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まだ間に合う?「ヘリマネ」から資産を守る海外口座開設法

岩崎博充経済ジャーナリスト
アジアの国際金融センター「香港」は中国返還後、大きな経済発展を遂げた

ヘリマネは確実に日本人を貧乏にする!

このところ日本の株式市場が堅調だ。自民党政権が参院選で勝利し、安倍首相が「アベノミクスのエンジンをふかす」と発言したことなどが追い風となって、追加の公共投資や日銀による量的緩和がある、との読みから株式が買われた。加えて、いま注目されているのが「ヘリコプターマネー(以下、ヘリマネ)」に対する報道がある。

株式市場などを中心に日銀がヘリマネの導入に踏み切るのではないか、という観測が起こっているのだ。黒田日銀総裁が、自ら記者会見などで否定はしているものの、これまで市場との対話が不十分と見られている日銀を全面的に信用していない投資家も少なくない。ヘリマネがいつ導入されていもいいような対応を、日本の株式市場でも取り始めたと言って良いのかもしれない。ヘリマネは部分的にも導入されれば、円安が進み、とりあえず株価は上昇するからだ。とりわけ、外国人投資家のヘリマネに対する期待度が高いとも言われている。

ヘリマネについては、様々な報道がなされているため詳細は省くが、簡単に言えば、日銀が日本政府が発行する日本国債を無制限に引き受けて、しかも政府債務として残らないという方法で「財政ファイナンス」と呼ばれる。政府の債務にならないということは、政府は制限なく予算を使えることになり、公共事業でも、軍備拡張でも何でもできる。

かつて、昭和恐慌直後の日本が導入して一時的に成功したことがあり、また米国が第2次世界大戦中に軍備増強のために導入したことがある。米国は、大戦で勝利したこともあって、財政的な影響を残すことなく成功している。しかし、その一方でヘリマネの大半は悲惨な結末を迎えているのが現実だ。年間50%を超すようなハイパーインフレに陥ったり、預金封鎖や貨幣価値の転換など、国民の金融資産を根こそぎ奪う結果に陥ることが多い。歴史的にも、その事実は明白だ。

実際に、ヘリマネが導入されてしまったら、国民が持つ預金や債券、株式といった金融資産はほとんど価値を失う結果になりやすい。そんな事態を避けるためにはどうすればいいのか。最も効果的な方法は、そんな政策を取らないのがベストなのだが、それでも導入されてしまった時には、次の3つぐらいしか方法はない。簡単に紹介しておくと……

1.家賃収入などの定期的な収益を得られる不動産投資や事業投資

2.金や絵画など、一定の資産価値が確保されているものに換える

3.海外口座を開設して海外に資産を移して運用

これらの方法で、最も効果的な方法とは何か。それぞれメリット、デメリットはあるが、たとえば賃貸用不動産や商業ビルなどに投資しておけば、ハイパーインフレなどになっても、定期的な収入が入ってくるために資産価値が大きく下落しない、と言われてきた。太平洋戦争直後のハイパーインフレでは、旅館などを買い漁ることで財産を成した新興財閥が多い。

金や絵画もある一定の資産価値は保つものの、歴史的に見てバブル崩壊後はいずれ資産価値が減少してしまう。不動産同様にバブル崩壊後の資産価値の目減りは避けられないのだ。海外口座は、ある一定の富裕層であればすでに保有して、自分の資産の一部を海外で管理、運用している可能性が高い。

日本のような「マイナス金利で預金金利はほぼゼロ」「手数料ばかり取られて儲からない投資信託」といった最悪の投資環境の地から、海外の「国際金融センター」と呼ばれるような地域に資産を移すことで、着実な資産運用が可能になるケースが高い。自分の資産を外貨ベースでとらえ、日本経済が最悪の時代になった場合に備えて事前に対応しておく……。それが海外口座開設の目的であり、魅力ともいえる。

