遅れる真相究明と社会的議論の欠如・DAYS JAPAN 広河隆一氏の性暴力に対する検証への疑問

DAYS JAPAN 最終号

■ はじめに

 DAYS JAPAN 編集長であった広河隆一氏に対する性暴力が昨年12月から連続して週刊文春で掲載され、各メディアも後追い報道をしています。

 この問題に関する私の個人的な見解や想いは、私の個人ブログに掲載していますが、私自身の受けたショックも計り知れないものがありました。

  広河隆一氏に対する告発について

 「一枚の写真が国家を動かすこともある」「人々の意志が戦争を止める日が必ず来る」との理念を掲げたDAYS JAPANと広河隆一氏。

 その活動を信頼してきた私は、あのような性加害を見抜けずに広河氏を講演会に呼んだり、呼ばれたり、取材を受けたり、SNS等で尊敬の気持ちと表明し続けてきたことに対し、強い自己嫌悪感を感じ、自責の念も感じてきました。

 一方、私には、被害者の方や様々な関係者の方からご相談を受ける機会が次々とありました。

 その詳細は、弁護士としての守秘義務もあり、お話できませんが、その都度私にできるアドバイスをしながら、事態を見守ってきました。

 財務省セクハラ事件のように、自分たちからかけ離れた「国家権力」周辺で起きたセクハラではなく、身近な社会運動の領域で起きた「権力者」によるセクハラ、敵か味方か、右か左か、という図式的な二分論ではなく、本当に私たちが日常生活で克服していくべき人権や性暴力の問題としてこの問題は立ち現われました。  

 被害者の方々のためにも、今後同様の事態を繰り返さないためにも、しっかりとした検証が不可欠な問題です。ところが、その検証はどうなっているのか、見守ってきた立場から懸念を指摘したいと思います。

■ 検証体制

 DAYS JAPAN のウェブサイトには、問題の検証に関して、以下の体制で実施していることが掲載されています。

 現在、外部有識者で構成された「デイズジャパン検証委員会(委員長:金子雅臣氏)」に おいて、検証作業が行われております。検証委員会の構成員は下記のとおりです。

デイズジャパン検証委員会

委員長  金子雅臣氏 ((一社)職場のハラスメント研究所 代表)

委員  上柳敏郎氏 (弁護士)

委員   太田啓子氏 (弁護士)

 検証委員会の経過報告については、弊社の責任として、検証委員会からの報告を掲載する形式で、弊社「DAYS JAPAN」最終号にて、公表する予定です。

 検証委員会及び検証作業等に関するお問い合わせにつきましては、弊社にて対応いたします。

      株式会社デイズジャパン

出典:Days Japan

 そして、検証委員会は被害にあわれた方々に対して、以下の呼びかけをしています。

 広河氏によるハラスメントについてなんらかの情報をお持ちの方(直接被害を経験された方のほか、自分以外の被害を見聞きした方も含む)に、検証委員会へのご協力として情報提供を頂きたく、連絡先窓口を下記の通り公表致します。

 電子メールでのご連絡の場合

 chousa@surugadai.org

 ※ 電子メールでのご連絡は、まずは女性の検証委員または調査員が確認することとしております。

出典:検証委員会からのお知らせ

■ 検証に至る経緯

 しかし、この検証に至る経緯は極めて問題を伴うものであったと言わざるを得ません。

 問題発覚後も編集部に残り続け、残務整理に苦労され、それでも起きたことに対する真摯な検証を求めてきたスタッフの方々は、絶望し、退職を余儀なくされました。

 元スタッフの方々が「元スタッフの会」を結成し、以下のような意見表明をされています。

 株式会社デイズジャパンは、文春報道後の2018年12月31日、被害実態および同社の構造・体質についての調査を行うとし、その内容を「DAYS JAPAN」の最終号において公表すると発表しました。

 しかし、12月26日の文春報道後に同社から依頼を受け、当該の検証責任者として動いていた馬奈木厳太郎弁護士は、2019年1月半ばに、「会社の利益を第一に考えていない」ことを理由に代理人を解任されました。

