全国初の募集始まる。春からの新制度「地域プロジェクトマネージャー」とは?

地域プロジェクトマネージャーを募集中の福岡県赤村「源じいの森」(撮影:山中康司)

地域プロジェクトマネージャー制度とは?

2021年度より「地域プロジェクトマネージャー」制度が導入される。これまでに自治体が受け入れてきた地域おこし協力隊とは別に、地域、行政、民間、外部の関係者をつなぎ、調整や橋渡しをしながら実質的にプロジェクトをマネジメントできる「ブリッジ人材」を自治体が雇用する場合に、国が財政支援するという制度だ。

これまで、地方へ移住する際などに、まず地域に入る足がかりとして「地域おこし協力隊」(以下、協力隊)があった。2009年度に「都市部の若者の地方への定住移住を図る取り組み」として始まった制度で、地域の人手不足や地方創生の後押しもあって年々広がり、2019年度には隊員数5,349名、1,071自治体が採用するに至っている。

ところが、協力隊のボリュームゾーンは20〜30代。任期が限られることや給与も200万円前後のケースが多く、30〜40代のキャリア層にとっては応募しづらい側面があった。

しかしいよいよ人材不足の進む地域において、基幹事業やサービスを中心になって担える人が必要とされている。それなりのキャリアや能力、年齢の人材を迎えるには、それに応える条件面を整備する必要がある。

そこで、新たに創設される「地域プロジェクトマネージャー制度」では、雇用に要する経費を対象に、650万円/人を上限に自治体に対して特別交付税措置(1市町村あたり1人を上限)が用意される。

総務省公表資料(令和2年12月21日)より
総務省公表資料(令和2年12月21日)より

マネージメント層が欠けていたこれまで

自らも協力隊の経験者で、いまは自治体向けに「地域おこし協力隊の採用から活動、独立までのサポート」を行う西塔大海(さいとう・もとみ)さんは、総務省で行われた協力隊をよりよい制度にするための検討会に参加し、発案してきたメンバーの一人だ。

今回の制度も、その過程で生まれたものだという。

「これまでの協力隊の制度ではなかなか入ってこられなかった中堅層に、地域に入って活躍してほしいという制度です。このポジションに求められる人材像は、まさに会社でいう、中間管理職。行政の仕事の最終決定権は町長や議会がもっていることがほとんどなので、その下で現場を取り仕切って関係者をつなぎ、有機的にものごとが動く体制を整えてくれる人というイメージです」

そして見せてくれたのが、以下の表である。総務省へ提出した資料の一つで、この中の「レア度」はこれまでに何百人もの協力隊に接してきた西塔さんの実感値とのことだが、筆者がこれまでに見てきた協力隊の採用例を考えても「プロジェクトマネージャーの不在」という点で説得力がある。

「協力隊の個人プレイだけでは、プロジェクトがまわっていかないケースが多いんです。現場にプロマネがおらず、チームとしての動きになりにくいから。プロマネがいてプロジェクトの要件定義をして目標やスケジュールを引いて、役場や地元住民、民間企業、団体が気持よく連携して取り組める体制をつくらなければ、プロジェクトはうまくまわりません」

西塔大海さん。(提供:西塔さん)
西塔大海さん。(提供:西塔さん)

これまで、新しいことを企画提案する協力隊員と、新しいことを始めるのに苦手意識のある(税金を扱うので慎重にならざるを得ないこともあり)行政職員との間で、ミスマッチの生じている例を、筆者も何度も見てきた。

「何のためにこれをやるのか?」という大きなビジョンなしには、判断できないことの連続に陥る。一般の企業ならあって当たり前の目標やマイルストーンの設定にKPI。それを遂行するプロマネがいないため、責任の所在が不明確だったり、小さな地域コミュニティではとくに重要な、関係者を協力者として巻き込む役割がおざなりになっていたり。

協力隊員、行政担当者個人の責任とは言えない問題で、個々が葛藤し、苦悩していた。

全国初の「地域プロジェクトマネージャー」採用を

全国に先がけて、この「地域プロジェクトマネージャー」公募に踏み切ったのは、福岡県田川郡赤村である。人口約3,000人の自然豊かな村で、今回の募集対象である「源じいの森」は、キャンプ場や食堂、温泉などを兼ね備えた複合宿泊施設。

この総支配人ともいうべき、企画開発と運営の両方をマネジメントできる人材を募集している(3月1日応募締め切り)。

「源じいの森」のキャンプ場(提供:赤村)
「源じいの森」のキャンプ場(提供:赤村)

赤村役場の担当・松本優一郎さんはこう話す。

「一つ大事なポイントは、総務省のこの制度があったから募集をしているという順番ではないことです。源じいの森は、うちの村の顔ともいえる大事な事業で、最盛期には利用者が年間約47万人(平成10年)、最近は減っているものの、それでも年約17万人が訪れる人気の施設。観光面だけでなく、雇用創出や大事な財源でもあります。

そこで一年以上をかけて施設の改革再生プロジェクトを進めてきました。事業のビジョンや設計をし、今年になって地域おこし協力隊として現場の担当者3名を新たに雇用したばかり。運営体制も新しいものにしようという時に、今回の制度がぴったりだったので、この枠での募集に踏み切ったのです」

赤村役場の松本優一郎さん(撮影:山中康司、提供:greenz)
赤村役場の松本優一郎さん(撮影:山中康司、提供:greenz)

「地域プロジェクトマネージャー」と一口にいっても、各自治体によって求められるキャリアは大きく異なってくる。

今回の赤村の募集は接客業であるため、ホテルのマネージャーや、道の駅・NPOの事務局の経験者、まちづくりコンサルタントなどのキャリアが活きるポジションだという。

募集詳細および、「源じいの森」の詳細はこちら。

基幹となるポジションを外部の人間が担えるか?

