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ジャニーズ社長「謝罪」スポーツ紙はどう報じたか? 大きく扱ったサンスポとスポニチ、巨人重視の報知

亀松太郎記者/編集者
ジャニー喜多川氏の問題をスポーツ紙がようやく報じた(撮影・亀松太郎)

ジャニーズは「異常」だったーー。ジャニーズ事務所創業者のジャニー喜多川氏の「性加害問題」について、これまで記事の掲載を控えていたスポーツ紙が一転、5月15日の紙面で大きく報道した。

きっかけは、前日の夜、ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長が謝罪する「動画」と「文書」をインターネットで公開したことだ。各スポーツ紙は藤島社長の発言と釈明文を紹介するとともに、問題の経緯を報じた。

これまでスポーツ紙は、ジャニーズのタレントの動向を熱心に報道する一方で、ジャニー喜多川氏の問題については沈黙を守ってきた。だが、ジャニーズ事務所社長の謝罪という「公式発表」を受けて、態度を一変させた。

ただ、その報道の仕方は、メディアごとに差があった。1面トップで大きく報じたスポーツ紙とそうでないスポーツ紙。そこには、この問題をどれだけ重視するのかという価値判断の違いがあるといえそうだ。

「ジャニーズ社長謝罪」をどう扱うか。スポーツ紙の対応は分かれた(撮影・亀松太郎)
「ジャニーズ社長謝罪」をどう扱うか。スポーツ紙の対応は分かれた(撮影・亀松太郎)

「閉鎖的な経営状況」を指摘したサンスポ

筆者は東京都内のコンビニエンスストアで、次の6つのスポーツ紙を購入し、その違いを確認した。

  • サンケイスポーツ
  • スポーツニッポン
  • 東京中日スポーツ
  • 日刊スポーツ
  • デイリースポーツ
  • スポーツ報知

この6紙のうち、ジャニーズ事務所の藤島社長の謝罪を1面で取り上げたのは、サンケイスポーツとスポーツニッポン、東京中日スポーツの3紙である。

ジャニーズ事務所の藤島社長の謝罪を1面で取り上げ、芸能面でも大きく展開したサンケイスポーツ(撮影・亀松太郎)
ジャニーズ事務所の藤島社長の謝罪を1面で取り上げ、芸能面でも大きく展開したサンケイスポーツ(撮影・亀松太郎)

最も大きく扱っているのは、サンケイスポーツだ。

1面で、<性加害問題 ジャニーズ社長 謝罪>という大見出しとともに、藤島社長の謝罪の概要とこれまでの経過を紹介。芸能面に、一問一答形式の釈明文の全文を掲載した。

また、同じ面に、ジャニーズ事務所担当の渡邉尚伸記者による「解説コラム」を掲載。ジャニーズ事務所の経営について、<閉鎖的な経営状況が、ここまで騒動が尾を引いた大きな要因だ>と問題点を指摘した。

さらに、その隣の面で、ジャニー喜多川氏による性被害を告白した元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさんの動画について触れており、さまざまな面からこの問題を伝えようとする姿勢がうかがわれた。

「記者会見を開かない社長」を批判したスポニチ

サンケイスポーツに次いで大きく扱ったのは、スポーツニッポン。1面では、<ジャニーズは「異常」だった>というインパクトのある大見出しつけて、藤島社長の写真を掲載。謝罪動画と釈明文の概要を伝えた。

1面に<ジャニーズは「異常」だった>というインパクトのある大見出しをつけたスポーツニッポン(撮影・亀松太郎)
1面に<ジャニーズは「異常」だった>というインパクトのある大見出しをつけたスポーツニッポン(撮影・亀松太郎)

また、社会面では、釈明文の要旨を掲載するとともに、ジャニー喜多川氏の性加害問題の経緯を「年表形式」で紹介した。

さらに、同じ面に、森俊幸・文化社会部長による「記者の目」という解説記事を掲載。藤島社長が記者会見を開かず、動画と文書のみで釈明したことについて、次のように批判した。

<こうした不祥事や問題が起こった場合、自身の言葉だけで解決することは極めて難しい。これまで多くの企業が記者会見をすることでみそぎを済ませて前に進んだ。ジュリー氏の1分9秒の動画は謝罪の雰囲気は伝わるものの回答書との二段構えで甘さが目立った。公の場で説明を尽くすことで被害者に対する謝罪や誠意も伝わったはずだ>

