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「地区」と「市」が対等な協定書を締結。市内全30域に「地域自主組織」をつくった島根県雲南市

甲斐かおりライター、地域ジャーナリスト
(筆者撮影)

「地域自治といえば、やっぱり雲南市。小規模多機能自治が進んでいて、そのネットワークが全国に広がりつつある」。

もう5年以上前、ある行政職員が話していた言葉だ。

「小規模多機能自治」とは、いま全国に広がりつつある地域自治のネットワーク。市町村単位ではなく、小学校区ほどの区域で暮らしに必要なさまざまな対策を、住民自ら整備していこうとする活動である。

島根県雲南市は、そうした地域主体の自治の先駆けである。

2004年から始まった取り組みは、今どう機能しているのか。2022年末、地域自治の取り組みが始まって19年目になる雲南市を訪れた。

地域をまわって感じたのは、「地域自主組織」と呼ばれる組織が恒常的に定着しており、日常の中で機能しているということ。一部の熱心なリーダーがいて一時的に温度感が高まっている感じではなく、淡々と自治の機能として、そこにあるしくみで、「ここで暮らし続けるために何が必要か?」を住民が冷静に課題抽出して、対策が行われるインフラとして整いつつある。

自主組織を市内の全地区にしくみとして導入するために、雲南市が力を入れてきたこと、各地区でそれがどう機能しているかを取材してきた。

波多地区の「波多交流センター」。廃校になった建物に「はたマーケット」が設けられ、日用品の買い物ができる(筆者撮影)
波多地区の「波多交流センター」。廃校になった建物に「はたマーケット」が設けられ、日用品の買い物ができる(筆者撮影)

地区によって異なる困りごと(波多地区)

ここは雲南市の中心部から車で約40分。山間の集落、人口256人(2022年12月時点)の波多地区。

現在の「波多交流センター」、元小学校には、毎日30人近くの住民が訪れる。目的は、買い物。建物の奥に「はたマーケット」と呼ばれる地域で運営する商店が入っている。

はたマーケットの職員は、交流センターの職員が兼務(筆者撮影)
はたマーケットの職員は、交流センターの職員が兼務(筆者撮影)

食品や日用品など、900品目ほどを取り扱っている(筆者撮影)
食品や日用品など、900品目ほどを取り扱っている(筆者撮影)

以前は地区内にもお店があったが、9年前に閉店した。店へ行くには車で15分、大きめのスーパーへは30分以上かかる。運転免許のない独居の高齢者や、子育て中の人にとっては切実な状況。そこで、このお店を始めたのが、地域自主組織「波多コミュニティ協議会」。その拠点が「波多交流センター」である。

店では食品や日用品など、900品目ほどを取り扱っている。売上は毎月100万円ほど。全日本食品という会社と契約し、週に3回仕入れを行っている。

協議会の事務局長であり、副会長でもある田原善明さんはこう話す。

田原さん「協議会の職員が店舗運営も兼ねています。店の隣には、お茶を飲める場所やスポーツジム代わりに『ずむ』といって持ち寄った健康器具をつかって運動できる場所もつくりました。地区で軽自動車も持っていて、無償で送迎もします」

「たすけ愛号」による、送り迎えも。年間送迎回数は1,600回。送迎の費用は利用する人たちの寄付金(年7〜8万円)によって賄われている
「たすけ愛号」による、送り迎えも。年間送迎回数は1,600回。送迎の費用は利用する人たちの寄付金(年7〜8万円)によって賄われている

波多コミュニティ協議会は法人格をもち、この交流センター以外にも波多温泉「満壽の湯」や「元・ふれあいの里奥出雲公園」などの管理委託を受け、年間の事業額は5,500万円。こうした事業は、金銭的な利益を出すことが目的ではなく、すべて合わせて住民の暮らしを守り、サポートするのが主旨の取り組みである。

雲南市にはこのように、地区によって異なる困りごとを解決するための事業が、地域自主組織によって行われている。市内の全30地区にそうした組織が整備されているのだ。

これは市の負担を減らすための「分権」ではない

雲南市で地域自治の取り組みを長年担当してきた、政策企画部次長の板持周治さんはこう話す。

板持さん「全国には、自治が非常に進んでいる突出した地域がありますが、雲南市は市内の全30地区すべてにおいて、ある程度、取り組みが進んでいる点が特徴ではないかなと思います。優れたリーダーがいるとか、一時的な話ではなくて、持続的に全体で自治力を高めていくには、しくみとして導入しなければならないと思うんです」

