行政で「生成AI」をどう活用するか? 「グーグルのAI」の回答をもとに議会で質問
5月のG7広島サミットで議論の対象になったChatGPTなどの「生成AI」。政治の世界でも注目が集まっているが、東京都の杉並区議会で5月31日、生成AIに関する質問が出た。
区政で生成AIをどう活用していくか? そんな質問に対して、区のデジタル戦略の担当者は明確な回答を避けつつも、「どのように活用していけばよいか、研究を深めていきたい」と答弁した。
自治体でも生成AIを活用する動きが広がる
米国の新興企業OpenAIが開発した「ChatGPT」やグーグルの「Bard」といった生成AI(人工知能)は、ユーザーが質問や指示を入力すると、まるで人間が作り出したかのような文章や画像を「生成」することができる。
多くの企業が生成AIをビジネスに活用しようとしているが、神奈川県横須賀市や茨城県つくば市などの地方自治体でも、生成AIを使って業務を改善しようという動きが出ている。
杉並区のAI活用は? 議会で「生成AIの回答」を紹介
杉並区議会は、5月31日から第2回定例会が始まった。初日の本会議の一般質問で、「生成AIの区政での活用」について聞いたのは、松本光博(みつひろ)議員(維新の会)だ。
松本議員は、グーグルの生成AI・Bardに「杉並区のAI活用に関する今後の展望」を聞いたとして、次のようなBardの回答を紹介した。
松本議員は、Bardが示した「杉並区のAI活用における今後の展望」について、「区として、どのように捉えているか見解をうかがいたい」と質問した。
「どう活用していけばよいか、今後研究を深めていきたい」
これに対して、武井浩司・デジタル戦略担当部長は次のように、生成AIにはメリットとデメリットの両面があると指摘した。
「生成AIは、企画書や報告書などの自動作成はもとより、翻訳やアイデアの創出など、その用途は多様で、さまざまな分野に活用が期待できる反面、非公表情報が収集され、公開されてしまう恐れがあるほか、正確性の観点や著作権を侵害する可能性がある等の課題があると認識している」
そのうえで、松本議員が紹介したBardの回答についても「こうした課題がある」と述べた。ただ、Bardの回答のどこに問題があるか、具体的な言及は避けた。
さらに、武井デジタル戦略担当部長は、生成AIに対する区の姿勢について、次のように説明した。
「生成AIに限らず、新たなデジタル技術は、区民サービスの向上や業務の効率化に大きく寄与する可能性を持っているが、これらの技術は、人間の思考や判断などを助ける一つの手段であることもふまえる必要があると考えている。こうしたことを念頭におきつつ、 基礎自治体としてどのように活用していけばよいか、今後研究を深めていきたい」
AI文字起こしの「実証実験」を実施中
また、松本議員は、5月前半の「AIの展示会」に言及しつつ、「杉並区でもAI文字起こしのサービスを本格的に活用してはどうか」と提案し、区の見解を求めた。
福原善之・区政経営改革担当部長は「区では、AI音声認識による記録作成支援システムを活用し、庁内の会議等での記録作成への活用に向けた実証実験を行っている」と説明。AI音声認識ツールのメリットとデメリットの両面に触れたうえで、「より効果的に活用できる要件を整理して、庁内の会議等での活用について検討していく」と述べた。
なお、松本光博議員の一般質問と杉並区の担当者の答弁は、杉並区議会の録画配信システムで確認できる。
・松本議員の生成AIに関する質問→動画の1時間8分ごろ〜
・武井デジタル戦略担当部長の答弁→動画の1時間37分ごろ〜
・福原区政経営改革担当部長の答弁→動画の1時間38分30秒ごろ〜
他にも、別の部署の担当者が生成AIについての質問に答弁している。
「杉並区はデジタルを使える自治体になる可能性がある」
一般質問の翌日(6月1日)、松本議員に取材し、「生成AI」について質問した理由や区側の答弁に対する見解を聞いた。
ーー「生成AI」に関する質問をしたのはなぜですか?
松本:AIの活用も含めたデジタル化によって、区の業務の効率化を推進していくことについて、大きな改善の余地があると考えているからです。
4年前に(初当選して)杉並区議会の一員になったとき、区の行政は驚くほどデジタルを使わない集団だと感じました。私は2007年に社会人になって、リクルートに入社したんですが、そのころのリクルートよりも使えていないな、と。逆にいうと、そこに行政改革の材料がたくさん埋め込まれている、と思いました。
ーーデジタル化の中でも特に「AI」に注目したのは、どうしてでしょう?
松本:AIは、仕事の仕方自体を変えていくツールなので、少し時期尚早かなと思ったんですが、AIの展示会で実物に触れたり、活用事例を聞いたりする中で「ああ、この部分はすぐに改善できるな」と感じたからです。
ーー質問に対して、区の担当者は「生成AIを活用していく」とはっきり述べませんでしたが、どう受け止めましたか?
松本:「今日はやらない理由を述べておくけれども、やらなければいけないと思っている」というニュアンスが伝わってきました。AI文字起こしサービスについて、実証実験に着手しているとのことでしたが、以前と比べて、区政が変化しているのを感じました。
デジタル化推進計画(第1次・2022年度〜24年度)のもと、区政にデジタルの恩恵を取り入れていくという能動性が出てきたなと感じます。議員になって最初の2年くらいは、デジタルの話をしても「暖簾(のれん)に腕おし」という感じだったんですが、少しずつ流れが変わり、前進しているなと思います。
ーー今回はAIの中でも、ChatGPTなどの「生成AI」の活用について質問していますが、行政が生成AIを活用とするとしたら、どんなことが考えられるでしょうか?
松本:たとえば、文書を作成するときに「素案」を作るのは、生成AIに任せたらいいのではないかと思います。文書の素案を作るのを生成AIに任せて、出てきたものを見て直していけば、だいぶ効率が上がるでしょう。区民や議会との対応でも大量の文書を作るので、そういう場面では、素案作りにどんどん使っていってほしいと思います。
ーー生成AIについて、日本政府は積極的に活用していく姿勢を示しています。今後、杉並区が活用していく可能性はあるでしょうか?
松本:そういうふうにしていかないといけないと思いますし、生成AIを活用していく可能性はあるだろうと思います。
岸本聡子区長に対して、うちの会派(維新の会)は是々非々で臨む方針ですが、岸本区長のデジタルに対する感覚は良いなと考えています。そういう意味では、杉並区はこれからの4年間で、もっとデジタルを使える自治体になっていく可能性はあると思います。