求められるのは、行政のルールや常識をわかった上で、民間の仕事の進め方も知っている人。もしくは理解しようと歩み寄ることのできる人。

赤村の募集に限らず、このポジションに共通して言えるのは、「変革者」ではなく「調整者」だという点だ。

「あくまで行政のプロジェクトなので、民間でバリバリ働いていた優秀な人材で “俺についてこい”タイプだと、地域や行政との間でハレーションを起こす可能性も高いんです。

行政のプロジェクトである限り、事業責任者は市町村長であって、そこは動かせない。ただし最終決定権がないから何も変えられないってのは大きな誤解で、いくらでも上と相談調整しながら提案していくことのできる立場です。今は決定権者とプレイヤーしかいなくて、その間をつなぐ人がいない」(西塔さん)

いま地域の一番の問題は、そうした実務を中心になってまわせる人が不足し始めているということ。その最たるものがプロマネである。

しかし、地域に基盤のないよそ者がぽんと入って担えるような役割なのだろうか?

「そこで赤村では役場の担当者として松本さんがいます。受け入れる側にも二人三脚でバックアップする覚悟のいる採用です。地域おこし協力隊と違って、一自治体に一名のみの枠というのも、その重要性を表していると思っていて。制度ができたからとりあえず募集しようという自治体ではうまくいかないと思います」(西塔さん)

「赤村でいえば、いま協力隊員から面白いアイディアや企画がどんどん生まれています。それを生かして現実的なことも視野に入れながら、横や上と調整をし、現場を円滑にまわしていける人。

行政もこれからは横並びではなくて、特色を打ち出して自分たちで新しいことをどんどん始めていかなければいけないフェーズにあるんです。それを民間のスピード感をもって進めていけるプレイングマネージャーといったイメージです」(松本さん)

赤村での募集は任期3年(予定)で、終了後はほかの地域でこの経験を生かすこともできるし、本人が希望すれば引き続き雇用に至る可能性も大きいという。

「源じいの森」内の温泉(提供:赤村)
「源じいの森」内の温泉(提供:赤村)

「とりあえず募集」「せっかく採用」の落とし穴

西塔さんは、これまでにいくつもの自治体で、地域おこし協力隊の採用に関してのアドバイスを行ってきた。その中でまず、話すことがあるという。

「自治体の側が募集する前にしっかり募集企画を考えよう、ということです。地域・行政と協力隊応募者の双方にとって“魅力ある企画”をつくり、何が目的・目標なのかを明確にする。それが具体的になれば、どんな人材が必要かおのずと見えてきます。そこが曖昧なまま、とりあえず募集をするとミスマッチにつながります」

今回の地域プロジェクトマネージャーの採用においても同じことが言えるだろう。

とりあえずの募集に応募してきた人材を、多少想定と違っていても「せっかく応募してくれたんだから」と採用してしまう。これを西塔さんは「とりあえず募集、せっかく採用」と呼んでいる。

地域おこし協力隊の制度は、細部を見ればさまざまな問題を抱えているが、大きな流れでいうと、この10年で成果を残してきた。協力隊を採用したことのある自治体は、全自治体の8割近く。受け入れた7割以上が「地域に良い影響があった」と調査に対して回答し、卒業した隊員の約55%(3,128人)が現在も同じ地域に定住している。(*1)

一方で、いまだ隊員と受け入れ団体の間にトラブルもあり、運用の精度を上げていくフェーズにある(*2)。今年度、地域おこし協力隊のインターン制度も始まる。

協力隊の発展版ともいえる「地域プロジェクトマネージャー」制度でこれからどんな採用例と実績が生まれていくのか。今後も見続けていきたい。

(本文ここまで)

(*1)「地域おこし協力隊のこれまで10年間の取組状況に係る調査結果」(総務省・令和2年3月発表)より。平成31年3月31日までに退任した隊員の累計は 5,693人(916団体)。全自治体の78.2%にあたる1,121自治体が受け入れ、830自治体が「地域に良い影響があった」と回答。受け入れていない自治体でも「受け入れたいが、 採用に至っていない」が約半数を占める。

(*2)同上の資料より。受け入れた自治体より以下のような声も挙がっている。「隊員と受入団体・地域との間でトラブルがあり、地域が協力隊に不信感を持っている」「兼任職員が行っているため業務量が増え、他の業務が停滞する。また、隊員との相談、配置した部署との確執により心身ともに疲労している」。