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【卓球】インドの変則プレーに「レディースではむしろ普通」 時代は追いついたのか振り出しに戻ったのか?

伊藤条太卓球コラムニスト
『卓球レディース』より提供

25日に閉幕した韓国・釜山での世界卓球選手権で、超人的な強さで日本女子の53年ぶりの金メダルの夢を打ち砕いた中国。

しかし今大会、この中国を日本以外にも土壇場の2-2まで追い詰めた国がある。予選リーグで対戦したインドだ。内容的にもインドが勝ってもおかしくない試合で、インド卓球史上始まって以来の快挙である。

ここまで中国を追い詰めた要因が、彼女ら3選手とも使っていた、打球時にボールが滑る「アンチ」、表面のイボイボが曲がって予想外の回転がかかる「粒高」という、トップ選手では極めて珍しい変則ラバーだった。

代表的な変則ラバー 「アンチ」(左)と「粒高」 筆者撮影
代表的な変則ラバー 「アンチ」(左)と「粒高」 筆者撮影

バック面に「粒高」を貼り、王芸迪を破ったアクラ
バック面に「粒高」を貼り、王芸迪を破ったアクラ写真:ロイター/アフロ

そのため、多くの記事で「インドの作戦が凄い」「ラバーが特殊すぎた」などと話題になったのだが、それらの報道に唯一「むしろ普通」とモノ申したのが、ウェブメディア『卓球レディース』だった。

卓球界で「レディース」と言えば、30歳以上の女性愛好者を指す。大会名に「レディース」とつけばその多くは30歳以上(上は無制限)が参加条件となる。

メディアで報道されることはほとんどないが、実はこのレディースの競技人口は膨大で、一大市場を形成しているのである。

通常、卓球の大会は土日祝日に行われるが、レディースの大会は当たり前のように平日の昼間に行われ、しかも大盛況である。パートタイムや専業主婦の立ち場を利用し、卓球三昧のレディースの方々が目白押しなのだ。中には「夫の食卓に梅干ししか出さないと決めて週に8日練習する主婦」や「練習量だけはプロ並」の主婦もいると聞く。

平日の白昼堂々と行われるレディース大会のプログラム(写真提供:松田沙知さん)
平日の白昼堂々と行われるレディース大会のプログラム(写真提供:松田沙知さん)

レディースの大会の様子 全員が選手なので観客はいない(写真提供:松田沙知さん)
レディースの大会の様子 全員が選手なので観客はいない(写真提供:松田沙知さん)

そうしたレディース層に特化した世界で唯一の卓球情報メディアが『卓球レディース』なのである。当然、レディース卓球について熟知している。

卓球女子的情報メディア『卓球レディース』

西村友紀子・編集長は23日、「世界卓球2024で​時代が​レディースに​追いついたと​実感」と題する記事を発表、その中で、今回のインドの選手たちが使ったラバーは「レディース畑では当たり前」であり、「逆にシェーク裏裏(筆者注、もっとも一般的なスタイル)の人を探す方が難しい」と書く。にわかには信じがたい話だが、よく考えるとあり得る話でもある。

たしかにレディースの方々の多くは、筋力や俊敏性、持久力に優れているわけではないため、単純な力くらべ、速さくらべで勝負するのは得策ではないだろう。

しかも、プロコーチをしている知人によれば、レディースの生徒には「できるだけ動かずに楽に勝てる卓球を教えて下さい」などと、男性ならプライドが邪魔をして決して言えないようなセリフを表情も変えずにのたまう実利的な方々も少なくないと聞く。

また、和気あいあいとみんなで楽しむことを目的としているように見えて、その実、勝ち負けに異常にこだわるのもレディースの特徴だという。

これらを考え合わせれば、彼女らが「貼るだけで勝てるかもしれない」変則ラバーに群がるのは当然の理と言えるかもしれない。そんな、思わぬ事実が露になった今回のインドの活躍であった。

ところで、「貼るだけで勝てるかも」って、卓球ってそんなインチキなスポ―ツなのか?と驚く方もいるかもしれないが、まあ・・・その通りだとしか言いようがない。「時代が​レディースに​追いついた」のか「振り出しに戻った」のかはともかくとして。

卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、ソニー株式会社にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、地域の小中学生の卓球指導をしながら執筆活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。「ロックカフェ新宿ロフト」でのトークライブ配信中。チケットは下記「関連サイト」より。

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