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安倍首相が国会で明らかにした「総理会見=出来レース」のメカニズム

亀松太郎記者/編集者
参議院予算委員会で答弁する安倍晋三首相(写真:つのだよしお/アフロ)

3月2日の参議院予算委員会で、安倍晋三首相の記者会見の「メカニズム」が問題となった。立憲民主党の蓮舫議員が「新型コロナウイルスの感染防止対策に関する説明が不十分ではないか」と追及したのだが、その中ではからずも、日本のマスメディアが抱える「記者クラブ問題」がクローズアップされることになったのだ。

問題のきっかけは、ジャーナリストの江川紹子さんが記者会見に参加して、「質問があります」と手をあげたのにもかかわらず、司会の広報官や安倍首相に無視されて、回答してもらえなかったことだ。江川さんは、このことをツイッターやYahoo!ニュース個人の記事で明らかにした。

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蓮舫議員は、江川さんの一件に触れつつ、総理会見の仕組みについて質問した。それに対する安倍首相の答弁によって、総理会見においては「事前に記者クラブから質問が伝えられていること」が明らかになった。

安倍首相はあらかじめ用意した回答を読み上げているだけだったのだ。それはシナリオに沿った「出来レース」と言ってよい。

このことは、AP通信出身のジャーナリスト・神保哲生さんがすでに指摘していたが、国会で首相がはっきりと答えたのは異例のことだ。

また、安倍首相の答弁を通じて、総理会見で質問できるのが実質的に「記者クラブ加盟の記者」に限られていて、フリーランスの記者は「参加できても質問できない」オブザーバー状態に置かれていることが明らかになった。記者クラブ加盟の記者とそうではない記者の「厳然たる格差」が、そこには存在する。

以下、「総理会見の仕組み」に関する蓮舫議員の質問と安倍首相の答弁を全文紹介する。

蓮舫議員の質問と安倍首相の答弁

蓮舫議員:記者との質疑をやり取りされたときに、総理は答弁原稿を読んでおられるように見えたんですが、これは事前に記者クラブの幹事社を通じて質問内容を確認しているんですか?

安倍首相:まず幹事社の方が質問されますので、その場合、詳細な答えができるように通告をいただいているところもございます。また、外国プレスの場合は、いくつかの可能性を示していただくこともあるわけでございますが、必ずしもそれに限られるものではないと、このように認識をしております。

蓮舫議員:じゃあ、フリーランスの記者からの通告も受けていますか?

安倍首相:総理の記者会見においては、おそらく取りまとめを広報室で行っておりますので、私も詳細については、いまここでお答えすることはできない、ということでございます。

蓮舫議員:ジャーナリストの江川紹子さんが「まだ質問があります」と挙手をしました。なぜ、答えなかったのですか?

安倍首相:これはですね、あらかじめ記者クラブと広報室側で、ある程度の打ち合わせをしている、というふうに聞いているところでございますが、時間の関係で打ち切らせていただいた、ということでございます。

蓮舫議員:時間の関係で打ち切った。その後、何か重要な公務がありましたか?

安倍首相:その後も打ち合わせを行ったところでございますが、基本的にいつもそのような形で、総理会見というのは行われていたものと、承知をしております。

蓮舫議員:36分間の会見が終わって、その後すぐ帰宅しています。そんなに急いで、帰りたかったのですか?

安倍首相:いつも総理会見においては、ある程度のやり取りについて、あらかじめ質問をいただいているところでございますが、その中で、誰にお答えさせていただくかということについては、司会を務める広報官のほうで、責任を持って対応しているところであります。

蓮舫議員:会見で、総理は「さまざまなご意見、ご批判、総理大臣として、そうした声に真摯に耳を傾けるのが当然だ」と。だったら、広報官を止めて、さえぎらないで、会見をもっと続けて、江川さんやみんなの声に答えると。なんで自らそこで、リーダーシップを発揮しなかったんですか?

安倍首相:総理会見においては、多くの社が出席しておられますし、多くの方々が「何問か質問したい」という希望を持っておられるわけでございますが、その中において、広報官のほうで整理をしているということでございます。また、質問の通告をあらかじめ幹事社の方々からいただいておりますが、それ以外の方々からはいただいていない、ということでございました。

「日本のメディアと権力との癒着を如実に物語るもの」

この総理会見の仕組みについては、NHK出身のジャーナリスト・立岩陽一郎さんが次の記事で詳細に説明し、「日本のメディアと権力との癒着を如実に物語るもの」と厳しく批判している。安倍首相の答弁はそれを裏付けるものだったと言えるのではないか。

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記者/編集者

大卒後、朝日新聞記者になるが、3年で退社。法律事務所リサーチャーやJ-CASTニュース記者などを経て、ニコニコ動画のドワンゴへ。ニコニコニュース編集長としてニュースサイトや報道・言論番組を制作した。その後、弁護士ドットコムニュースの編集長として、時事的な話題を法律的な切り口で紹介するニュースコンテンツを制作。さらに、朝日新聞のウェブメディア「DANRO」の創刊編集長を務めた後、同社からメディアを引き取って再び編集長となる。2019年4月〜23年3月、関西大学の特任教授(ネットジャーナリズム論)を担当。現在はフリーランスの記者/編集者として活動しつつ、「あしたメディア研究会」を運営している。

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