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「ヘリマネ」から資産を守る海外口座のいま

というわけで、いまからでも間に合う「海外口座開設」の現状を見てみよう。海外への資産移転と言えば、オフショアに法人を設立して節税を図る仕組みが暴露された「パナマ文書」でも注目されたが、数多くの人が誤解していることがある。オフショア地域=タックスヘイブン(租税回避地)に設立された法人であっても、実際の資産運用は「国際金融センター」と呼ばれる国や地域の金融機関で運用されるということだ。パナマに設立された法人だからと言って、パナマの銀行で運用する人は少ない。国際金融センターというキーワードが大きな意味を持つわけだ。

そんな国際金融センターで知られる場所と言えば、アジアでは「香港」がもっとも一般的な場所だ。近年、中国への投資の入り口となって、世界中からマネーを集めて、英国から返還後も大きな経済発展を遂げてきた。かつては、東京が世界3大金融センターのひとつと言われたが、いまやとっくに香港にその座を奪われている。

その香港は今どうなっているのか。日本人が大挙して「HSBC」や「シティバンク」に押しかけて、海外口座を開設した時代はとっくに過ぎたのではないか。そんな印象を持っている人が多いかもしれないが、実際はまた新たなブームが起きつつあると見て良い。日銀による大規模な量的緩和が実施され、加えてマイナス金利が導入されたことで、日本の投資環境はいまや最悪になっている。

アベノミクスが続き、消費税率引き上げ延長が続くなかで、政府の財政赤字は1054兆円(2015年9月末)を超えている。もっとも、こうした動きは日本に限ったことではなさそうだ。いまや、世界的に自国以外の国で口座を開設して、資産を分散させようという動きが拡大しているようだ。

筆者は、7月中旬に久しぶりに香港を訪れたのだが、その時に「HSBC」の店頭で目にした光景は、オーストラリアや英国、EU諸国と思われる観光客がグループで口座開設のために訪れている姿だった。さすがに日本人の姿は目にしなかったが、HSBC香港は相変わらず、海外からの口座開設希望者が多いようだ。日本人の数が少なかったのは、おそらくすでに富裕層の多くが超円高と呼ばれる時代に、香港に口座開設を済ませていること。そして、いまや日本での海外口座に対するイメージが大きく変わってきたことがあげられる。

かつて海外口座開設といえば、「資産隠し」「税逃れ」といったイメージがあったものの、日本人であれば世界中のどこで上げた収益であろうと確定申告することが義務付けられ、海外に5000万円以上の資産がある人は「国外財産調書」を提出しなければならない。100万円を超える金額の送金に対しても届け出る必要がある。そして「マイナンバー制度」の導入というのも大きなインパクトになっている。

加えて、以前から「日本人は海外口座をうまく活用できていない」という指摘も多かった。英語があまり得意ではないために、投資口座を開設できなかったり、開設できてもスキル不足から狙い通りの資産運用ができていないという指摘が多かった。実際に、HSBCに10万米ドルを超える資金を入れたものの、そのままになっているという富裕層も多いのではないか……。

ところが、そんな日本人の海外口座事情にいま、大きな変化が起きている。香港に昨年5月、世界初ともいえる「日系銀行」が誕生。取引の一切を日本語で対応することを打ち出し、一度は本人が香港に行く必要があるものの、口座開設の受付から開設の手続き、そして口座開設後の様々な取引まで、すべて日本語で取引してくれる。

日系銀行というのは「日本ウエルス銀行(NWB)」で、日本の銀行である「新生銀行」、オンライン証券で知られる「マネックスグループ」、東急グループの不動産会社「東急リバブル」、日本政策投資銀行とあすかアセットマネジメントとのジョイントベンチャーとして設立されたプライベート・エクイティ投資会社「マーキュリーアインインベストメント」、そして香港の多角的金融ナビゲーターである「コンボイファイナンシャル」。これらの企業が共同出資して設立した香港の銀行だ。