雲南市で長年地域自治の取り組みを担当してきた、政策企画部次長、兼地域振興課課長の板持周治さん
雲南市で長年地域自治の取り組みを担当してきた、政策企画部次長、兼地域振興課課長の板持周治さん

そのために、市は率先して地域への働きかけや制度づくりを行ってきた。

雲南市は2004年、6つの町村が合併してできた。東京23区の9割にあたる広い面積に、人口4万人弱(2015年時点)が暮らす。

地域自主組織づくりが進んだきっかけは、合併前に遡る。合併協議会でこれからのまちをどうしていこうかと話し合った際に、重点プロジェクトとして掲げられたうちの一つが「住民自治」だった。

その背景には、合併によって行政が距離的にも遠くなることへの懸念と、過疎高齢化により、自治会や町内会だけでは地域コミュニティの維持が難しくなってきたことがあった。つまり、住民自治の強化が必要で、そのためには自治会より広域の何らかの組織が必要だったということだ。

はじめは市の主導で、各地区に地域自主組織を結成。合併後すぐに組織ができ始め、3年後の2007年度には市内全域に44の地域自主組織が結成された(*1)。各地区ごとに、組織の名称は「振興会」「協議会」「ふれあい会」などさまざま。活動内容も、その地区の特性や必要性に応じて多岐にわたる。

共通しているのは、行事などより「課題解決型」の取り組みが多いこと。これまでの自治会が「一世帯一票制」だったのに対して、女性や子どもも一票をもつ「一人一票制」の考え方であること。また大きな違いは、常勤スタッフがいること。地域自主組織で、直接雇用している。この取り組みに、市からは各地区に平均で年約900万円の助成がある。

2008年には考え方の基盤となる「雲南市まちづくり基本条例」が制定された。

その前文には「まちづくりの原点は、主役である市民が、自らの責任により、主体的に関わることです。ここに、市民、議会及び行政がともにこの理念を共有し、協働のまちづくりをすすめるため、雲南市まちづくり基本条例を制定します」とある。

島根県雲南市の市役所
島根県雲南市の市役所

板持さん「市民協働というと、行政が『地域のことなので、じゃあみなさんで頑張ってください』と言って終わりという自治体もみられます。でもそれではうまくいかないと思うんです。むしろ行政が頑張らないといけない。そのほうが予算も手もかかります。雲南市の場合もかなり投資しています。

なぜなら、これは行政改革の話ではないからです。市の負担を減らすための『分権』ではない。行政があるからまちが成り立っているわけではなくて、自分たちが暮らす地区があって、そこをどうしていくかがベースで、みなに自治の権利があるってことですね。分権されるものではなくて、市民はもともと権利をもっているんです」

2010年には、公民館などをこの地域自主組織の活動拠点である29の「交流センター」として衣替えして一斉にスタート。その後も、公民館や自治会など既存の組織、行政と地域自主組織の役割の整理や見直しを続け、地域でスタッフの直接雇用をできるようにし、地域の代表として機能するための制度づくりが行われてきた。

画期的なのは、2015年に、「各地区」と「市」の間で基本協定書が結ばれたこと。地域自主組織が「地区を包括する地域の主体者」であること、市と地域自主組織が「相互に対等な立場」であることなどが明記され、それぞれの役割分担、担うべき項目が挙げられている。地域自主組織が「地区の代表である」という点が明確になったわけだ。

(*1)地域自主組織自体が統廃合をして、現在は30組織(2022年12月時点)

個人情報は誰のもの?(新市地区)

新市の地域自主組織「新市いきいき会」の入る建物(筆者撮影)
新市の地域自主組織「新市いきいき会」の入る建物(筆者撮影)

ところが当然、導入初期は、こうした動きに対して風当たりの強かった地区もあった。「組織ができたのは、じつはうちが一番最後なんです」と話すのは、新市の地域自主組織「新市いきいき会」の会長、小林和彦さん。

