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早すぎないか?「アベノミクス」への評価

岩崎博充経済ジャーナリスト

はしゃぎすぎのアベノミクス相場

アベノミクスが成功するためには「3本の矢」も不可避だが、どうもあまり期待はできそうもない。3本の矢の中身についてはいろいろな考え方があるだろうが、要はマーケットがアベノミクスに期待してくれるかどうかが大切になってくる。安倍政権の誕生が円安のきっかけを作ったことは言うまでもないが、いまだにリーマンショック以前の状態には、為替も株価も戻っていない。

日経平均株価は、リーマンショック直後につけた6994円90銭(2008年10月31日)を底にして、その後2010年4月につけた1万1408円17銭をピークに、民主党政権時代はずっとボックス相場を続けて来た。株価が急騰しているイメージがあるが、いまだにそのボックス圏を抜けていないのが現状だ。為替市場も、リーマンショック以前の2007年6月29日につけた1ドル=124円12銭にはまだまだ相当の開きがある。

リーマンショックでは、世界中に投資されていたリスクマネーが一気にポジションをクローズしたために、円キャリートレードが起きて急激な円高が進んだ。さらに、円はドルと共に安全な通貨として避難通貨として買われた。急激な円高は株価を押し下げて、日本経済全体に閉塞感が蔓延した。

要するに、まだマーケットは「確信」の域に達していないということだ。にもかかわらず、メディアはアベノミクスを評価する勢力と懸念を示す勢力とで2分されている。気の早いところでは、すでに「勝てば官軍」といった表現すら見られる。この状態で評価するのは時期尚早といわざるを得ない。

日本株上昇の背景には「日米同時ハネムーン」

しかし、現在のアベノミクスを支えている円安トレンドは、アベノミクスへの期待感というよりも、日本の貿易赤字が拡大したことや経常収支すら赤字傾向にあるファンダメンタルズを反映してのことではないのか。さらに、米国は大統領選挙が終わった直後で、安倍政権同様に現在はいわゆる「ハネムーン期間」である。

米国では「5月に売って、9月に戻れ」といった内容の市場格言があるが、ハネムーン期間は通常半年しか持たない。現在、日本株が大きく上昇しているように思われがちだが、その背景には米国株の上昇がある。ニューヨークダウのチャートを週足で見ると、ここ10週はほとんどの週が上昇で終わっている。日本株が上昇している背景には、この米国株の上昇も無視できないし、株価が上昇すれば円が売られるというロジックも、為替市場ではいまや定着しつつある。

いうまでもなく、日本でも安倍政権が12月に誕生したばかりで、現在はハネムーン状態。米国と日本が同時に政治のハネムーン期間にあるわけで、言い換えれば上がらないはずがない状態だ。実際に、現在の株式市場を見ていると海外の外国人投資家による大量の買いが依然として入っていることを感じさせられる。そろそろ株式投資をしようと考えている、あるいはすでに始めたという個人投資家も少なくないはずだが、ここは少し冷静に考えたほうがいいのかもしれない。あまりにも、円安、株高のスピードが速すぎるからだ。

「ダボス会議」で見え隠れするグローバルリスク

そんなハネムーンの中で、世界経済フォーラム年次総会、いわゆるダボス会議が今年もスイスで開催されたが、会議全体で話し合われたことと個別の出席者のコメントでは、その温度差が微妙に違っていることが興味深い。日本の円安政策に対してどこからもクレームはなかったと甘利経済再生担当大臣は胸を張ったが、本当のクレームが出てくるのは今後も円安が進めばの話だろう。

本当に注目すべきは「欧州債務危機は終わっていない」(スウェーデン財務相)「(想定を超える)テールリスクはなくなった(だけのこと)」(欧州委員)といった発言の数々だ。さらに、米国の「財政の崖」についても「オバマ大統領と共和党は和解できずに強制的な財政削減が始まる」といった発言をするコメンテーターも目立った。

アベノミクスに対する将来の懸念報道が多いのは事実だが、むしろマーケットが逆回転したときにどうなるのかを検証する必要がある。とりわけ、こうしたグローバルリスクが表面化したときに、アベノミクスはどうなるのか。現在の日本株の上昇を支えているのが、海外の投資家である以上、リスクオフになったときには一斉に日本株を売って、今度は円高をしかけていくはずだ。さらに、本来日本経済が回復すると予想するなら「円」は買われるはずで、再び1ドル=70円台に戻る可能性も否定できない。金利が高くなった円は、外国人投資家には魅力的になるはずだ。

シカゴの通貨先物の「IMMポジション」でも、このところ投機筋の売りポジションが6週連続で減少しているなど、円安一辺倒ではない状況にある。IMMポジションについては様々な捉え方があるが、ドル円の売りポジションが減少しているということは、ポジションを解消して買いポジション(=円高)に換えているリスクマネージメントが徐々に増えているとも見える。

1000兆円を超える財政赤字のリスクも、依然として手付かずのままだ。1月28日の臨時閣議では、政府は2013年度の実質成長率の見通しを2.5%、消費者物価指数(総合)もプラス0.5%と脱デフレをアピール。物価変動を含む名目成長率はプラス2.7%で、16年ぶりに名目成長率が実質成長率を上回る予測を立てた。仮に金利が0.5%上昇すれば、日本国債はどうなるのか。

世界の流れは、いうまでもなく揃っての金融緩和方向だが、金融緩和が正しいのか。その歴史的な結論はいまだ出ていない。

経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。雑誌編集者等を経て、1982年より独立。経済、金融などに特化したフリーのライター集団「ライト ルーム」を設立。経済、金融、国際などを中心に雑誌、新聞、単行本などで執筆活動。テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活 動している。近著に「日本人が知らなかったリスクマネー入門」(翔泳社刊)、「老後破綻」(廣済堂新書)、「はじめての海外口座 (学研ムック)」など多数。有料マガジン「岩崎博充の『財政破綻時代の資産防衛法』」(http://www.mag2.com/m/0001673215.html?l=rqv0396796)を発行中。

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