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見えてきた?「双子の赤字」抱えた日本の未来図

岩崎博充経済ジャーナリスト

13年度経常赤字転落のシナリオも

財務省が発表した1月の貿易赤字は、2兆7900億円に達して過去最高になった。この調子で貿易赤字が拡大すれば、いよいよ日本の「経常収支」の13年度赤字転落も見えてきた。かつて米国が苦しんだ貿易赤字と財政赤字いわゆる「双子の赤字」が日本を襲う日が見えてきたことを意味する。

現在の貿易赤字の原因は、原発停止による反動で一時的なものであればいいのだが、円安になったために半導体等電子部品といった原材料の輸入が大きく伸びてしまっている状態だ。原発が再稼働しても即座に貿易赤字が貿易黒字に転換できる、と考えるのは難しいかもしれない。円高に苦しんだ時代に、海外生産に切り替えた企業が、円安の進行で海外の工場から部品を輸入する場合など、原材料コストの負担が上昇。いわゆる円高による「産業の空洞化」がもたらしている貿易赤字が、現在の慢性的な貿易赤字を形成しているというわけだ。

実際に、大和総研のレポートによれば、2013年の貿易赤字11兆5000億円のうち、原発停止に伴う輸入増は4兆円、空洞化によるものが7兆円。かつての米国がそうであったように、今後の日本は深刻な貿易赤字に苦しむことになるかもしれない。1000兆円を超す財政赤字とともに、「双子の赤字」に苦しむ日本の未来図が見えてきたのだ。

仮にアベノミクス自体が成功して、税収が増えても財政赤字の縮小にメドがつくまでは、かなり道が遠そうだ。そのアベノミクスも、原動力のひとつだった株式市場が2014年に入ってから下落が続いており、株高を支えてきた外国人投資家が日本株を買い続けるかどうかが不透明になってきた。第3の矢である成長戦略の実行力に疑問符が出てきたことで、頼みの綱は日本銀行だけという状態が今後も続く可能性が高い。

米国の双子の赤字というとすぐに思い出すのが「レーガノミクス」だ。ケネディ大統領時代から始まった米国の財政赤字は、レーガン政権が唱えた経済政策=レーガノミクスによって赤字幅を急激に拡大させた。「積極的な財政出動をして市中にお金をばらまけば、税収が増えて財政赤字も解消される」という経済政策だが、アベノミクスに近い経済政策ともいえる。

ちなみに、レーガノミクスは、当初7000億ドル程度だった財政赤字が就任期間中の8年で2兆ドルにまで膨らませてしまう。さらに、レーガン政権時代には貿易赤字だけでなく、経常収支まで赤字転落となり、世界で最大の債務国に転落する。結局、「プラザ合意」で修正されるわけだが、膨れ上がる双子の赤字拡大を防ぐために、レーガノミクスは「ドル高政策」をとって傷を広げた。

原発停止より産業の空洞化による貿易赤字

さて、日本が双子の赤字を抱えた場合、世界経済や日本経済にどんな影響を与えるのかが問題となる。アベノミクスは、デフレ脱却のために日銀が異次元の量的緩和を実施。そのおかげで円安が進み、日本株も上昇した。デフレ脱却だけがアベノミクスの目標だったら成功と言えるのかもしれないが、問題は双子の赤字の出現によって、今度はインフレが止まらなくなる事態が予想される。こうした事態は当然予想されていたのだが、やや当初の予想よりも早くなっている。やはり、日銀の“バズーカ―砲”による異次元の金融緩和、その影響を受けて強引に実施した「円安」だろう。

経常赤字が続く、財政赤字も深刻となれば、少なくとも通貨は徐々に円安が進行する。円安が進行すれば、輸出企業の国際競争力が高まって業績が上がると思われているが、実は一概にそうとは言えない。産業の空洞化で、輸入コストが上昇して輸出で儲けた分を相殺してしまう。一定の円安で止まればいいのだが、円安がさらに進んだ場合は、企業によって業績はまちまちになる。

さらに、問題なのは株価が上がらない可能性が高くなることだ。いうまでもなく、日本の株式市場は外国人投資家によって支えられているのだが、株が上がっても円が下落するのでは、投資先として魅力がない。株は上がっても、円安が進めば利益は出ない。つまり、外国人投資家が投資してこなければ、株は上がらない可能性が高いということだ。まさか、レーガノミクスみたいに通貨高=円高政策をとって、海外からの投資を呼び込むということも難しそうだ。

レーガノミクスの失敗は、結局「プラザ合意」によるドル高是正で修正されるが、日本の双子の赤字も深刻になれば、日本のどこかのホテルでG5(先進5か国蔵相会議)あたりが開催されて、日本円が一気に切り下げられるなんて言うシナリオも出てくる。もしプラザ合意と逆のことが起きるなら、対米ドルで2分の1に下落して、1ドル=200円程度になるかもしれない。これは、かなり厳しい影響が出るはずだ。

日本独自の解決策、あるとしたら緊縮政策?

いうまでもないが、基軸通貨国である米国とそうではない日本とを単純に比較はできない。アベノミクスの成否にかかわらず、双子の赤字が見えてきた日本が何をすればいいのか。財政赤字を減らして、貿易収支を黒字にする経済政策をとるしか方法はないのだが、両方ともハードルは高そうだ。というのも、双子の赤字を抱える国は世界的には数多くある。しかし、日本ほど巨額の財政赤字を抱えている国はどこにもない。

財政赤字の規模の大きさはよく知られているが、日本が経常赤字国に転落した時、どの国が日本を支えてくれるのか。どんな投資家が円を買って日本に投資してくれるのか。ドイツのジョイブレ財務相が新興国に経済構造改革を促すコメントが出ていたが、日本こそ数多くの規制を排除して、構造改革を進めていかないといまの豊かさを維持できないのかもしれない。いずれにしても、双子の赤字に対応する経済政策が今後は求められるのだろう。

ちなみに、企業や個人投資家にとっては現代は、弱くなる円に対して資産の目減りを防ぐ投資商品が数多くあり、そう心配することはない。日本株への投資をやめて外国株を買えばいいし、FXで円を売って米ドルなど強い通貨を買う、海外ETFや外国債券、外国株式に投資した投資信託を買っておけば、少なくとも円ベースでは利益が出るはずだ。金でもいい。少なくとも、莫大な資産を保有しているのでなければ、海外の金融商品に投資することで、いずれ来るであろうインフレ=円ベースの金融資産の目減りを防ぐことはできるはずだ。

経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。雑誌編集者等を経て、1982年より独立。経済、金融などに特化したフリーのライター集団「ライト ルーム」を設立。経済、金融、国際などを中心に雑誌、新聞、単行本などで執筆活動。テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活 動している。近著に「日本人が知らなかったリスクマネー入門」(翔泳社刊)、「老後破綻」(廣済堂新書)、「はじめての海外口座 (学研ムック)」など多数。有料マガジン「岩崎博充の『財政破綻時代の資産防衛法』」(http://www.mag2.com/m/0001673215.html?l=rqv0396796)を発行中。

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