小林さん「自分らの力で地域づくりなんて言っても『そんなもん、おまえ行政がやることじゃねぇか』『押し付けじゃねぇか、下請けじゃねぇか』と。この地区は比較的街なので、山間部に比べて地域活動が少ない。公民館活動も低調で地域づくりをするような意識、ノウハウがなかったんですね」

新市の地域自主組織「新市いきいき会」の会長、小林和彦さん(筆者撮影)
新市の地域自主組織「新市いきいき会」の会長、小林和彦さん(筆者撮影)

組織ができた後も「人任せから脱却して、何か自分たちでできることがあったらやろうや」といった考え方に移行するのに2年はかかった。

そんな中で、市内でも画期的な取り組みとなった「住民福祉カード」をつくったのは、小林さんの発案だったのだそうだ。

小林さん「当時僕は生涯学習の担当だったんですけど、これじゃあ何もできんって思ったんです。たった500人ほどの地域なのに住民の情報がない。子どもが減ったと言うけど、じゃあ一体何人いて、来年入学するのは誰なのか。一人暮らしの高齢者が増えて『見守りをしてほしい』って話がくるけど、じゃあ誰が誰を見守りするの?って。名簿もないのにどうするんだと」

確かに個人情報は役場にも学校にもあるが、みだりに表には出せない。

まず、子ども向けのイベント告知や敬老会の案内など、誰が今年何歳になるという情報がわからない。これまでは回覧板などだけで対応してきたのが、漏れがあったり、必要な人に連絡が行き渡らなかったりしていた。

小林さん「それで『住民福祉カード』っていうのをつくろうやと、提案したんです。そしたら『そんなおまえ、個人情報で叱られる』と役員会で大もめにもめて」

ところが小林さんは、こう言う。

小林さん「個人情報ってのは元を正せば、暮らしている人たち一人、一人の情報。その住民が自分たちのためになるのだから、自分の意思で情報を提供しますと地域に提出するんであれば何の問題もないはずなんです。あとは管理をきちんとすれば。それで最初に説明をして、納得してもらった上で情報を出してもらっています」

これがつくって大正解の結果に。現在は98%の住民の情報があり、とくに役立ったのは、防災や見守りなどの福祉面においてだった。

住民福祉カードには、住民の名前だけでなく年齢、電話番号などに加えて、備考に「車椅子」「施設入所中」なども記載されている。その情報をデータベース化して更新する。さらに設けたのが、「おねがい会員」と「おまかせ会員」。

有事の際に支援が必要な人を「おねがい会員」、その人たちをお手伝いする人が「おまかせ会員」。1人のおねがい会員につき、2〜3人のおまかせ会員がいる。

小林さん「国の政策で、災害時の要支援者名簿はつくられていましたが、マル秘情報で、自治会長と民生委員ぐらいしか持っていない。必要な時に見られない情報なんて意味がないよねと。さらに手挙げ方式だったので、本当に支援が必要な人が入っていなかったり。そこでうちは、近所で申告し合うようにしました。手挙げ方式では本人が遠慮するような場合も、近所の人たちが要支援だと思えば念の為に入れておくなど」

毎年、安否確認伝達訓練も行い、はじめは1時間半かかっていた確認が今では10分か15分で終わるように。これが昨年(2021

年)7月の大雨の災害時には役立った。

小林さん「よく自助・公助・共助といいますが、うちは『近助』。何かあった時に隣のおじさんが知らなかったらどうしようもないじゃない。災害時には助けてねという人に『ほんなら俺と向かいのおじさんと、隣のおばさんと3人で担当するけんな』ってみんなで決めて登録しておくわけです。本人にも伝えて。毎年それを見直ししています」

新市地区のスタッフ。常勤スタッフがいるのが従来の自治会との大きな違い
新市地区のスタッフ。常勤スタッフがいるのが従来の自治会との大きな違い

「自分たちが地域を代弁できる、大きな変革」(鍋山地区)

鍋山地区の地域自主組織「躍動と安らぎの里づくり鍋山」(以下、躍動鍋山)の会長、秦美幸さんはこう話す。

秦さん「こうした取り組みを、行政が仕事を丸投げしちょると言う人もあるんです。でも俺はそうじゃないと。これを丸投げだと言っちゃ、身もふたもねえなと思います」

続く秦さんの話からは、地域自主組織をつくる意義が伝わってきた。

秦さん「たとえば今までは、地域課題で行政に要望があれば、地区から陳情書や要望書をつくって行政に出すわけです。これは、70〜80代の自治会長には高齢でなかなか難しい。昔は議員さんに直接頼んだりもしていた。でもそういうのはもう今の時代、無理でしょう。