なお、この解説記事は<ジャニーズ性加害問題 求められる納得のいく「透明性」ある改革>というタイトルで、Yahoo!ニュースにも配信されている。

サンスポとスポニチと同じく、<ジャニーズ謝罪>と1面で扱ったのが、東京中日スポーツだ。1面で「謝罪の概要」を伝え、芸能面で「釈明文の全文」を紹介するという形式はサンスポと似ている。

また、1面の下段に無署名の「解説記事」を掲載。<「帝国」として芸能界に君臨したジャニーズ。権力や権限が創業者きょうだいに集中し、誰も口出しできない同族経営ゆえの問題もあらためて浮き彫りになった>と指摘した。

阪神をトップにした日刊とデイリー

一方、上記の3紙とは異なり、ジャニーズ事務所の問題を1面に掲載せず、別の面で取り上げたのは、日刊スポーツとデイリースポーツ、スポーツ報知の3紙である。

日刊スポーツの1面は、2本のホームランで阪神を単独首位に押し上げた佐藤輝明選手。一方、ジャニーズ事務所の「ジュリー社長 謝罪」の記事は、文化・社会面の1ページで紹介するにとどまった。

日刊スポーツと同様に、阪神の佐藤選手の活躍を1面で取り上げたデイリースポーツは、芸能面の1ページを使って「ジュリー社長 謝罪」のニュースを紹介した。

関西を拠点にするデイリースポーツ。この日の1面はいつもの通り「阪神」だった(撮影・亀松太郎)
関西を拠点にするデイリースポーツ。この日の1面はいつもの通り「阪神」だった(撮影・亀松太郎)

読売グループのスポーツ報知の1面は、巨人の中川皓太投手が支配下登録選手に復帰する見込み、というニュースだった。

「ジャニー氏 性加害問題」と題した記事を芸能面の2ページを使って掲載したが、サンスポやスポニチ、東京中日スポーツに比べると、分量は少なかった。

朝刊で報道できなかった「一般紙」

このように、スポーツ紙ごとに報道の仕方に違いが見られた。

しかし、どのスポーツ紙も、これまで「ジャニー喜多川氏の問題」をまともに報じてこなかった自らの姿勢について言及していない。その点では共通していた。

一方、一般紙はこの日、休刊日だったため、どの新聞も藤島社長の謝罪を「朝刊」で報じることができなかった。

夕刊では、各紙が一斉に報道したが、1面で取り上げたのは朝日新聞のみだった。

ジャニーズ事務所の藤島社長の謝罪動画が「新聞休刊日の前日」に公表されたことについて、ウェブメディア「SAKISIRU」の新田哲史編集長は<新聞休刊日前夜の動画アップ…ジャニーズ事務所のあざと過ぎる「謝罪」>と題した記事で、次のように指摘している。

<万一、翌朝の新聞休刊日を「狙って」、その前夜に動画をアップしたのであれば、あまりにあざといとか言いようがない>

5月15日は「休刊日」で朝刊がなかったため、夕刊で報じた一般紙。1面で「ジャニーズ社長謝罪」を取り上げたのは、朝日新聞だけだった(撮影・亀松太郎)
5月15日は「休刊日」で朝刊がなかったため、夕刊で報じた一般紙。1面で「ジャニーズ社長謝罪」を取り上げたのは、朝日新聞だけだった(撮影・亀松太郎)

記者/編集者

大卒後、朝日新聞記者になるが、3年で退社。法律事務所リサーチャーやJ-CASTニュース記者などを経て、ニコニコ動画のドワンゴへ。ニコニコニュース編集長としてニュースサイトや報道・言論番組を制作した。その後、弁護士ドットコムニュースの編集長として、時事的な話題を法律的な切り口で紹介するニュースコンテンツを制作。さらに、朝日新聞のウェブメディア「DANRO」の創刊編集長を務めた後、同社からメディアを引き取って再び編集長となる。2019年4月〜23年3月、関西大学の特任教授(ネットジャーナリズム論)を担当。現在はフリーランスの記者/編集者として活動しつつ、「あしたメディア研究会」を運営している。

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