 当時のジョー横溝編集長は、馬奈木弁護士解任後も「社員と役員の聞き取り調査を行い、内容をそのまま誌面に掲載すること」を役員・株主に要求し、それが拒否されたため、編集長を辞任、退職しました。

 続く1月28日、馬奈木弁護士解任後の検証が「第三者で構成する検証委員会」によって行われることが社内で発表されました。ところが、広河隆一に代わり就任した代表取締役に当時の社員数名が「検証に応じてなされた証言を役員が検閲するか」を確認したところ、「会社に不利益になるものを載せないのは当然である」との回答がありました。

 2月中旬より、検証委員会からこの会の発起人となる元スタッフ数名に対し、調査への協力の意思を問う依頼文書が届きました。しかし、上記のような事情があったため、自分たちの証言が意図的に改変、もしくは隠蔽されることを懸念し調査への協力を拒否、または依頼文書の受け取り自体を拒否しました。

 「最終号の内容はすべて検証委員会によって作成する」ことを理由に、今まで「DAYS JAPAN」に関わってきた編集部員を含む当時の社員は2月末での退職を余儀なくされ、最終号に一切関わることができなくなったという点も、調査を拒否した一因です。

出典:元スタッフの会

 ここで重大なのは、

 ■ 12月26日の文春報道後に同社から依頼を受け、当該の検証責任者として動いていた馬奈木厳太郎弁護士は、2019年1月半ばに、「会社の利益を第一に考えていない」ことを理由に代理人を解任されました。

 ■ 当時のジョー横溝編集長は、馬奈木弁護士解任後も「社員と役員の聞き取り調査を行い、内容をそのまま誌面に掲載すること」を役員・株主に要求し、それが拒否されたため、編集長を辞任、退職しました。

 そして、現在公開されている第三者による検証委員会に関して、

 ■ 広河隆一に代わり就任した代表取締役に、当時の社員数名が「検証に応じてなされた証言を役員が検閲するか」を確認したところ、「会社に不利益になるものを載せないのは当然である」との回答がありました。

 という愕然とするような事実です。

 この経緯については、文春報道でもライターの田村栄治氏も、元スタッフの方々の主張に沿う指摘をされています。

   https://bunshun.jp/articles/-/10742

 現在の検証委員会はこうした経緯を経て発足し、かつ代表取締役は、検証について会社の不利益になるものは掲載しない、という態度を表明したことがある以上、第三者委員会は、こうした過去の経緯について明確なスタンスを表明し、中立性に関する誓約を内外に示す必要があるのではないでしょうか。

 現在、私が外部から見ていても、この点は非常に気になります。

■ 検証体制と検証は、第三者委員会の水準を満たしているのか。

 次に、本件のような問題に関する検証にあたっては、日弁連が定めた 企業不祥事における第三者委員会ガイドラインに基づく中立的な運営が求められます。

 同ガイドラインはそもそも上場企業等の不祥事を想定して作成され、予算規模も潤沢な大企業でないと難しい面もあるのかもしれませんが、本件の社会的な注目に照らせば、できる限りこのガイドラインに即した、独立、中立性を維持し、以下のような活動を進めることが期待されます。

1.不祥事に関連する事実の調査、認定、評価

第三者委員会は、企業等において、不祥事が発生した場合において、調査を実施し、事実認定を行い、これを評価して原因を分析する。

(1)調査対象とする事実(調査スコープ)

第三者委員会の調査対象は、第一次的には不祥事を構成する事実関係であるが、それに止まらず、不祥事の経緯、動機、背景及び類似案件の存否、さらに当該不祥事を生じさせた内部統制、コンプライアンス、ガバナンス上の問題点、企業風土等にも及ぶ。

(2)事実認定

調査に基づく事実認定の権限は第三者委員会のみに属する。第三者委員会は、証拠に基づいた客観的な事実認定を行う。

(3)事実の評価、原因分析

第三者委員会は、認定された事実事実の評価を行い、不祥事の原因を分析する。

3.提言

第三者委員会は、調査結果に基づいて、再発防止策等の提言を行う。

(ガイドラインより抜粋)

