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Googleの無償AIでやってくるミライ

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

KNNポール神田です!

米グーグルは音声検索や写真検索など同社のサービスで幅広く使われている人工知能(AI)ソフトを無償公開すると発表。オープンソースソフトとしてプログラムの設計図を公開するのは、画像認識や翻訳、音声認識などの分野で威力を発揮する「マシンラーニング(機械学習)」用の最新ソフト「テンソルフロー」。機械学習の一種で、人間の脳の働きをまねた「ディープラーニング(深層学習)」の手法を取り入れ、学習速度や精度を大幅に向上させた。AIの開発を巡っては、グーグルやフェイスブック、マイクロソフト、IBMなどIT大手だけでなく、トヨタ自動車が5年間で1200億円を投じる計画を発表するなど、競争に拍車がかかっている。

出典:米グーグル、人工知能ソフトを無償で公開 普及を優先 AI分野で主導権狙う

AIに関しては、各社が熾烈な競争で展開しているが、Googleはあっさりと『無償公開』という『Googleウェイ』を選択した。Android OSと同じ手法だ。企業はもとより、開発者たちは基幹部分の開発をすることなく、アプリケーションレイヤーでAIをどの分野で活用するかということに集中して開発することができる。これによってGoogleはありとあらゆる方面からの活用方法が集まり、それをもとにしたGoogle AIの『経済圏』を築くことができる。そう、GoogleはAIビジネスで市場を制覇する必要がないという強みがある。AIを使う人たちという未知なる巨大な広告媒体を作れば良いという視点があるからだ。

ここで注目すべきは「無償で公開」というポイントだ。世界中でAIの技術開発が進んでいる今、ソフトを公開せず自社内で開発し独占的にリリースすれば、それだけである程度の利益を見込むことができる。しかし、グーグルはその方法を選ぶことはなかった。その背景にあるのは、グーグルのビジネスモデルの存在だ。グーグルはすでに、インターネットを利用する人が増えれば増えるほど利益が上がる広告をメインにしたビジネスモデルを作り上げている。そして、AIはインターネットと密接に関わっている存在であるため、AIが普及することは、グーグルのビジネスの規模が増すことを意味するわけだ。

出典:なぜグーグルは「拡大力」で他を圧倒するのか

利用する人が多ければ多いほど、ディープラーニングの分析・解析要素は増える、AIビジネスは、ユーザー数による症例数が多ければ多いほど的確な傾向を示すことができる。さらに、その利用者の傾向にあわせて、マッチングする広告主との接点を構築することができる。これは他のAI企業とはまったく違った「広告」というビジネスモデルを持っているからだ。さらにGoogleの広告の秀逸なところは、テレビコマーシャルのように興味のない人にアテンションを喚起させる必要がなく、その人の傾向と広告出稿側のターゲットを合わせた広告によるマッチングビジネスであるところだ。そこには、今までの広告クリエイティブとも違った表現が求められている。

グーグルは、環境問題やエネルギー問題の解決にも取り組んでいる。『Google、再生可能エネルギー買取量を倍増』というニュースがあったが、コンピューター技術が進歩すれば自ずと環境問題に影響が及ぶことを見越し、その解決に向けて積極的な取り組みを行っているのだ。この動きを見るに、グーグルは民間の営利企業ではあるが、自社が“公器”であることを理解しているのだろう。

出典:なぜグーグルは「拡大力」で他を圧倒するのか

そう、このGoogleが社会の『公器』というところが特筆できるパートだ。Googleの『公器』は一国だけの『公器』でなく世界の『公器』として成立しているところが今までの企業にないところだ。インターネットでグローバルでサービスを提供すればするほど、国とか国境とかの概念が限りなく透明化してしまう。

Googleは、税金を一銭も投入することなく社会に役立つ事業を展開している。たとえば、Googleストリートビューのような機能は国家の枠を超えて世界中で広く使われている。ストリートビューで、専門家であれば、不動産価値を現場を見ないでも推定できたりできる。

もしも、Google ストリートビューを税金で作ろうとしたら…

http://bylines.news.yahoo.co.jp/kandatoshiaki/20160104-00053098/

地方公共団体が新たな地図を作ったり、専門地図企業から購買することもなくなった。以前であれば税によるコストをかけて構築していたことが、誰もが無料でGoogleのマップやGoogleアースを世界中の人が利用できる。見知らぬ海外に行ったとしても空港のタクシーに地図の目的地をつげる。ボッタクリのタクシードライバーにGoogleマップを見せ、ルートが違うと注意することもできるようになった。新たなサービスがネットで繋がることによって、今まで『経験』することができなかった潜在的な問題解決に繋がるのだ。

■お役所にAIが導入されたら

AIを搭載したさまざまなデバイスや家電やクルマが登場するだろう。さらにAIはルーティン作業で混雑しているところにも効率化を与えることができる。たとえば、役所などの事務作業は、AI化することにより、何のために戸籍謄本を取得する必要があるのかを判断し、時期にあわせて、先回りした必要書類をワンストップで揃えるなんてこともできるだろう。確定申告などにも使えるだろう。役所の合理化で税を節税できることだけでなく、役所で足止めされる時間は、目に見えない膨大なGDPを損失していたりするのでそれを補えるかもしれないだろう。日本の役所が米国企業のGoogleのAIを使うとは思えないが、もし、使うとすると、どれくらい効率が期待できるのかは調べておくべきだろう。もはや、国産だから、外国だからという判断すらナンセンスになろうとしている。中国やロシアのAI企業だと気がひけるが…。

■AIの未来は家電と一緒

AIの進化は、コンピュータ以上に、人類に影響を与えることだろう。コンピュータはあくまでも人間がリクエストする必要があるが、AIは自動的に判断し、人間に確認を取り、問題がなければ、人間以上のパフォーマンスで物事を先回りし、自ら修正しながら、作業を続ける。AIたちは人間から単純作業という仕事を奪ってしまうことだろう。だからこそ、人間は、単純なことは、AIにやらせ、考える仕事に集中できるようになる。その仕事ですら、AIの進化は奪おうとするのかもしれない。そんなGoogle AIで人間が楽になれるようになった時、人間は、何をすればよいのか? 

AIは家電と一緒だ。掃除機がなかった頃は、ほうきと、ちりとりと、雑巾で掃除をしていた。洗濯機がなかった頃は、たらいと洗濯板で洗濯していた。家電の登場はそれらの時間を短縮してくれたのだ。AIはもっとそれをスマートにおこなってくれることだろう。しかし、AIが進化して人間を征服してしまうのでは?と危惧する人たちも多い。AIがあれば恋人や話し相手がいらなくなると危険視する人もいる。AIは、人間を征服しなくても、もはや征服しているのも同じ状態だ。少なくとも、洗濯に関しては家電に洗濯の仕事は征服されてしまった。

人間は楽をするために生まれてきたと考えれば、もっとAIやコンピュータに働いてもらったほうが良いのだ。しかし、人間の果てしない欲求にAIが対応できるまではまだまだ相当、時間がかかりそうだ。それに、AIが映画『ターミネイター』のように人間を駆逐するメリットは今のところ考えられない。これだけテクノロジーが昔よりも進化したのだから、少し、働くだけで、十分に生きていける社会になっていないと本当はおかしいのだ。テクノロジーが進化すればするほど、人間は忙しくより高度に考えなくてはならなくなっている気がして仕方がない。まずは、AIにまかせて、人間がもっと怠惰で楽しく暮らせるようにGoogleに考えてもらいたい。その上でどんな広告手法で人類の煩悩にアクセスしてくるのか非常に興味深い。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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