我が国でも岸田新総裁が決まり、新たな内閣が組織されたが、今度は衆議院選挙が目前に控えている。顔ぶれを一新した自民党が、政治に新風をふかせられるのか、という点に国民の関心が集まっているが、選挙と言えば、隣国のロシアで下院選挙が先月実施された。この国では、20年以上にわたって指導者層が変化していない。プーチン大統領は2000年以降、ロシアを実質的に支配しており、先進国の中では圧倒的に古いリーダーである。なぜ、プーチン政権はこれほど長く政権を握り続けることができるのか。

プーチン政権の将来を占う試金石~5年ぶりの下院選挙

9月17日~19日に実施されたロシア下院選挙において、プーチン与党である「統一ロシア」が大きな勝利を収めた。今回の下院選の行方に関しては日本のメディアの関心も高かった。というのも、本年1月に反政府活動家、ナヴァリヌィ氏の逮捕、拘束以後、ロシア国内でも反政府的な機運が高まっていたからである。今回の選挙では、ナヴァリヌイ氏らの支持者の活動は封殺されたとはいえ、選挙結果は、ロシアにおけるプーチン政権の将来を占う試金石となると見られていた。

結果は先に述べたとおり、プーチンの与党である「統一ロシア」が定数450議席中、324議席を獲得する勝利を得た。これは憲法改正に必要な下院の3分の2を上回り、7割強の大勝利である。2016年の前回の選挙時に比べれば19議席の減となったが、反政府デモが続いた本年前半の政治状況を見れば、大いに健闘したと言えるだろう。第2党は前回同様ロシア共産党だが、15議席増の57議席にとどまった。その他、「公正ロシア・真実のために」と「ロシア自由民主党」がそれぞれ27議席、21議席となっている。

「新しい人々」?

上記4党はいつもの政党であるが、加えて昨年結成されたばかりの新党「新しい人々」が比例代表で議席を13獲得したことが注目されている。2003年以降、比例代表選挙で議席を獲得した政党は、ずっと前述の4党だけだった。今回、約20年ぶりに新しい党が比例代表で議席を獲得したのである。しかも、結成1年のほやほやの新党である。「新しい人々」党は、科学技術や国家権力、多国籍企業が人々の生活にかつてなく侵入している中、ヒューマニズムの価値観で対抗するとするリベラル色の強い党だ。ただし、党首のネチャーエフ氏は政権に近いとされている人物であり、プーチン政権のダミー政党に過ぎないとの見方が大勢であるようだ。

ここで、それぞれの政党がロシアでどのように見られているのかを簡単に概観して、プーチン与党勝利について考えてみたい。来るべき我が国の衆議院選挙を占う上で、何らかの参考になるかもしれないからである。

ソ連復活を目論むロシア共産党

まず、第2党であるロシア共産党は、ソ連に回帰し、新たな社会主義国家を建設することを党是とするが、「最も信頼できる野党」というイメージが定着している。ここで、信頼できる、と言われているのは、政党として信頼できるというよりは、真正の野党であるという意味であることに注意したい。つまり、他の政党であるロシア自由民主党や公正ロシアといった政党は、野党のように見えて、与党の応援団に過ぎないと見られている。だからこそ、プーチン離れが進んでいると言われる極東(ハバロフスク、ヤクーチヤ)では、共産党が与党統一ロシアの代替政党として選挙に勝利している。

ただ、共産党員やその支持者たちは、今回の選挙結果を認めないとして声を上げている。今回の選挙で使われた電子投票が信用できないというのである。それに対し、ロシア共産党指導部は、とりあえず今回の選挙結果を認め、その上で議会内でのポストについて政権側と交渉しているという。ここは、洋の東西を問わず、政治家の論理が前面に出ていて面白いところ。結局のところ、政治家というのも職業の一つなのだ。敵でも味方でも、当選した以上は同じ釜の飯を食っているというわけである。

野党共闘は簡単ではない

次に、「公正ロシア・真実のために」だが、これは3つの党による野党連合であり、そのため、社会主義政党であり、かつ愛国党であるという体面になっている。しかし、票は思うようには伸びず、連合によって、立場が強化されたわけでもなく、支持者を結集できたわけでもない、との専門家の評価である。野党連合といえば、我が国でも立憲民主党と共産党を含む4党による共闘が立ち上がっているが、各党の支持層が結集されるのかは疑わしい。立場も強化されず、支持者の結集もない、との評が、こちらにも当てはまりそうだ。