 また、

 第三者委員会は、調査報告書提出前に、その全部又は一部を企業等に開示しない。

という非開示原則も、企業の都合の悪いところを書かれまいとする会社のプレッシャーから独立であるために不可欠なことです。

 Days Japanの検証についてこうした水準を満たしているのか、明らかではありません。

 被害者の方々から相談を受けてきた立場から、水準を満たした調査であってほしいと強く求めたいと思います。

■ DAYS JAPAN 最終号に掲載された検証委員会報告

 以上の観点から、本件の検証に関して大変気になるのが、DAYS JAPAN 最終号に掲載された、検証委員会報告です。

 最初に断り書きとして、これは中間報告と言えるものではなく、「DAYS JAPAN の組織としてのあり方に問題はなかったかについても検証対象と考えている」「今後の継続調査によって更に考察を深め、最終報告に生かしたい」と書かれています。

 しかしながら、大変奇異にうつったのは、この検証委員会報告が、被害者証言や客観的エビデンスの基づくものでなく、広河隆一氏個人からの聞き取りとそれに対する評価、という構成をとっていたことです。

 NGT48の第三者委員会調査の際にも言及しましたが、オーソドックスかつ模範的な調査報告書の記述方法は、例えば、ゼンショーすき屋に関する第三社長委員会報告ではないでしょうか。

 DAYS JAPAN がいかにワンマンであり、かつ広河氏による性加害が問題の焦点だとしても、また被害者証言がいまだに十分に得られなかったとしても、加害者証言とそれに対する分析のみに焦点をあてた調査結果だけが公開されると、それに引きずられて今後の調査内容が矮小化されるのではないか、加害者視点が先に来る調査内容をまず公開するという調査方法が妥当だったのか、疑問を感じます。

 本件では、私が関係者の方々からお話を聞くなかで、

・なぜ組織としてこうした問題を防ぐことができなかったのか、なぜ長期にわたり隠蔽されてきたのか

・広河氏以外のガバナンス体制はどうなっており、他の役員等の果たした役割はどうだったのか

・性暴力の背後にあるパワーハラスメント

という点が非常に強く指摘されてきました。多くの方々がこうした問題に対して、非常に強い思いを抱かれていました。

 こうした問題がすべてしっかりと検証されない限り、有効な検証とはいえないのではないか、と考えます。

■ 広河氏供述への評価について

 さらに気になったのが、DAYS JAPAN 最終号では、広河氏の「合意だと思っていた」との弁明が繰り返し登場し、その弁明はそのまま、弁明の信用性に疑問をなげかけられることなく記載されていた点です。

 この点、文春第二弾の記事で、被害女性は、海外取材中に外国人スタッフとセックスするか自分とするか、と二択を迫って女性を脅したこと、性行為の前にシャワールームに長く入っていた女性に「待たせるな! 」と怒鳴ったことなどが書かれています。

 被害女性は「『君のような学歴のない人は、こうしなければ報道では生きていけない』と言われ、きつく口止めされました」と証言しています。

 これは、本当に「同意していた」「付き合っているという認識」で片付く問題とは到底思われません。

 最終報告では、広河氏の主観を安易に前提とするのでなく、被害者証言と、広河氏の証言の矛盾について、明確で踏み込んだ分析がなされることが必要だと考えます。これは、被害者の方々も当然、強い思いで見守っていることでしょう。

■ 遅い検証結果公表 募る不安

 もうひとつの大きな懸念は、検証委員会発足後、検証結果の発表までかなりの時間を要している、ということです。

 DAYS JAPAN の最終号によれば、検証委員会は、2月上旬から調査を開始したとされ、既に3か月が経過しました。

 同時期に明るみに出たNGT48の調査(社会から多大な批判を浴びましたが)に比較すると、かなり時間がかかっているという印象があります。

 特に、懸念されるのは、検証委員会は、再発防止や、被害者に対する補償に関する勧告を行うのか否か、という点です。

 検証に応じた被害者は、検証の後に、被害者への補償等の誠意ある対応があるのではないかと考えているはずですが、DAYS JAPAN は最終号の編集を終え、もはや清算手続きに向かっているのではないか、そうなると、検証委員会の作業が長引くならば、最悪の場合、検証委員会のみが残り、会社としての賠償・補償といった対応もないまま、会社が解散という可能性もあるのではないか、と危惧されます。

