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【アイスホッケー】日本に逆風!? オリンピックのリンクが小さくなる?

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
昨年のピョンチャン(平昌)オリンピックで優勝したOAR(ロシア男子代表)(写真:ロイター/アフロ)

 国際アイスホッケー連盟(IIHF)が、年末から年始にかけて毎年開催している「U20(20歳以下)世界選手権(トップディビジョン/以下世界ジュニア)」。

 NHLのスター候補(既にデビューしている選手も含め)が数多く出場するとあって、世界中のホッケーファンが注目するビッグイベントです。

▼ターゲットはNHLファン

 IIHFはシニアの世界選手権を(ほぼ毎年)ヨーロッパの各国で開催しているのに対し、世界ジュニアはNHLのファンを取り込もうと、北米で多くの大会を開催。

 今季の世界ジュニアも、カナダ西部のバンクーバーとビクトリア(ともにブリティッシュコロンビア州)を舞台に行われ、決勝戦はフィンランドが、アメリカを3-2 のスコアで下し、3季ぶり5度目の世界一に輝きました!!

▼国際連盟会長の発言の真意は?

 メダルを懸けた試合に先駆けて、IIHFのルネ・ファゼル会長が会見に臨み、このような発言をしました。

「2022年のオリンピックと世界選手権からは、国際規格より小さい北米規格のリンクで開催することが、我々の目標だ」

 ファゼル会長が、このような発言をした真意を紐解いていきましょう。

▼北米規格と国際規格

 「ピョンチャン(平昌)オリンピック」の開幕前(昨年2月9日)に配信したOAR(オリンピック・アスリート・フロム・ロシア)が金メダルを手にする3つの理由で紹介したとおり、NHLをはじめとする「北米規格」のリンクは、前述した「国際規格」のリンクよりも、チームベンチサイドのボードと、オフィシャルベンチサイドのボードの間(横長のアイスリンクの片方の長辺から反対側の長辺までの距離)が、およそ4メートルほど短くなっています。

 そのため、NHLで用いられているスペースが狭い北米規格のリンクでは、選手の激しいぶつかり合いが随所に見られ、醍醐味の一つに!

 一方、国際規格のリンクでは、空いているスペースを活かし、スピードを武器にすることができます。

▼ターゲットはオリンピック

 ピョンチャンオリンピックでは、1998年の「長野オリンピック」から設けられた「オリンピックブレイク(=NHLのレギュラーシーズン中断期間)」が撤廃されたことにより、6大会ぶりに「現役NHLプレーヤー不在」の大会となりました。

 そのため「国際規格」と呼ばれるサイズのリンクで、全試合を開催したのです。

 

▼北京オリンピックにはNHLも前向き

 対して、2022年の「北京オリンピック」は、ピョンチャンの時とは正反対に、NHLも参加に前向きな様子。

 既にプレシーズンゲームながら、中国の主要都市で公式戦を開催するなど、中国マーケットに注力し始めているだけに、2大会ぶりにオリンピックブレイク(レギュラーシーズン中断期間)を設け、「NHLのスター選手たちが母国の栄誉を懸けて金メダルを争う!」という姿が見られそうな雲行きです。

 その証拠に、IIHFのファゼル会長も、「我々が目指しているのは、2022年の北京オリンピックと、世界選手権(トップディビジョン=フィンランドで開催)からは、(北米規格の)小さなリンクで開催することだ」と公言。

 さらに続けて、「世界中のリンクを同じサイズにすることが我々の目標」と話し、ファゼル会長はNHLに合わせて、北米規格のリンクを、ワールドスタンダード(世界の標準)にする考えを明らかにしました。

▼「リンクを広くするより簡単だ」

 近年はフィギュアスケートの人気が高まる一方で、日本国内では氷を維持するコストなどがネックとなり、老朽化も手伝って閉鎖を余儀なくされたアイスリンクのニュースを耳にすることも。

 そのような状況の中で、日本の全てのアイスリンク(の氷面)を小さくして、ワールドスタンダードに合わせるのは、容易ではないでしょう。

 しかし、そんな東洋の島国の事情など知ったことではない! と言わんばかりにファゼル会長は、こう話したそうです。

「リンクを広くするより、小さくする方が容易だ」

▼日本が苦戦を強いられる!?

 男子代表が「23位」。

 スマイルジャパンの愛称で呼ばれる女子代表は「7位」

 現時点での世界ランキングには開きがあるものの、かねてから男女ともに、日本はプレーやスケーティングのスピードを活かして、勝利を呼び込もうとして来ました。

 もし、オリンピックや世界選手権の舞台となるリンクが小さくなると、今までよりもリンク上のスペースが狭い中で、サイズに長けた欧米の選手とのプレーを求められるだけに、これまでにも増して苦戦を強いられる可能性は拭えません。

 それだけに、この改革は日本のアイスホッケーにとって、”逆風”になってしまいそうです。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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