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【平昌五輪】殿堂入りした父は別世界の人間だった。でも32歳になった今、超えることができるかもしれない

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
アメリカ代表のFWクリス・ボーク(Courtesy:cb1seven)

 ピョンチャン(平昌)オリンピックの開会式が昨夜行われたのに続いて、今日はスマイルジャパン(アイスホッケー女子代表)が初戦に臨み、世界ランキングで4つ上回る(5位)スウェーデンに、1-2のスコアで敗戦。

 悲願の”オリンピック初勝利”は、明後日のスイス戦へ持ち越しとなりました。

▼男子アイスホッケーは14日に開幕

 一方、14日から始まる男子で、初戦に登場するチームの一つが、アメリカです。

 アメリカの男子代表と聞くと、カナダほどではないにしても、ミネソタやマサチューセッツにコロラドなど、多くのNHL選手が育った州もあり、オリンピックで好成績を残しているように思われる方も少なくないのでは?

 ところが実際は、ソルトレイク(2002年)とバンクーバー(2010年)で銀メダルを手にしたものの頂点までは及ばず、金メダルを手にしたのは、ミラクルオンアイス(氷上の奇跡)と呼ばれ、後に映画化されたレイクプラシッド(1960年)が最後です。

▼アメリカのテレビ局は期待外れ・・・

 しかし、アメリカのアイスホッケー(男子と女子に加えてパラアイスホッケー)を統括するホッケーアメリカ(アメリカホッケー協会)は、各世代ごとに育成と強化のプログラムを構築し、レベルアップに注力。

 その成果が若い選手たちに見られ、昨年のNHLドラフトでは、カナダに次いで二番目に多い「50人」のアメリカ人が指名を受けました。

 このような流れから、オリンピックとNHL双方の全米放映権を所有しているコムキャストグループ傘下のNBCテレビは、アイスホッケーへの注目が一気に高まることを期待していた模様。

 しかしながら、NHL側と(オリンピックのアイスホッケーを統括する)国際アイスホッケー連盟との主張が合意に至らず、期待外れの結果に・・・。

▼思いもよらなかった好機が!

 その一方で、思いもよらなかった好機が巡ってきた選手も!

 それは北米のマイナーリーグや、ヨーロッパ各国のリーグでプレーしている選手たち。

 長野オリンピックから5大会続いたNHLのオリンピックブレイク(=選手たちが各国代表として出場できるよう、オリンピックに合わせて定めたレギュラーシーズン中断期間)が撤廃されたことで、ヨーロッパ各国のリーグやNHLの一つ下のリーグに相当するAHL(アメリカンホッケーリーグ)の選手へ、「祖国のユニフォームに袖を通してオリンピックへ出場できる」という、思いもよらなかった好機が巡ってきたのです。

 その中の一人が、クリス・ボーク(FW・32歳/AHLハーシーベアーズ)

クリス・ボーク(Courtesy:@TheHersheyBears)
クリス・ボーク(Courtesy:@TheHersheyBears)

▼父親は殿堂入りしたレイ・ボーク

 北米のプロスポーツに詳しい方なら、「ボーク」という名前に聞き覚えがある方もいらっしゃるのでは?

 それもそのはずで、クリス・ボークの父親は、アイスホッケー殿堂入りを果たしたレイ(レイモンド)・ボーク

 ドラフト1巡目(全体8位)指名を受けて契約を結んだボストン ブルーインズで、いきなり主力DFとして活躍し、カルダートロフィー(最優秀新人賞)に輝いたのを皮切りに22季にわたってプレーし、ノリストロフィー(最優秀DF賞)に5回選出されました。

 さらにカナダ代表でも看板DFの役割を担い、ワールドカップの前身のカナダカップや、長野オリンピックでプレーした功績を評価され、アイスホッケー殿堂入りも果たしています。

▼兄弟揃って父親と違うポジションへ

 そんなボークには、二人の息子がいます。

 前述した兄のクリスと、弟のライアン(FW・27歳/AHLブリッジポート サウンドタイガース)です。

左から、兄のクリス、父親のレイ、弟のライアン(Courtesy:@GregPresto)
左から、兄のクリス、父親のレイ、弟のライアン(Courtesy:@GregPresto)

 2004年にワシントン キャピタルズからドラフト2巡目(全体33位)指名を受けた兄と、2009年にニューヨーク レンジャーズに3巡目(全体80位)指名された弟のライアン。

 ともに小さい頃からホッケーを続けてきましたが、イヤと言うほど父親と比較された影響で、子供心に父は別世界の人間だったと感じる時が多かったそうです。

 その影響は少なからずあり、兄弟揃って父親とは違うFWの道を歩んできたと言います。

 しかし、兄も弟もNHLでレギュラーポジションをつかむことは難しく、(NHLの一つ下のリーグに相当する)AHLのマイナーチームを転々。

 なかでも兄のクリスは、住み慣れた北米を飛び出してロシアやヨーロッパでもプレーをして、キャリアを重ねてきました。

▼アメリカ代表のキープレーヤーに

 そんなクリスに大きな期待を寄せているのが、アメリカ代表のトニー・グラナト ヘッドコーチ(46歳)

 「彼はスペシャルプレー(反則退場によって数的有利or不利となって得点が動きやすい時間帯)で大きな役割を担うだろう」と公言。

 アイスホッケーの試合では、スペシャルプレーでの得失点が勝敗の行方を大きく左右するとあって、兄のクリスがアメリカのキープレーヤーとなりそうです。

▼32歳になった今、父親を超えることができるかもしれない

 「オリンピック代表に選ばれてから、いろいろな人たちから激励を受けたから、その期待に応えたいと思っている。そして何より、自分のことを犠牲にしてまで、支え続けてくれている妻のためにプレーするつもりだよ」

 クリスはこう話していたそうです。

 

 NHLでチャンピオンに輝き、殿堂入りまで果たした父親は、一度だけ出場したオリンピックで、メダルを手にすることができませんでした。

 

 子供心に「父は別世界の人間だったと感じる時が多かった」というクリスは、32歳になった今、ピョンチャンでメダルを勝ち取り、父親を超えることができるでしょうか。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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