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復興したのは「みなさんのおかげです」東日本大震災の被災地・女川から「感謝祭」生配信

亀松太郎記者/編集者
オンラインイベント「女川つながる感謝祭」が開催される(写真:オナガワエフエム)

東日本大震災(2011年)の被災地、宮城県女川町で11月7日(土)午後、YouTubeを使ったオンラインイベント「''新型コロナに負けない!女川つながる感謝祭!''」が開催される。

震災からまもなく10年。かつて小さなプレハブ小屋の「さいがいFM」で全国的な注目を集めた女川から、手作り感のあふれるライブ番組がまた発信される。町民たちは「復興を支えてくれた全国の女川ファンへ感謝を伝えたい」と意気込んでいる。

2011年当時の「女川さいがいFM」のメンバー(写真提供:オナガワエフエム)
2011年当時の「女川さいがいFM」のメンバー(写真提供:オナガワエフエム)

三陸の「海の幸」を首都圏の視聴者にデリバリー

イベントは、11月7日(土)の15時30分から20時すぎまで、YouTubeの「オナガワエフエムチャンネル」でライブ配信される。

毎年秋に開催されている「おながわ秋刀魚収穫祭」をベースにしながら、ドローンや水中カメラで女川の今の姿を伝えたり、無病息災を祈る伝統神事の「獅子振り」の演舞を届けたりする。

また「勝手にUberEa○s? 産地直送 女川から幸せ届け隊!!」と題して、デリバリーサービスのリュックに秋刀魚など三陸海岸の「海の幸」を詰め込んで、ライブ配信を見ている首都圏の視聴者の自宅まで届ける企画も実施する。

Twitterで応募した視聴者の中から抽選で1人を選ぶ。その自宅へ、女川出身の芸人・阿部美奈さんが出向き、「産地直送便」を渡すシーンをレポートする。

さらに、この日限定の産地直送ネットショッピングや、女川町の復興を応援してきたアーティストたちのパフォーマンスも予定している。番組は生配信されるが、11月20日までアーカイブ視聴できるという。

女川名物、秋刀魚の水揚げ(写真提供:オナガワエフエム)
女川名物、秋刀魚の水揚げ(写真提供:オナガワエフエム)

「応援のおかげで、新しい町へ生まれ変わった」

死者・行方不明者約1000人。当時の人口の約1割が犠牲になり、町の建物・家屋の7割が流された。「3.11」の大津波は、海とともに生きてきた女川の人々に壊滅的な打撃を与えた。

震災後に町に行くと、中心部はまるで爆撃を受けた戦地のようで、何もかもがなくなっていた。道路脇にはコンクリートのビルが横倒しになったまま放置されていて、自然の暴力の凄まじさを感じさせた。

東日本大震災で甚大な被害が出た女川町(写真提供:オナガワエフエム)
東日本大震災で甚大な被害が出た女川町(写真提供:オナガワエフエム)

あの惨事から来年3月で10年。女川は復興に向けた歩みを少しずつ進めてきた。

JR女川駅を中心とした町の中心部は復興工事がほぼ完了。駅前から海へ向かって延びる商業エリア「シーパルピア女川」は、洗練されたデザインで人気を集め、週末には県内外から訪れる人々でにぎわっている。

「たくさんのみなさんの応援のおかげで、女川は新しい町へ生まれ変わることができました」

町内で蒲鉾製造会社を経営し、今回のオンラインイベントでメインMCを務める高橋正樹さんは感謝の言葉を口にする。

復興が進んだ町の中心部(写真提供:オナガワエフエム)
復興が進んだ町の中心部(写真提供:オナガワエフエム)

震災ボランティアとして現地で助けてくれた人たちや、さまざまなイベントやメディアを通じて女川町のことを知り、復興を応援してくれた人たちに「ありがとう」のメッセージを届けたいという。

予定していた感謝イベントが「コロナ」で中止

実をいうと、今年は、女川町を応援してくれる「女川ファン」たちと直接交流するために、震災前の名物行事だった「みなと祭」を復活させたり、毎年恒例の「おながわ秋刀魚収穫祭」を大々的に実施したりすることを計画していた。

毎年秋に開催される「おながわ秋刀魚収穫祭」(写真提供:オナガワエフエム)
毎年秋に開催される「おながわ秋刀魚収穫祭」(写真提供:オナガワエフエム)
「収穫祭」では新鮮な秋刀魚が大量に並ぶ(写真提供:オナガワエフエム)
「収穫祭」では新鮮な秋刀魚が大量に並ぶ(写真提供:オナガワエフエム)

しかし、「さあ、これから!」と意気込んでいた矢先、新型コロナウイルスという世界規模の災厄に見舞われ、予定していたイベントは軒並み中止になった。

「遠くの人となかなか会えない今だからこそ、何かできることはないか」

そう考えた結果、町内初のオンラインイベントという形で「感謝祭」を行うことになった。

ライブ番組の制作を担当するのは、震災直後の2011年から2016年まで臨時災害放送局(女川さいがいFM)を運営し、現在は週1回のラジオ番組を放送している一般社団法人オナガワエフエムのメンバーたちだ。

マスメディアでは見えにくい「町の素顔」を伝えたい

女川さいがいFMの拠点は、小学校の校庭に建てられた小さなプレハブ小屋だった。中学生や高校生を含めた町の若者たちが「手作り感あふれる番組」を放送する様子が注目され、新聞やテレビなど多くのメディアで報道された。

女川さいがいFMは、校庭のプレハブ小屋で放送を行った(写真提供:オナガワエフエム)
女川さいがいFMは、校庭のプレハブ小屋で放送を行った(写真提供:オナガワエフエム)
女川さいがいFMの放送の様子(写真提供:オナガワエフエム)
女川さいがいFMの放送の様子(写真提供:オナガワエフエム)

2013年には、その活動をもとにしたドラマ「ラジオ」がNHK総合テレビで放送され、大きな反響を呼んだ。現在は臨時災害放送局としての使命を終え、週1回のラジオ番組「OnagawaNow」をTBC(東北放送)など全国29局で放送している。

「女川さいがいFMのときから現在まで、私たちは被災地と呼ばれた小さな町から、地域に暮らす人たちの言葉で直接発信することを大事にしてきました」

オナガワエフエムの制作担当・大嶋智博さんはこう語る。

「今回のライブ番組も、MCを始めとして出演者全員が、女川町民あるいは女川町内で働く人々です。マスメディアの報道ではなかなか見えてこない、女川の素顔を伝えられるのではないかと思います」

記者/編集者

大卒後、朝日新聞記者になるが、3年で退社。法律事務所リサーチャーやJ-CASTニュース記者などを経て、ニコニコ動画のドワンゴへ。ニコニコニュース編集長としてニュースサイトや報道・言論番組を制作した。その後、弁護士ドットコムニュースの編集長として、時事的な話題を法律的な切り口で紹介するニュースコンテンツを制作。さらに、朝日新聞のウェブメディア「DANRO」の創刊編集長を務めた後、同社からメディアを引き取って再び編集長となる。2019年4月〜23年3月、関西大学の特任教授(ネットジャーナリズム論)を担当。現在はフリーランスの記者/編集者として活動しつつ、「あしたメディア研究会」を運営している。

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