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福島県 健康管理調査は一から見直しを

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

福島県健康管理調査の検討委員会をめぐる問題が連日報じられている。

驚くべきことに、昨年5月の検討委発足後、約1年半にわたり秘密会が開かれ、委員が発言内容をすり合わせていたという。毎日新聞、今回は執念の追跡で偉い!

http://mainichi.jp/select/news/20121003k0000m040155000c3.html

福島県も、ようやく、進行表を作成して意見調整をしていたことを認めた。予め調整された台本に基づいて本番の議論を行う、これではまさに「やらせ」と言われても仕方がない。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121005-00000125-mai-soci&1349443255

私自身、検討委員会の議事録を読むたび、あまりによどみなく予定調和的な進行がなされており、「まるで台本があるみたいだ」と思っていたが、そこまでやっていたとは。。

そして、その意見調整された内容は、人々を健康被害から守る方向ではなく、それと逆行する内容である。内部被曝の影響を過小評価する発言、最近明らかになった子どもの甲状腺がんについて、原発事故とは関連がないという発言、放射能の人体影響についての過小評価し、安全性を強調する意見、年間100ミリシーベルト以下の低線量被ばくについては人体影響がないとする共通認識。それが繰り返し、共通認識として議論されているのである。

何を必死でそこまで隠して、「放射能は健康に影響がない」というスタンスを押し通して、健康影響を必死に否定しようとしているのか。不信はいよいよ募る。

この調査は、福島県が「東日本大震災やその後の東京電力福島第一原子力発電所事故により、多くの県民が健康に不安を抱えている状況を踏まえ、長期にわたり県民のみなさまの健康を見守り、将来にわたる健康増進につなぐことを目的とした「県民健康管理調査」を実施」するというもの(県庁ウェブサイト)

当初はみんなが歓迎したはずだ。

しかし、今では福島の人々の悩みを一層深刻にしている大きな一因である。

最初に実施されたことは、全県民を対象に質問票が配らられたこと。

しかし、質問票は事故後の行動だけを尋ねるもので、体調を尋ねる問診票はなく、県民の怒りを買って、回答率は20%台にとどまっていた。

そのやりかたはあくまで「疫学調査」であり、県民は「モルモットにされている」という不信感を持っている。

住民が再三に要望している尿検査、血液検査などは実施されず、内部被ばく検査も含まれていない。

唯一見るべき検査項目と言えば、18歳までの子どもに対する甲状腺検査くらいであるが、

子どもに対する甲状腺検査も3年がかりで終了するという極めて遅い対応である。

そして大人にはまともな検査はないのだ。

今年3月の中間的な公表によれば、それまでに甲状腺検査をした子どもの35パーセント以上に甲状腺の所見(結節やのう胞)が見られたという。チェルノブイリ事故後に多くの子どもが甲状腺疾患、特に甲状腺がんになったことを考えると、とても心配な数字である。

ところが、県は、結節について5.1ミリ以上、のう胞について20.1ミリ以上でない限り安全という基準を独自につくり、それを下回る大きさの所見については二次検査の対象とせず、早くて2年後の次回の検査まで待っていてくれ、というのである。

しかし、子どものがんの進行がはやいことを考えれば、そんなに待たずに早期発見・早期治療が望ましいのは当然である。

親の気持ちからはとても2年間待っていられる心境ではないし、人道的にも問題である。

そのうえ、この調査を実施している福島県立医大の山下俊一副学長らは、甲状腺学会の医師全員に対し通知をおくり、上記方針を説明したうえで、心配した子の親から相談が来ても、「どうか、次回の検査を受けるまでの間に自覚症状等が出現しない限り、追加検査は必要がないことをご理解いただき、十分にご説明していただきたく存じます」と通達している。

このようにして、セカンドオピニオンを封じているのだ。実際、この通達の影響で、セカンドオピニオンを求めて診療を受けようとする人々が各地の医療機関で診療拒否にあっているという。

そして、所見の出た子どもの甲状腺の状態を知りたい、として親たちがエコー画像等の開示を求めても、県は開示を拒絶しているというのである。

これでは、検査を理由に、医療を受ける権利が侵害されているに等しい。

(詳しくは、ヒューマンライツ・ナウの意見を参照ください

http://hrn.or.jp/activity/project/cat11/shinsai-pj/fukushima/post-164/)

また、委員の構成も低線量被ばく問題を重視する委員は含まれていないことから、私たちは委員構成の再検討を求めてきた。

(こちらの報告書の最後の勧告部分 http://hrn.or.jp/activity/project/cat11/shinsai-pj/fukushima/201111/)。

しかし、県は私たちの要請に対し、委員の構成を変えるつもりもないし、年間100ミリシーベルト以下の低線量被ばくが危険だと考える専門家はごく少数である、と回答した。(http://hrn.or.jp/activity/project/cat11/shinsai-pj/fukushima/post-157/)

さらに、県が甲状腺の検査画像すら公開しないことについて、ガイドライン違反ではないか、と厚労省に質問したが、厚労省は私たちに回答を拒絶しており、厚労省として是正するつもりもないようである。

(http://hrn.or.jp/activity/project/cat11/shinsai-pj/fukushima/post-164/)

・・・しかし、ここにきて「やらせ」による隠ぺい体質が改めて明らかになった。

そもそも、検討会の趣旨は、県民調査の適正を独立した専門家が審査するというものであるはずであり、第三者性も独立性もなければ何らのチェック機能を果たせないことは明らかである。

検討会、そして県民調査の体制そのものを抜本的に見直す必要がある。

やらせは誰の発案で誰が関わって実施したのか、全面的に解明し、責任者の責任を明確にすべきだ。

責任を負う者の辞任・解任等の処置も伴うべきである。

ところで、この県民調査は本質を明らかにしていないが、実施過程をみれば前述のとおり、疫学調査として実施されていることは否定できない。

疫学調査であれば、疫学倫理指針に基づき、倫理審査委員会を設置し、公正中立な審査がなされるよう委員を選任し、疫学調査に関係している委員は審査に関与してはならない。

http://www.niph.go.jp/wadai/ekigakurinri/rinrishishin.htm

ところが、健康管理調査の検討委員会は、この倫理審査委員会としての要件を満たしていない。甲状腺検査を委託された福島県立医大の副学長の山下俊一氏(同大学放射線医学県民健康管理センター長)が検討委員会の座長なのである。そして、意見調整を事前にしているということであれば、独立した審査の態をなしていないことは明らかである。

まずは、検討委員会の構成は抜本的に改められ、独立した構成に変えることが急務であろう。

そして、放射線による健康影響は福島県だけの問題ではないことに鑑みれば、国が主体となった調査委員会が設置されるべきである。

また、住民の意見や要望を反映させるメカニズムをつくることも必要である。

そのうえで、県民から懸念が広がっている甲状腺検査について、速やかな改善を行う必要がある。

さらに根本的な話として、「管理調査」を改め、健康被害を防止し早期治療することを目的とし、必要な検査項目を網羅した、住民の権利としての定期的な無料健康診断制度として再出発することが求められている。

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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