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「ババ抜き相場」の向こう側に見えるもの

岩崎博充経済ジャーナリスト

仕手株まがいが急増してきた株式市場

年が明けてからの株式市場は、急激な円安を背景に「アベノミクス」に酔いしれる様相を呈してきた。株式市場がどんどん上昇している背景には、円安も無論あるのだが、米国の大手投資銀行のゴールドマン・サックスが、12ヵ月後のTOPIXの目標値を1000(2013年1月11日現在で898.69)にまで引き上げたことなどが好感されている。当初、株式市場は外国人投資家の「買い」と思われる大型輸出関連株などの上昇に集中していたが、最近では自民党銘柄といった建設関連銘柄なども買われるようになっている。昔ながらの仕手株も復活しつつある。

外国人投資家の日本株買いに次いで、金融機関の自己勘定や仕手集団など、運用のプロである機関投資家が日本株投資に本格参入してきたと見ていいだろう。そうなると、次はいよいよ一般の個人投資家が手を出してくることになるわけだが、ここで注意したいのは「個人投資家の市場参加が相場のピーク」というパターンだ。

かつては、ここまで来るのに数ヶ月かかったのだが、アベノミクスは安倍政権が誕生して1ヶ月もたたないうちに、円安は1ドル=90円台に迫り、株式市場は日経平均が1万円を軽々と突破してきた。先週発売の総合週刊誌なども、株式市場と為替市場の話題が多かったが、どの記事も参院選まではこのままの状態が維持されるのではないか、という論調が多かった、しかし、現在の相場は調整らしい調整なしで一直線に上昇しており、そういう意味では上昇のスピードが速すぎる。調整らしいものがあったとすれば、麻生財務大臣の「外貨準備によるESM債購入」と「(日銀とは)協定(アコード)という言葉にこだわらない」という“失言”によるものぐらいだ。いかに国内外の投資家が、日本株を買って、円を売っているかがわかる。

ババ抜き相場が始まる?

ここまで、株式市場が急速に加熱してくると、不安になってくるのが「誰がババを引くか」だ。業績や将来性が伴わない銘柄も上昇してくるはずだから、株価が下落したときには銘柄によっては暴落することになる。そうしたババを掴むのは、これまでは後から参戦してきた個人投資家であった。個人投資家でも、普段株式投資などをやったことがないような、本当の素人がババを掴まされるケースが多い。

では、ババを掴むのが怖いからといって、株式市場に一切手を出さないほうがいいのかというと、今後の展開しだいではインフレが心配だ。資産運用の一部に株式投資を加えたいところだ。そのためには、早めにリスクをとって、きちんと業績を見て今後の業績発表で好業績が期待できそうな銘柄を選ぶことが重要だろう。週刊誌やマネー雑誌が株価高騰に懸念を示しているうちはまだいいが、日本株の購入を推奨し始めるころには、株式市場は調整直前まで来ている可能性が高い。とりわけ、ヘッジファンドなどのリスクマネーは必ず「出口戦略」を考えて投資行動に出る。「ここで買ったポジションは誰がいつ買ってくれるのか」といった出口戦略のシナリオが設定できなければ投資はしない。今回の出口戦略の先にあるのは、おそらく日本の個人投資家の市場参入だろう。

とすれば、ババを引かない戦略が必要になってくる。外国人投資家の裏をかくぐらいの投資戦略が必要になるのかもしれない。そこまで高度な戦略は無理としても、万一外国人投資家が一斉に日本株を売り始める前に利益確定をしたり、万一暴落しても被害を最小限に抑えられる投資行動が必要だ。たとえば、暴落しにくい好業績の銘柄を中心に投資するのもひとつの方法だ。

具体的には、今後の業績が良さそうな銘柄と言うことになるが、やはり円安の恩恵を受けやすい輸出関連銘柄や震災復興関連銘柄というところになる。いずれにしても、大切なことは「深追いは禁物」であるということだ。長期投資は避けて、日々株価をウォッチして、ある程度利益が出たらさっさと利益を確定して、次の銘柄を探すような投資法がお勧めだ。ババを掴まないためにはどうすればいいのか--その問いかけを常に念頭に置くことが大切だろう。

きっかけは円高への切り替えし

問題は、いつ株式市場がピークを迎えるかだが、相場のことはわからない。しかし、その鍵を握っているのは、為替市場の動向だ。あまりにも凄まじい勢いで円安が進んだ場合には、株式市場にも警戒感が出てくるはずだ。2012年11月の日本の経常収支が赤字に転落したが、2012年1年間の統計で貿易赤字がどの程度まで膨らむかによっても、円安はさらに進む可能性がある。

米国の財政の崖や欧州債務問題もまだまだ解決はしていない。円売り一色で来た年末年始だが、このトレンドもどこで転換するかわからない。要するに、急激すぎる変動は副作用があるということだ。徐々に円安に振れる、少しずつ株価が上昇していく--そんなマーケットが理想であり、そう考えると今の状況は「やや警戒」レベルといっていい。

一直線で円安が進み、株価が高くなり、このまま日本の景気がよくなる--そんな幻想は描かないことだ。「ババ抜き相場」が崩壊したときには、またも個人投資家の塩漬け銘柄が増えることになる。個人マネーの「普通預金」の割合が増えており、定期預金を抜いて個人預金全体の50%に達していると言う記事が日経新聞に出ていたが、行き場を求めている個人マネーが株式市場に向かい始めるとどうなるのか。「ババ抜き相場」の向こう側にあるものはいまだ見えてこない。

経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。雑誌編集者等を経て、1982年より独立。経済、金融などに特化したフリーのライター集団「ライト ルーム」を設立。経済、金融、国際などを中心に雑誌、新聞、単行本などで執筆活動。テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活 動している。近著に「日本人が知らなかったリスクマネー入門」(翔泳社刊)、「老後破綻」(廣済堂新書)、「はじめての海外口座 (学研ムック)」など多数。有料マガジン「岩崎博充の『財政破綻時代の資産防衛法』」(http://www.mag2.com/m/0001673215.html?l=rqv0396796)を発行中。

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