超保守・極右のロシア自由民主党

次にロシア自由民主党だが、もともと、過激で率直な言い回しを得意とする党首ジリノフスキー氏のカリスマで一定の支持を集めていた。同党は超保守の極右政党で、旧ソ連地域の領土を回復すべきだの、北方領土問題を持ち出してくる日本について核爆弾を使えばいいだのとうそぶく過激な面がある。今回の選挙で大幅に議席を減らしたが、75歳になるジリノフスキー氏に、かつてのようなカリスマを見出せなかったことが敗因と評されている。

「安定」のプーチン政権

最後に、与党、統一ロシアはどうだろうか。プーチン大統領は、20年以上も政権トップの座にあり、すでに69歳になる。新鮮さもないし、若さもない。あえて、プーチン与党の勝利の理由を一言で言うとすれば、やはり、抜群の安定感と信頼感ということになるだろう。日本も高度成長期の60年代から70年代にかけての安定期には、池田勇人や佐藤栄作といった長期政権が可能だった。また、大きく見れば、自民党の55年体制も1990年代初めのバブル崩壊まで、40年近くにわたって維持されている。

ロシアも、1991年にソ連が崩壊してから90年代の厳しい不況の時代があったが、プーチン政権が始まった2000年頃から原油価格の上昇もあり、経済も安定し始めた。また、プーチン流の強権政治は、治安の面でも安定を取り戻すことに成功した。ロシアの有権者層には、ソ連崩壊後の困難な90年代を経験してきた人々が有権者の中にはまだまだ多い。しかも、プーチン政権下の20年間にも、モスクワにおける大規模テロ事件、シリア内戦やウクライナ危機などの国際的事案、それに伴う対露制裁などのイベントに直面してきた。欧米のロシア敵視も高まっており、新冷戦と言われるほどの状況だ。

ロシア政治は20年間、プーチン大統領とそのチームによって独占されてきたのは事実だ。しかし、KGB出身のプーチン大統領が誕生して、最悪だったロシアの町中の治安は改善し、汚職にまみれた警察もだいぶきれいになった。弱体化していたロシア軍も改革と近代化によって復活し、新兵器の開発も進めている。欧米に対抗できる強国としての自信を取り戻してきた。何よりも大きいのは、マフィアやオリガルヒ(新興財閥)によって支配された経済が、強権政治によってプーチン大統領、つまり政府の支配が及ぶようになったことだ。ベレゾフスキーやホドルコフスキーといったオリガルヒが、プーチン大統領によって排除されたことで、マフィアやオリガルヒでさえ、プーチン大統領に逆らうことはなくなったのである。プーチン政権の見せる安定感は、ロシアの中高年層にとっては捨てがたい価値なのだ。

プーチン政権は政治体制化

プーチン政権はかつての自民党のように盤石だ。プーチンの周りには、プーチンが引き上げてきた同僚や後輩、後援者などが集まっている。ただし、政府関係者には、政策のプロ、スペシャリストが起用されている。この中から次世代を担う政治家が育っていることは間違いない。

誤解を恐れずに言えば、プーチン政権とは単なる一政権というよりむしろ一種の政治体制である。日本で戦後の混乱期から抜け出し経済成長と社会の安定をもたらした自民党の55年体制のように、プーチン体制はソ連崩壊後の90年代の混乱を収拾し、ロシアに社会経済の安定をもたらしたばかりでなく、国際的な影響力も一気に取り戻したのである。

ただ、ロシア国民がプーチン大統領の「庇護」のもとにいつまでも安住していていいのかという問題は浮上してくるだろう。一部ではこの問題意識が既に浮上している。その意味で、プーチンの強権政治に否を唱え続けるナヴァリヌイはかつてのオリガルヒとは異なる。拘束すればそれですむとはもはや限らない。

さて、岸田自民党だが、安倍(細田派)、麻生(麻生派)がバックにつき、安倍政権の流れが続いているように感じられるのは事実だろう。NHKの最新調査では、岸田内閣が安倍・菅内閣を引き継ぐべきかとの問いに、57%対34%で、引き継がない方が良いとの回答が圧倒的に上回っている(NHK世論調査)。また、次の選挙で、野党が増えたほうが良いとの回答者(31%)が、与党が増えたほうが良い(25%)との回答者を上回っている。それでも、各政党の支持率では、38.8%で、二位の立民の6.6%を大きく引き離す(NHK世論調査)。つまり、自民党の安定感は支持しつつも、安倍・菅内閣の延長ではいただけない、ということだろう。コロナ小休止のいま、国民が期待するのは安定6,変化4といったところか。安全保障政策は基本的に継承してもらいつつ、経済・社会政策については、新機軸を打ち出してもらいたい。