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もうすぐ参議院選挙。衆参の「ねじれ」がいま必要だと私が思う理由

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

週末は参議院選挙。

メディアは、今度の選挙は一言でいえば「衆参のねじれを解消できるかなどが焦点」だなどとまとめているが、違和感がある。

そもそも争点とは、経済とか外交とか、改憲とか消費税とか、論争の分かれる論点に対してどういう姿勢を各政党がとるか、ということである。そうした政策を問い、そこに焦点をあてて判断をあおぐべきなのに、「ねじれ」が争点というまとめはどうなのか?

それに、「ねじれ」があたかもよくない、喫緊に解消すべき大問題であるかのように真面目くさって議論をしているのは、政権与党に有利な世論誘導ではないかと思ってしまう。

で、最新の世論調査は「ねじれ解消確実」と予想を報じている(まだ投票を決めてない人がいるから情勢不透明だと言いつつ)。

しかし、あえてこの「ねじれ」の是非を問題とするなら、私は今や、積極的に衆参のねじれを支持し、そういう状況を生み出す投票行動が大切だと思う。

衆議院選挙は昨年12月であり、今年参議院選挙を行えば、衆議院が解散しない限り、あと三年は国政選挙はないことになる。

私たちは主権者ではあるけれど、この先三年間、国政に関する「投票」という民意を示す最も基本的な機会が持てない。

もし「ねじれ」がないとすると、この三年間ずっと政権与党が提出した法案は、衆議院でも参議院でも反対されず、すんなり可決されるのだ。ゲームの勝負は決まってしまうわけだ。

もしここで「ねじれ」の解消に手を貸してしまうと、議論が十分に尽くされていない日本の重要問題について、政権党に白紙委任を与える結果になってしまいかねない。

原発再稼働、脱原発、TPP、憲法改正、消費税など、とても大切な重要争点がある。あんまり明確な争点として受け止められず、自民党もあまり声高に言わないが、なし崩し的に、お任せ、ということになってしまう危険性大である。

それに三年って長い。三年の間に政府が、私たちが予測もしなかったような法案や課題も出るだろう、特にありがたくない、増税だの、社会保障の削減だのetc。それも「ねじれ」がなければほぼ白紙委任ということになってしまうだろう。

それでいいのか??  私は怖い。

石破さんが「自民党は暴走しない。信じてください」と演説していたけれど、暴走しないかどうか、政党の心構えに委ねる、信じる、というのでは、あまりに心もとない。暴走に歯止めをかけるチェック・アンド・バランスとして参院には歯止めの役割を果たしてもらいたい。

特に、いま衆議院で改憲支持勢力が3分の2を占めるなか、参議院まで改憲支持勢力が3分の2を占めてしまえば、安倍首相・石破幹事長が実はご執心の憲法改正の発議もできてしまうわけで、よくよく考えたほうがいい。

安倍政権の支持率が高いと言っても、多くの人はTPPや原発再稼働、消費税や憲法改正という論点まで、丸ごと指示しているわけではないだろう。

原発再稼働やTPPの問題などをとりあげて、「一番のねじれは、政府と国民の間にある! 」と野党が断じているのをTVでみたが、それも全面的に正しいとはいえない。実は「ねじれ」は私たち一人ひとりの意識のなかにあるように思う。

私は、国民の生活が第一」と民主党を支持した2009年の有権者の思いも、消費税発言で菅民主党を参議院選挙で敗北させた民意も、原発ゼロをパブコメで多くの国民が選択し、だからこそ民主党政権のとりまとめに怒った有権者の思いも、実は無傷で残っているのではないかと思う。

あれだけの原発事故を受け、事故もまだ収束していないし、再発防止策も明確になったわけでもないのに、原発の再稼働はとんでもない、という思いの人のほうが多いと思う。

ただ一方、一向に良くならない経済に何とかしてほしいという飢餓感のような思いと願いがある。

強く安定した経済への渇望、他に受け皿がないように思えること、だから安倍政権を支持していると答える人も、必ずしも経済以外の政策を支持しているわけではないとみる。

そういう世論状況だからこそ、このまま「ねじれ解消」になるのは心配である。「ねじれ」があれば、必ずしも望んでいない問題が簡単にとおることの歯止め、私たちにとって「ちょっと待った」といえる「保険」になるだろう。

有権者が政治に参画できる機会、それは投票に限られるものではない。

私たち有権者が、数年に一度投票にいくだけの民主主義に甘んじるとすれば、あまりにもったいない。

選挙と選挙の間にも私たちが政治をコントロールする機会があり、有権者の民意が政治を変えうるチャネルがあり、こっちが実はとても大切だと思っている。

ウェブやネットで政治を変える、デモで政治を変える、私たちがよく試みる、キャンペーンやロビー活動、議員への政策働きかけ等で政治を変える、というより積極的な方法はとても大切だ。また、世論調査が動向を決することもある。

ただし、そうした市民側の働きかけが影響力を有するのは、政治にまだ動かしうる「余白」が残されているときであり、

政権与党がどんな法案を出してもそれが余裕で可決できる衆参の力関係なら、あえて市民社会の異論に耳を傾けるインセンティブは政権側にはないであろう。

例えば、先日の「女性手帳」、反対する声が強く政府も撤回したが、ねじれが解消され強気になった政府は、ネット世論の動向を気にして、一段出した提案をひっこめるだろうか。

私たちが投票と投票の間の長い期間の間に、政治に対してコントロールを及ぼせるようにするためには政治を動かしうる余白をつくる必要がある。チェックアンドバランスの機能を参議院に果たしてもらうことが必要だ。

先日の東京都議選は低投票率だったが、諦めて投票に行かないと、選挙後も有権者としてチェック・コントロールを及ぼすのはどんどん難しくなる可能性が高い。いつか「こんなはずじゃ」と後悔しても遅いだろう。

健全な民主主義をこれから三年間担保していくために、あなたが気になる本当の争点について、チェック機能をきちんと担ってくれそうな、政党や候補者を賢く選択してみてはどうでしょうか。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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