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午前4時から並んで味わう「最後のカツ丼」 創業100年の名店が閉店

亀松太郎記者/編集者
惜しまれつつ、閉店することになった東京・西荻窪の「坂本屋」(撮影・亀松太郎)

東京都杉並区・西荻窪のカツ丼の名店「坂本屋」が5月27日、最後の日を迎えた。創業100年。多くの人たちに愛された大衆食堂がその幕を下ろすことになった。

坂本屋はもともと、どこの街にもある庶民的な料理店の一つにすぎなかった。しかし、料理評論家の山本益博さんが雑誌で「カツ丼」を絶賛。以来、「東京一のカツ丼」あるいは「日本一のカツ丼」とまで評される人気店となった。

店の前にほぼいつも行列ができるほど、繁盛していた坂本屋。だが、店主の川端敏雄さんが70代になり、体力の限界を感じたことから、店を閉じることを決めた。

2023年5月27日を持って閉店することになった「坂本屋」(撮影・亀松太郎)
2023年5月27日を持って閉店することになった「坂本屋」(撮影・亀松太郎)

閉店前日に公開された朝日新聞の記事「潮時だね。今まで来てくれたお客さんに感謝」という川端さんの言葉を紹介している。

カツ丼の名店の最終日。JR西荻窪駅から徒歩3分ほどの店舗の前には、早朝から長い行列ができた。提供できるカツ丼の数には限りがある。そこで、行列に並んでいる人々には、開店前に整理券が配られた。

「最後のカツ丼」を求めて並ぶ人たち。行列はこの先で左に折れ、さらに店の前まで伸びていた(撮影・亀松太郎)
「最後のカツ丼」を求めて並ぶ人たち。行列はこの先で左に折れ、さらに店の前まで伸びていた(撮影・亀松太郎)

午前9時ごろ、行列の先頭にいた男性に話を聞いてみると、「午前4時ごろから並んでいる」という。

東京都内で暮らしているが、その住まいは、杉並区から約20キロ東にある江戸川区。午前2時に自宅を出て、自転車を2時間漕いで、西荻窪までやってきたという。

「2日前にも来たんですが、そのときは入れなかったので、今回はリベンジです。坂本屋さんのカツ丼を食べるのは初めて。最初で最後ですが、楽しみです」

「本日分のかつ丼は終了しました」

行列は途中でL字型に折れながら、住宅街の通りに沿って伸びていた。Googleマップで計測したら、先頭から最後までの長さは約70メートルだった。

列に並ぶ人たちの中には、日傘をさしたり、携帯用のミニ扇風機で風を送ったりと、暑さ対策をしながら立ち続ける女性もいた。

最後尾までいくと、パイプ椅子が置いてある。そこに「本日分のかつ丼は終了しました」という紙が貼ってあった。

行列の最後に置かれていた椅子(撮影・亀松太郎)
行列の最後に置かれていた椅子(撮影・亀松太郎)

列の最後に並んでいた男性にも話を聞いてみる。近くに住んでいて、坂本屋には3回ほどカツ丼を食べに来たことがあるという。

最終日の行列に並んだのは午前7時半ごろ。整理券をもらうと、いったん列を離れて再び最後尾に並んだ。

「僕より後ろに並んでいる人もいましたが、遅くとも8時前には並ばないと、整理券をもらえなかったのではないかと思います」

自信を持って「美味しい」と言えるカツ丼の味。最後にもう一度、味わえるのが楽しみだと、男性は笑顔で話していた。

坂本屋の最後の日。ツイッターには、カツ丼の写真をアップしながら名残を惜しむ人々のメッセージが多数投稿された。

記者/編集者

大卒後、朝日新聞記者になるが、3年で退社。法律事務所リサーチャーやJ-CASTニュース記者などを経て、ニコニコ動画のドワンゴへ。ニコニコニュース編集長としてニュースサイトや報道・言論番組を制作した。その後、弁護士ドットコムニュースの編集長として、時事的な話題を法律的な切り口で紹介するニュースコンテンツを制作。さらに、朝日新聞のウェブメディア「DANRO」の創刊編集長を務めた後、同社からメディアを引き取って再び編集長となる。2019年4月〜23年3月、関西大学の特任教授(ネットジャーナリズム論)を担当。現在はフリーランスの記者/編集者として活動しつつ、「あしたメディア研究会」を運営している。

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