それが、雲南市の協定には、鍋山区域を包括する主体的な役割を『躍動鍋山』さんに担ってもらいますと市長が書いとるわけです。これは、すごい変革です。自分たちで地域を代弁して、代行できる。今までは要望書をあげてやってもらえるかどうかわからんかったものを、市から助成金をもらいながら自主事業も同時にやって、地域では予算的にも無理をしないでやれると。この制度は大事にせないけんと僕は思うんです」

「ゆくゆくは鍋山交流センターで住民票の発行などもできるようにしたい」と話す、「 躍動鍋山 」の会長、秦美幸さん(筆者撮影)
「ゆくゆくは鍋山交流センターで住民票の発行などもできるようにしたい」と話す、「 躍動鍋山 」の会長、秦美幸さん(筆者撮影)

地域自主組織は、法人格をもたない「地域経営体」である。指定管理などの事業を請け負い、国や県の助成を受けるプロジェクトを進める受け皿にもなり、そのお金で人を雇い、地域に還元する。

「躍動鍋山」では、まさにそうした事業を率先して進めてきた。手掛ける事業は22にのぼり、スタッフも事務局の職員6名に加えて事業の担い手を加えると全部で29名。

住民アンケートや集落点検をもとに洗い出した、課題への対策を進める。

たとえば2012年に始めた「まめなか君の水道検針」事業は、水道検針業務を水道局から受託し、毎月地域の全世帯を検針する

ときに「まめなかね〜」(方言で元気ですかの意味)と声をかける。お年寄りの見守りも兼ねて、委託料収入を得られる一石二鳥の取り組みだ。

「まめなか君の水道検針」の様子(躍動鍋山、提供)
「まめなか君の水道検針」の様子(躍動鍋山、提供)

他にも、草刈りや雪かきをサポートする「安心生活応援隊」を結成(24名が登録)。手つかずだった地区内山林の地籍調査を行ったり、子育て支援として週4日、放課後に子どもたちを預かる「子ども教室」を開くなど、若い人からお年寄りまでをサポートする取り組みを行っている。

印象に残ったのは、秦さんの「若い人を無理に地域の活動に巻き込んではいけない」という言葉だった。

秦さん「若い人は仕事や子育てで忙しい。せいぜいPTAの活動くらいで十分です。それを躍動鍋山の活動に出てこいと言ったり、道路の草刈りや、お寺や神社の奉仕作業に駆り出したりしたら、そらみんな松江へ出るよと。体育部会だ、自治会から何人出てくださいなんか言ったら、嫌になります。若い時は遊びたいし、買いものにも行かないけんし。

それでもちゃーんと、躍動鍋山が子育てのお手伝いをしておれば、若い人らもお世話になってることがわかる。彼らも年とっていくわけだから、その時にやってくれたらいいというのが僕の考えです。そのためにちゃんと子どもを見ちょけばいいがなと」

放課後の「子ども教室」の様子(躍動鍋山、提供)
放課後の「子ども教室」の様子(躍動鍋山、提供)

設立から17年。2016年には10年目を節目に、課題を見直し、新たな挑戦も始めている。高齢者の移動支援として「走れよりそい号」(交通空白地の自家用有償旅客運送事業)を運行開始。地区内にある温泉施設の運営管理(雲南市からの指定管理受託)。地区内の看護師9名が有志で、お年寄りの健康チェックをする「ちょんてごカフェ」を月に一度開催。多い時には70人近くのお年寄りが集まるのだとか。

「地域のことならここで」と中心でまわすエンジン組織になることで、新しい助成事業の受け皿として、次々に声がかかるようになる。

2021年度の躍動鍋山の予算では、収入2,560万円のうち市からの交付金は900万円だが、それ以上に大きい収入源が自主事業の1,283万円。人件費などコストもかかるので利益はおよそ120万円ほど。忘れてはいけないのが、この人件費のほとんどが地元の人たちにまわっていることだろう。

