Yahoo!ニュース

アップルの発表会で感じた極めて個人的なインプレッション

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

時差によって、午前2時からの発表会のために、起きていた同志よ!お疲れ様。

しかしながら、まるで、答え合わせのような発表会であった。

はっきり言って全くつまらなかった…。

かつては、「One more thing(オマケコーナー!)」 と、まったく予期せぬ発表で楽しませてくれた発表会だったのだが、すべて、事前にリークされていた情報ばかりであった。しかも、かなり精緻なところまで最近はリークされている。まるで、プレスリリースを送付していたかのようだ(笑)。

いっそのこと、(PRODUCT) RED製品と同じConceptで、中国の富裕層向けにギンギラ金のiPhone5Sに、ドラゴンの模様をいれて、888ドルにすればとも思った。8は中国のラッキーナンバーだ。そこの収益をHIVなどへ回すこともできる。

もしも、ジョブズが…とは言っても仕方がないことは十分承知の上だが…。

ジョブズは、iPodの発表時には、iPhoneプロジェクトを進行させ、iPhoneの発表にはiPadプロジェクトを進行させてきた人だ。本当は、iPhone5をiPhone5Sにして、マイナー進化させるだけで満足していないはずだ。

「電話の再発明」市場は、アップルが発明した。しかし、この市場はすでにAndroid市場に占有されつつある。

アップルは、かつてパーソナルコンピュータの市場を発明し、IBMに市場を占有されてきた。

Macintoshで発明したGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)は、Windows OSに市場を占有された。そして、iPhoneで発明した市場は、グーグルのAndroidに市場を席巻されつつある。歴史は繰り返されている。

そこで、今回の発表の最大の仕事は、iPhoneが、チャイナ・モバイル7億4000万人とドコモでは、6200万人の民が、iOSに変化するチャンスを持つこととなった。8億人のポテンシャルだ。

これは、スマートフォン市場では絶大な影響度を持つ。

これに対して、Android陣営は、ハードベンダーの多様さから、いろんな機能を搭載したスマートフォンを年末商戦にむけて投入することだろう。しかも四半期ごとに新製品が各ベンダーから投入され続ける。アップルはこの状況と戦い続けなければならない。

アップルは、このスマートフォン世界大戦で、2014年に向け、「iPhone6」の仕様固めと、部品調達と設計に注力を注いでいるとボクは思う。

2013年、今回の発表は、iOS7のモダンなGUIと指先での操舵性を流布させる手立てと、フィーチャーフォン、ガラケーユーザー、新興国ユーザーへのアプローチが一番の目的であるのは明確だ。

アップルは、先進的なOSで、Androidのメーカーごとのバラ付きのある操舵性との差別化をはかる。そして、宿敵サムスンがどんな手を打ってくるのかをじっくり見定めておく時期が2013年なのである。

2014年は、サムスンの行動を予測しながら、サムスンの良さも、拝借しながら、次のiPhoneを登壇させるのだ。

Android陣営はハードベンダーの数だけ、四半期ごとに、新製品が投入されるから、アップルは、一度だしたら、1年以上陳腐化されない機能で勝負しなければならない。

アップルのリリースは、年に一度の機会しかない。専業メーカーがたったの一社だから仕方がない。

現在の高収益を維持するためには、少品種大量生産しかない。そのためには、失敗のできない製品開発が必要である。

今までも、iPhone4 iPhone4Sとマイナーアップデートで、iPhone5と来た。そして、今回のiPhone5Sだ。

おそらく、来年のiPhone6の登場で、スマートフォンの最終戦争はカタがつくか、一層、泥沼化するかだ。

また、アップルは、iPhoneではなく、次の柱をそろそろ発表しなければならない時期でもある。スマートフォン市場が成熟化しつつあるからだ。これは時間の問題だ。もうカタチになっている頃だろう。それが、最後のジョブズの託した夢にちがいない。

iWatchのようなものは出そうと思えばいつでも出せる。他社に先行させ、後出しジャンケンでも市場を席巻できる自信がある。

本丸は、Apple TVのようなセットトップボックスも、テレビを再発明するためには非常に有効である。ジョブズは最終的にテレビを再発明したかった。彼がその欲望を我慢したまま天に召されるわけなどないだろう。

そこを考えるならば、Chrome CastのようなHDMIに装入するだけで、インテリジェンスなPCとなる市場に大きな意味がある。

ただ、安価すぎて、Googleのように検索など別のマネタイズ手法を持っている場合は有効だが、ハードを販売するアップルとしてはうまみがない。

しかし、iPhone、iPad、がリモコンとして使え、HDMIさえあれば、巨大なスクリーンになんでも投影できる環境が用意されると色々と新しい市場が見えてくる。4K 8Kのディスプレイ需要、ワールドカップにオリンピックにといろんな歴史的なイベントは2年おきにやってくる。

それらの答えが、きっと2014年なんだと思う。今年は、新興国市場でシェアを拡大させ、新規ユーザーにiOSに慣れてもらい、事業を安定させ、来年に勝負にでると想像したい。しかし、グーグルとアップルは敵対する構図になって見えているが、基本的には同質のDNAを持つ企業だ。

世界を変えたい。世界をもっと良くしたい。というフィロソフィーがある企業であれば、互いを疲弊させるだけでなく、互いを踏み台にしてでも、歴史をもっともっと進化させることもできるはずだ。そこにITの未来の姿を期待したい。

アップルの発表会を見ながら、今年は、「まったくなし」だなと思った瞬間、ついついいろんな想像力がかき立てられた夜であった。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

神田敏晶の最近の記事