運用する「NEM」などのアルトコインと言われるコインが現在1500以上も流通している。リップルにはSBIホールディングスが10%出資。

サトシナカモトにも対面したというSBIホールディングス北尾吉孝CEO

そして、これらのコインが上場することを株式公開IPOのメタファーで『ICO(イニシャルコインオファーリング)』という。上場前に買うと儲かるというICO詐欺も多くなった。Facebook社はICOの広告を中止する措置をとったほどだ。

仮想通貨の時価総額ランキング 出典:coinmarketcap.com
仮想通貨の時価総額ランキング 出典:coinmarketcap.com

https://coinmarketcap.com/all/views/all/

流出したNEMは取り戻せるのか?

連日、海外ニュースでも日本のNEMの流出は大きくとりあげられているが、ブロックチェーンの最大の利点は取引が可視化されていることだ。

コインチェックが運営する仮想通貨取引所「coincheck」から1月26日、580億円相当の仮想通貨「NEM」(単位はXEM/ゼム)が盗まれた。

NEMの取引はブロックチェーンに記録・公開されており、NEMのブロックチェーン情報を確認できる「NEM BlockChain Explorer」を使えば、ウォレットアドレス(仮想通貨の「口座番号」に当たるもの)ごとに、入出金履歴を確認することが可能だ。

コインチェックのNEMのウォレットアドレスは「NC3BI3DNMR2PGEOOMP2NKXQGSAKMS7GYRKVA5CSZ」。

出典:コインチェックから盗まれた「580億円分のNEM」今どこに? ブロックチェーンで“一目瞭然”

実際に「NEM BlockChain Explorer」にコインチェック社のアドレス「NC3BI3DNMR2PGEOOMP2NKXQGSAKMS7GYRKVA5CSZ」を打ち込んでみると2018年1月26日の取引の犯行現場を見ることができる。日本人プログラマーのJK17氏がNEM財団と協力し、この盗まれたNEMにはマーカーを施した。世界の取引所が流出したNEMの換金や交換に応じた時には、流出先がわかるようになっている。ただ、アカウントはわかるが、その犯人が誰なのかまでは現在のところは追跡できていない。

さて、いかがだったでしょうか?

ざっくりと、ここまで駆け足で、独自の解説も交えて、『仮想通貨』の世界で一番やさしい解説を目指してみました。

まだまだ、現在進行形のこの「仮想通貨」、いや言葉で説明すると『暗号通貨クリプトカレンシー Cryptocurrency』は、もしかするとインターネットの本当の正体のような気がしてきます。

中央集権から非中央集権、分散処理、各々のパーソナルコンピュータやスマートフォンがネットワーク化された新しい未来。常に悪意を持った人が現れますが、いつしか良貨が悪貨を駆逐する時代がきっと訪れる日を心待ちにして愛してやみません。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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