日本の大手銀行が香港に進出するのは極めて異例なうえに、香港金融管理局(HKMA)から、正式に「銀行免許(Restricted Licence Bank)」を取得しており、日系の銀行としては51年ぶりという免許交付となっている。銀行免許同様に証券ライセンスも取得しており、銀行とは言え投資信託や債券投資などが可能な銀行になっている。むろん、CEOをはじめとして日本人従業員が数多く揃っている。

日本語ですべての取引ができること、日系の銀行であることなどがプラスとなって、海外口座開設のハードルが大きく下がったと言ってもいいのかもしれない。これまで通訳やコーディネーターに頼ってきた海外口座開設が、香港に行く元気と時間さえあれば開設できるということだ。かつて、香港のHSBCやシティバンクに口座開設した投資家も、乗り換える人が増えていると見られている。

日本ウエルス銀行(NWB)
日本ウエルス銀行(NWB)

最悪の投資環境を脱出してマネーを香港に移す

これまで海外口座の開設目的と言えば、「来るかもしれない日本の財政破綻に備える」ためのものだった。しかし、アベノミクスによるインフレ脱却政策は、日銀による異次元の量的緩和策やマイナス金利の導入などをもたらし、日本の投資環境を最悪の状況に陥れてしまった。しかも、日銀は意図的にインフレを引き起こそうとしている。

言い換えれば、このまま日本の銀行にすべてを預けて放置してしまえば、いずれ「日本円」はその価値を失って超円安がやってくる。円安が歯止めなく進もうとしたときに、黒田日銀総裁が「125円を超える円安は想像しがたい」と言ってできた「黒田ブロック」も、いわば単なる「口先介入」に過ぎない。いずれは、どんなコメントを発表しても円安が止まらない日が来る可能性が高い。

そんな状況になってから、動いたのでは遅いかもしれない。そうした非常事態になる前に、日本の法律の及ばない「海外銀行」に資産を移しておくのは、ひとつの選択と言える。実際に、日本では投資できないような有利な投資信託や債券などが香港には数多く揃っている。たとえば、前述の「NWB」が扱っている投資信託や債券には、日本では販売されていない商品が数多く揃っている。同行のホームページを見ると、英文だが取り扱っているファンドや債券のリストが掲載されている。電話やメールを使って「日本語」で問い合わせてみるといいだろう。

いまや、海外口座は節税や脱税と言った目的ではなくなっている。海外口座を保有することは資産運用のための有力な選択肢のひとつ、と考えるべきだ。利息の付かない日本の銀行預金口座に置いておくのも、ひとつの選択ではあるが、これからの将来を考えたとき、その選択肢には大きな不安が残る。もし、海外に口座を持てる資産があるのであれば、海外口座という選択肢を考えてみることも大切と言える。

いずれにしても、日銀が「ヘリマネはない」と強調すればするほど、7月28-29日に行われる今回の金融政策決定会合ではないかもしれないが、次の会合、あるいは次の次の会合では何らかのアクションが出て来るかも知れない。今回、外国人投資家が日銀のヘリマネ情報に注目したのも、もはや日銀には打てる金融政策がなくなりつつあることを理解しているからだ。それが、どんなにインパクトのあるものか、日本の個人投資家の多くは理解していない。

経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。雑誌編集者等を経て、1982年より独立。経済、金融などに特化したフリーのライター集団「ライト ルーム」を設立。経済、金融、国際などを中心に雑誌、新聞、単行本などで執筆活動。テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活 動している。近著に「日本人が知らなかったリスクマネー入門」(翔泳社刊)、「老後破綻」(廣済堂新書)、「はじめての海外口座 (学研ムック)」など多数。有料マガジン「岩崎博充の『財政破綻時代の資産防衛法』」(http://www.mag2.com/m/0001673215.html?l=rqv0396796)を発行中。

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