 これは、広河氏個人の責任ではなく、DAYS JAPAN という組織・株式会社デイズジャパン  がスタッフ、アルバイト、ボランティアとして雇用等をされた方々に対する、法人としての責任であり、企業として不法行為責任を負うことになるはずです(民法715条参照)。

 ヒアリングに応じられた被害者の方から、

 

いつ最終報告書が公表されるのか、ヒアリングから時間が経っても検証委員会からの進捗の共有がなく不安

というお話を先日伺ったばかりです。

 ヒアリングをしたまま、どういうスケジュールで何をしていくのか被害者の方々にお伝えしないまま放置、というのは極めてよくないでしょう。

 そして、その間に万一にでも法人が解散、ということは社会的責任として決してあってはならないと思われますが、そのあたりについても何らDAYS JAPAN のウェブサイト上は責任ある説明がないように思われます。

 

■ 説明責任を果たす必要性

 冒頭にも書いた通り、社会運動に与えたこの問題の衝撃は計り知れません。

 広河氏を信用した読者、支援者、運動関係者等も多大な衝撃を受け、真相を知りたいと考えています。

 そして、多数に上る被害者の方々もしっかりとした検証を期待しています。

 人権や社会問題に取り組む人々の間で、リーダーシップを持つ者による性暴力やハラスメント、そうした問題をなくしていくことは日本の社会運動全体にとってもとても大きな課題であり、社会にとっても検証の果たす役割は非常に大きいものがあります。

 冒頭に元スタッフの告発を紹介した通り、本問題の検証は何度も期待を裏切られ続けてきました。

 結果的に、期待が裏切られるような結果になったら、被害者に対してあまりにも不誠実であるうえ、社会運動全体に対するダメージも計り知れません。

 人権や社会問題に取り組む組織にふさわしい説明責任を果たすことが求められています。

■ 社会による検証、ジャーナリストによる考えの共有の欠如

 本件の検証が遅れるなか、まるでこの問題は風化しているかのような状況になっています。

 私が第三者委員会検証でよくないと思うこと、それは、第三者が検証しているから、ということで第三者に丸投げとなり、当事者が思考停止をし、社会が議論をやめてしまうことです。

 集中的な調査が行われ、タイムリーに調査報告書が公表される事件であればそうした「待ち」の時間は少ないかもしれません。

 しかし、今回の場合、検証委員会の調査が長引いている、そうしたなかで、社会、特にDAYS JAPAN を取り巻く人々の思考停止を生んでしまっているとすれば、極めて残念な傾向というほかありません。

 もしかして、自分に身近なところで起きてしまったこの問題に向き合いたくない、このことで責任を問われたくないから、このまま検証が長引き、人々の関心も薄れ、議論に向き合わずに済んだほうがいい、と思っている方もいるのではないでしょうか。

 被害者のお一人が最近、私にこのようなことを話されました。

 

DAYSによく掲載していた人たち、長いお付き合いのある人たちの中にも、何もこの件に触れていない人たちがいる現状があります。そうした人を「なぜ気づけなかったのか」「なぜ声をあげないのか」と糾弾したいのではありません。ただ、思うこと、考えていることを共有してもらうことで、こうした事態をもう一度引き起こさないためのヒントが得られるのではないかと思います。

 この件はこのまま、忘れられていくのかな、と悲しいです。

 戦場ジャーナリストの中にも、表立って発言しないけれども被害者の方々の相談に親身に応じている方々もいます。しかし、沈黙を守っている人もいる。

 この問題に関する議論がもっとジャーナリスト、出版業界、社会セクターでしっかり深められなければ、勇気を出して声をあげた被害者の方々の思いに応えられないし、同じことが将来繰り返されない保証はどこにもないはずです。

 この件では私も厳しく責任を問われた人間の一人です。この件について語れば、社会から再び糾弾されるかもしれません。

 社会の糾弾を恐れて何も言わない人もいるのかもしれません。それでも、かかわりのあった方々やDaysに関係してきた方々は口を閉ざすべきではないし、社会的な議論を深めていくことが必要だと痛感します。(了)。