■レジ袋に続き 使い捨てプラスチックの規制

 4月からコンビニなどの買い物で新たな環境規制が始まる。昨年のレジ袋の有料化に続いて、今度は無料で渡されるスプーンやフォークなど、使い捨てのプラスチック製品12品目について、削減の取り組みが義務化となる。通称「プラスチック新法」と呼ばれるこの法律の正式名称は「プラスチック資源循環法」。対象は年間5トン以上のプラスチックを提供している企業だ。これを受けて、大手コンビニでは短くしたスプーンやフォークを開発したり、木製スプーンの導入を検討したりしている。食品メーカーでも、ソーセージの袋の形状を変更してプラスチックの削減をおこなうなど各社知恵を絞っている状況だ。また、これまで日本のホテルでは一般的に置かれていた使い捨て歯ブラシなどプラスチック製のアメニティーを削減、有料化する動きも広がっている。一部のホテルでは、持ち手が竹で作られている歯ブラシや、木製のヘアブラシを採用する予定だ。有料で販売し、自宅でも引き続き使えるように持ち帰りの袋を準備しているところもある。

■2050年 海には魚よりもプラスチックが多い

 背景には、深刻化する世界の海洋プラスチック汚染がある。海洋プラスチックごみのほとんどは陸地から流れ着いたもので、なかでも包装材などのワンウエイと呼ばれる使い捨てプラスチックの割りあいが高いことから、今回の「プラスチック新法」が施行された。海洋プラスチックごみの発生量を、国連環境総会(2019年開催の第4回総会)の資料から世界全体でみてみよう。この資料によれば、管理されていない海洋プラスチックごみは、2015年には6600万~9900万トン発生している。実はこの数字は、2050年までに年間1億5500万~2億6500万トンに急増すると予測されている。プラスチックの生産量ベースでみても、人口増加と生活スタイルの変化によって、その生産量は2040年まで倍増する見込みだ。その結果、海洋プラスチックごみの量は2050年には2015年の最大4倍に達する見込みなのだ。2050年の予測量は、魚より海洋プラスチックごみの量の方が多くなることを意味している。疲れた心を癒すために訪れた旅先の海岸が、ペットボトルなどのプラごみで溢れかえる。そんな悪夢はすでに世界のいくつかの場所で起きつつある。

独自の文化が人々を魅了するインドネシア・バリ島も海洋プラスチックごみに悩まされている(提供:shutterstock)
独自の文化が人々を魅了するインドネシア・バリ島も海洋プラスチックごみに悩まされている(提供:shutterstock)

■バリ島 「最後の楽園」にあふれるプラごみ

 アジアを代表するリゾートであるインドネシアのバリ島でも悪夢はすでに現実となっている。

南部に位置するリゾート地・クタ。美しい夕陽で知られるこの海岸には朝晩、おびただしい数の海洋プラスチックごみが打ち寄せている。高級リゾートが立ち並び、世界のサーファーを魅了する長い海岸線。その目と鼻の先が、海洋プラごみまみれなのである。朝晩、ホテルや市場、行政の関係者が清掃して環境を保っているが、時に「最後の楽園」と称される美しい島は、今やプラスチックごみにまみれた「失われた楽園」へと姿を変えつつある。

バリ島南部クタの海岸に流れ着いた海洋プラスチックごみ(提供:shutterstock)
バリ島南部クタの海岸に流れ着いた海洋プラスチックごみ(提供:shutterstock)

 島の中部のウブドでは以前からプラスチックごみに悩まされてきた。バリ舞踊やガムランなど伝統文化が息づくこの地でも、川沿いや沢にはあふれんばかりのプラスチックが捨てられている。長年、山に放置されたプラスチックは、大雨や河川の氾濫で海へ流れ着き、リゾート海岸をプラごみの海岸へと変えてしまった。現在は、島の子供たちが発端となった運動の成果で、バリ島全体で使い捨てプラスチック包装などを廃止したが、過去に捨てた多くのプラスチックが島の至る所で地層のように折り重なっており、海に流れ出す危険はずっと続いている。

■鯨の腹から6キロのプラスチックごみ

 海洋プラスチックごみの影響は海洋生物にも及んでいる。2018年、インドネシアのカポタ島の国立公園の海岸に打ち上げられた9.5メートルのマッコウクジラの死体からは、およそ6キロのプラスチックごみが発見されている。WWFインドネシアによれば「プラスチックカップ(115個、750グラム)、硬いプラスチック片(19個、140グラム)、ペットボトル(4個、150グラム)、レジ袋(25枚、260グラム)、ビーチサンダル(2足、270グラム)、プラスチックひも(3.26キロ)」がクジラの体内にあった。また同じ海で死んだウミガメ102頭の内臓を調査したところ、すべての個体からマイクロプラスチックをはじめとする合成の粒子が800以上見つかった。ごみが直接的な死因につながったかは判明していないが、海の生き物が以前より甚大な量のプラスチックごみと生きていることは間違いない。

