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「クーデターが起きた」女性議員半数以上の杉並区議会で「女性議長」選出

亀松太郎記者/編集者
杉並区議会の議長に選ばれた井口かづ子議員(撮影・亀松太郎)

4月の統一地方選挙で女性議員が半数以上となり、全国的な注目を集めた東京都の杉並区議会。選挙後はじめての議会(臨時会)が5月19日に開かれ、またしても「異変」が起きた。

議長選挙で、井口かづ子議員が全48票のうちの24票を集めて、議長に選出された。杉並区では昨年、岸本聡子区長が就任し、女性区長として注目を集めているが、区議会でも女性議長が生まれた。

1票差の23票で次点となったのは、浅井邦夫(くにお)議員。残りの1票は、洞口朋子(ほらぐちともこ)議員が獲得した。

井口議員は議員として最年長(78歳)で、過去に杉並区議会の議長に選ばれたこともある。したがって、女性議長の誕生が杉並区議会で初めてというわけではない。

しかし、選出の背景から「クーデターが起きた」と指摘する声もある。

自民所属の2人の一騎打ち、一票差で女性議長が誕生

注目すべきは、井口議員も浅井議員もいずれも自民党の所属で、杉並区議会でも同じ会派(自民党・無所属杉並区議団)に属していることだ。

杉並区議会では、前区長への支持をめぐって自民党の会派が分裂していたが、4月の区議選で7人の現職自民議員が落選したことを受け、再び一つの会派にまとまったばかりだった。

杉並区を地盤とする石原伸晃・元衆院議員も5月5日に「杉並区議選挙後みんなで相談し、この度、一つにまとまりました」とツイートしている。

ところが、今回の杉並区議会の議長選挙では、自民党の井口かづ子議員が、同じ党の浅井邦夫議員を1票差で破って、議長に選出された。

「こんなことは普通はできない」

なぜ、このような異変が起きたのか。実際に、誰が誰に投票したのかは、無記名のため、公開されていない。

しかし、投票に参加した杉並区議への取材によると、自民党や公明党など岸本区長に対して批判的な姿勢を示す議員たちが浅井議員に投票し、共産党や立憲民主党など岸本区長に賛同する姿勢を示す議員たちが井口議員に投票したようだ。

岸本区長を支持する議員たちが井口議員を担ぎ出した、という構図が見える。

その背景には、4月の選挙で杉並区議会の勢力図が大きく変化したことがある。

  • 自民党・無所属 11人
  • 日本共産党 6人
  • 立憲民主党 6人
  • 公明党 6人
  • 無所属・都民ファースト 4人
  • 生活者ネットワーク 2人
  • 維新の会 2人
  • れいわを耕す 2人
  • その他の1人会派 9人

このように、最大会派の自民党系でも11人と、全体(48人)の4分の1に満たない。多数の会派が群雄割拠となっている状態で、その中には、区議選で岸本区長が応援した議員も含まれている。

女性議員が半数以上となった区議選の結果から、議会でも波乱が起きるのではないかという見方もあった。

井口かづ子議長の選出について、ある区議は「女性区長に女性議長。すごいですよ。こんなことは普通はできないんだけど。クーデターが起きました」と興奮気味に話していた。

共産党の小池恵(めぐみ)議員は、議長選の直後に「少数会派も含めて公平公正な議会運営に取り組んできた井口かづ子区議が議長に選出されました!」とツイートしている。

新たに議長となった井口かづ子議員は選出後の挨拶で、次のように述べた。

「ただいま、みなさまのご推挙により、議長の職をいただきまして、光栄であります。身の引き締まる思いです。責任の重大さを痛感しているところです。思いもよらぬことであり、何をここで話していいか、言葉が浮かびません。議会運営にあたっては、公正公平に努めてまいります」

杉並区議会の模様は、杉並区によってインターネットでライブ配信されており、誰でも視聴できる。また、後日、録画中継を視聴することもできる。

(追記)

新たに杉並区議会の議長に選出された井口かづ子議員は、4月の区議選の最中に、フリーランスライター・畠山理仁さんの取材に対して「党派を超えてみんなでいい杉並を作ろうということです」と話している。

また、「当選したら、出前議会をやりたい。区役所で待っているだけでなく、私たちの方から出向いていく。党派を超えて、みんなで行って、区民のご意見を聞いて、それを形にしていきたい」というアイデアも口にしている。

※参考記事:カラフルになった議会 「女性議員が半数以上」でどう変わる?

記者/編集者

大卒後、朝日新聞記者になるが、3年で退社。法律事務所リサーチャーやJ-CASTニュース記者などを経て、ニコニコ動画のドワンゴへ。ニコニコニュース編集長としてニュースサイトや報道・言論番組を制作した。その後、弁護士ドットコムニュースの編集長として、時事的な話題を法律的な切り口で紹介するニュースコンテンツを制作。さらに、朝日新聞のウェブメディア「DANRO」の創刊編集長を務めた後、同社からメディアを引き取って再び編集長となる。2019年4月〜23年3月、関西大学の特任教授(ネットジャーナリズム論)を担当。現在はフリーランスの記者/編集者として活動しつつ、「あしたメディア研究会」を運営している。

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