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キー局の違法残業慢性化にみる日本型雇用の限界

城繁幸人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

在京の民放キー局4社が、労働基準監督署から違法残業の是正勧告を受けていたことが明らかとなりました。テレビ朝日に至っては2013年以降で4回目の是正勧告ですから、違法残業が慢性化していたと言ってもいいでしょう。

【参考リンク】労基署、全民放キー局に行政指導=違法残業の是正勧告など

ところで“違法残業”と言われるとなんだかすごく悪そうなイメージを受ける方も多いでしょうが、実はそんなに大したことをしでかした、というわけでもありません。では、彼らはどんな違法行為をし、何を是正しろと勧告されたのでしょうか。

36協定で取り決めた上限が低すぎただけ

会社が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて従業員に残業させるためには、労働者の代表と36協定と呼ばれる協定を結んだ上で、労働基準監督署に届け出ておく必要があります。その協定で延長できる残業時間の上限は月45時間、年360時間ですが、さらに特別条項を結べば、事実上青天井で残業を延長することが可能となります。

一般的な日本企業では、労使で特別条項を結んで年900~1300時間程度の残業が可能となるように設定しているケースがほとんどです。そこまで残業上限を上げる理由ですが、経営側から見れば、新規に採用して人材育成するよりも残業の方が低コストでまかなえるというメリットが大きいです。一方、労働組合にとっても、繁忙期に新規採用されてしまうと閑散期に組合員が解雇されるため、残業に付き合うことで終身雇用が維持されるという強力なメリットがあります。要するに長時間残業というのは労使の利害の一致した結果ということになります。

キー局の違法残業というのは、要するにこの特別条項で定めた上限がお上品すぎて、実際の現場レベルの実情にそぐわず、慢性的に超過してしまっていた、ということでしょう。普段から民間企業の長時間残業をバッシングする報道を続けていた分、自分たちが36協定で「月150時間、年1000時間まで残業可能とする」的な協定を結ぶのが恥ずかしかったのかもしれません。

労組自身に残業するメリットがある限り、残業削減は難しい

では、これからキー局はどう対応するのでしょうか。広告収入の低迷する中で思い切った新規採用増は困難であり、恐らくは36協定の見直しによる残業上限引き上げとなるでしょう。違法残業の是正を勧告した結果、合法的にもっといっぱい残業できるようになったというオチですね。

先日成立した働き方改革法案では、一応、年720時間、月100時間未満という延長不可能な上限が導入されましたが、労働組合自身に上記のような「長時間残業につきあう強いインセンティブ」がある限り、抜本的な残業時間の見直しにはつながらないのではないか、というのが筆者のスタンスです。

人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。08年より若者マニフェスト策定委員会メンバー。

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