鯨のお腹から6キロものプラスチックごみがみつかった(WWFインドネシア)
鯨のお腹から6キロものプラスチックごみがみつかった(WWFインドネシア)

■国連環境会議での画期的な合意

 汚染についての認識は世界各国で高まりつつある。海や川に流出した海洋プラスチックごみは、国境を越えて影響を及ぼすため、一国で対処するのは限界がある。今年2月28日から3月2日にケニアの首都ナイロビで開催された国連環境総会(UNEA)では、海洋プラスチック汚染がメインテーマとなった。200か国近くが参加して、日本をはじめいくつかの国が海洋プラスチックの汚染対策について提案を出した。会議の最終日になされた合意は画期的なもので、世界初の海洋プラスチックについての国際協定制定に向けた交渉の開始となった。2024年までに法的拘束力のある協定を交渉する政府間委員会を設立することに、全会一致で合意したからだ。この画期的な決定に、エスペン・バットアイダ議長(ノルウェーの気候・環境相)は「我々は歴史をつくっている」と言明した。拘束力のある措置、国際的目標と義務の設定、各国の行動計画、進行状況と責任の追求、発展途上国へは対策のための資金援助の必要性も言及された。

 実は、海洋プラスチックの分布や流出経路、生態系への影響に関する科学的データは不足している。法的拘束力がある国際条約を決定する際にも、海洋プラスチックに対する科学的な知識はその基礎となるものであり、温暖化対策の気候変動枠組条約における IPCC(「気候変動に関する政府間パネル」)のような科学者と専門家による科学的知見を共有できる機関の設立が必要となる。

■進むEU、流れを変えた中国、そして日米は?

 現在、各国で様々な取り組みがなされている。日本のレジ袋の有料化は取り組みとしては遅れており、10年以上前から西欧諸国では行われていた。フランスでは野菜をプラスチックで包装すること自体が禁止となるなど動きが活発化している。EU は総じて環境意識が高く「EU プラスチック戦略」の策定が実行され各国がそれに基づいて取り組みをおこなっている。

 中国は実はこの問題にはからずも大きな役目を果たした。発展途上であったかつての中国では、廃プラスチックを資源として輸入し再利用していた。しかし汚染状態のものが多かったため2017 年に廃プラスチックの輸入を全面禁止。その後、マレーシア、ベトナム、インドなど他のアジア諸国も相次いで輸入をストップした。これにより、先進国は廃プラスチックの行き場を失い、対策に取り組まざるを得なくなった。その後、中国政府はプラスチック製品の大幅削減計画を発表している。ただし、中国はその人口の多さから、年間総廃棄量は世界ダントツ一位の2,536万トン。そのうち海洋への流出量は882万トン(2010年)とどちらもダントツの一位だ。

 アメリカでもアメリカ海洋大気庁による「海洋ごみプログラム」が設立された。ただ、そもそもアメリカは使い捨てプラスチックの量がすさまじい。年間の廃プラスチックの排出量は第二位の1719万トン。米中で世界の3分の1を出している計算になる。このうち、海洋流出量は28万トン(2010年)で中国よりも少なく感じるが、先進国では突出して多い量を海に流している。

(Minderoo Foundation、London School of Economics、Stockholm Environment Institute、Wood Mackenzieより)
(Minderoo Foundation、London School of Economics、Stockholm Environment Institute、Wood Mackenzieより)

 筆者は現在ニューヨークに、コロンビア大学のフルブライト客員研究員として居住している。NY州ではプラスチック製ストローの廃止や、買い物袋の有料化は行われているが、そもそも多くの飲食店で、店内飲食にも使い捨て容器を使っているため、生活するだけでおびただしい量の廃プラスチックが出てしまう。細かい分別はなされておらず、本当にリサイクルされているか疑問に感じながらゴミ箱に入れる毎日だ。大量に使って捨てる、いわゆる大量消費大量廃棄の社会システムがここまで浸透してしまうと、どんなインセンティブがあれば転換できるのか難しい問題だ。ちなみに日本の廃プラスチックの総量は世界第四位の471万トン。そのうち、毎年2〜6万トン(2010年)が海に流出している。海洋流出量は先進国ではアメリカに次ぐ多さだ。長い海岸線に囲まれ、海と共に生きてきた日本。寿司や刺身など海産物の恵みを長く享受してきた私たちの文化にとって、海洋プラスチックの問題は今後、ますます重要な課題となってくる。