秦さん「自分たちでもお茶を売ったり、切手も売ったり、いろんなことで商売しています。いろんな事業を入れて。いずれ人口が減れば、雲南市からの交付金も減るわけです。その時に何もできませんじゃ困るのでね」

雲南市では、こうした取り組みを全国に広げていくためにほかの自治体と共同で「小規模多機能自治推進ネットワーク会議」を結成。現在、277の自治体を含む351の会員が加盟し、情報共有や、研修機会の提供、共同で政策提言なども行っている。

お金の代償は少ないけど、いずれ自分に返ってくる

「いやそりゃ実際は大変ですよ。仕事でもないのに何でこんなことをせないけんのかって思ってますもん。会社で仕事してそれだけで精一杯なのに。今でこそ時給をちょっともらうけど、初めの頃は半ばボランティアで」とは、前述の波多地区の事務局長・田原さん。

取材に訪れた当日も、お年寄りの送迎に行ったと話していた。協議会の会長、木村守登さんも運転手を行う。木村さんはこう続けた。

木村さん「ただお金の代償は少ないかもしれませんけど、ポイントは最終的に自分に返ってくるってことです。みな自分ごとなんだよね」

「波多コミュニティ協議会」事務局長の田原善明さん(筆者撮影)
「波多コミュニティ協議会」事務局長の田原善明さん(筆者撮影)

現在波多地区のコミュニティ協議会で常勤の主事をつとめる藤原美幸さんは、日々、地域の人たちの小さな声を拾い、協議会の活動に反映させてきた。

藤原さん「私は地区で子育てをしてきたのでとくに、地域のみなさんに支えてもらったという意識があるんです。上の子は25歳になりましたが、小さい頃はいつもみなさんが声をかけてくれたり、面倒をみてもらってきて。この取り組みが始まる時、すでに他に就職が決まっていたんですけど、恩返しするなら今じゃないかと思って」

主事の藤原美幸さん。スポーツジム「ずむ」を発案したのも藤原さん。彼女を中心に、波多地区出身の若い人たちが、市の「地域経営カレッジ」に参加して新たな活動を始めている(筆者撮影)
主事の藤原美幸さん。スポーツジム「ずむ」を発案したのも藤原さん。彼女を中心に、波多地区出身の若い人たちが、市の「地域経営カレッジ」に参加して新たな活動を始めている(筆者撮影)

会長の木村さんは元市役所の職員で、ちょうど導入時期にこの地域自主組織のプロジェクトを進めてきた人でもあった。

木村さん「当時の公民館長が自分の職を失うって危惧する人もいてね。地域自主組織の説明に行くと『何しに来た、帰れ』って罵声が飛んだりして。でも何もおかしなことは言っていないわけです。新たな組織をつくって、公民館の仕事も自治会連合会的な仕事もその中で一緒にやりましょうと。施設も完備します、お金も差し上げますって言っているわけだから。少々のことを言われてもこちらの信念が揺らぐことはなかったです」

「波多コミュニティ協議会」会長の木村守登さん(筆者撮影)
「波多コミュニティ協議会」会長の木村守登さん(筆者撮影)

長く続いてきた自治のしくみを変えるには、反対も多く、大変なパワーを要すると想像できる。それでも人口減、高齢化の進む地域で、何とかやっていくために新しい組織、制度、考え方を取り入れていく必要がある。

それを18年以上かけて少しずつ実現してきたのが雲南市と言えるかもしれない。

※この記事は『SMOUT移住研究所』に同時掲載の(同著者による)連載「移住の一歩先を考える」からの転載です。

ライター、地域ジャーナリスト

地域をフィールドにした活動やルポ記事を執筆。Yahoo!ニュースでは移住や空き家、地域コミュニティ、市民自治など、地域課題やその対応策となる事例を中心に。地域のプロジェクトに携わり、移住促進や情報発信、メディアづくりのサポートなども行う。移住をテーマにする雑誌『TURNS』や『SUUMOジャーナル』など寄稿。執筆に携わった書籍に『日本をソーシャルデザインする』(朝日出版社)、『「地域人口ビジョン」をつくる』(藤山浩著、農文協)、著書に『ほどよい量をつくる』(インプレス)『暮らしをつくる』(技術評論社)。

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