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【卓球】パリ五輪選考 決定前に「3人目は○○」あまりにも異常な発言。こんなことが許されるのか。

伊藤条太卓球コラムニスト
パリ五輪女子シングルス選考レース1位の早田ひな(写真:松尾/アフロスポーツ)

全日本卓球選手権大会(以下、全日本)シングルスの準々決勝が終わり、男女のベスト4が出揃った1月27日(土)の深夜、日本テレビの『Going! Sports&News』というスポーツ・ニュース番組で、耳を疑う発言があった。

パリ五輪についての話題で「早田、平野とともに団体メンバーに入る3人目は誰が有力なのか?」というナレーションに続けて、日本卓球協会の専務理事である宮崎義仁氏が、選手の名前を上げて次のように語ったのだ。

「中国に誰を選んだら勝てるか。〇〇(選手名)さんだな、というふうには思いますけど」(宮崎氏)

2年弱にわたる代表選考レースだったが、今回の全日本はその最終戦となり、放送前日までの試合で、女子シングルスに出場する選手は、早田ひな、平野美宇の2人が確実となった。五輪の規定によってその2人はそのまま団体戦にも出場するが、団体戦は3人で戦うため、残る1人を強化本部が決定することになっている。

パリ五輪女子シングルス選考レース2位の平野美宇
パリ五輪女子シングルス選考レース2位の平野美宇写真:YUTAKA/アフロスポーツ

なぜ3人目を選考レースではなく強化本部が決定するかといえば、団体戦にはダブルスがあるため、そのペアリングの相性を考慮することと、怪我などによって有力選手が選考会で実力を出せなかったり、急成長をした選手を反映できなかったりすることがあるからだ。戦略的に奇抜な選手を抜擢する場合も考えられる。日本チームの勝利を託されている強化本部には、そのための権限と責任が与えられているのである。

当然、その選考は簡単なものではない。レベルが高い近年の日本卓球界では、実力が拮抗している選手が目白押しだ。単純な記録競技ではないだけに、相手によって強弱は変わるし五輪まで数ヶ月の実力の変化も考慮しなければならない。

どの選手も命がけでやってきており、選考によって人生が変わる。「五輪選手になる」か「ならない」かなのだから当然である。その途方もなく重大な選択が強化本部には託されている。そして、完全な選択がない以上、誰を選んだとしても100%、必ず大きな批判に晒される。それでも強化本部は、データを積み上げ、議論を重ね、全日本での各選手の戦いぶりを吟味しつつ、最後には決断しなくてはならない。その発表は2月5日に予定されており、強化本部はそれまで眠れない夜を過ごすことになる。

女子監督の渡辺武弘氏
女子監督の渡辺武弘氏写真:長田洋平/アフロスポーツ

それほどの重大かつ繊細な問題だから、たかが卓球ライターの私ですら、メディアなどに聞かれても予想すら絶対に言わないのだ。言えるわけがない。

それなのに、あろうことか日本卓球協会の実務の最高責任者である専務理事(強化本部はその配下にある)が、まだ全日本さえ終わっていないタイミングで、先のような発言をテレビでしてしまうなど、これが暴挙でなくて何だろうか。微妙な判断が必要なだけに、強化本部の議論にも影響を与えるかもしれないし、結果的に名前を出された選手が外されたら、ぬか喜びをさせられたその選手があまりにも不憫である。中小企業の会社の人事でさえ、発表まで情報が秘匿され、万が一、漏れたらその人事が取り消されたりすることすらあるではないか。こんなことが許されるわけはない。

以上は、宮崎氏が放送されたとおりの発言をした前提での批判だが、考慮しなくてはならないのは、テレビ局の恣意的な編集の可能性である。

放送をよく見ると「中国に誰を選んだら勝てるか」「〇〇(選手名)さんだな、というふうには思いますけど」の2つの発言は、映像が連続ではなくカットでつながれている。もしもこの2つの発言の間に「今、もっとも成長が著しい選手は誰だと思いますか?」などという質問があったとしたら、話はまったく違ってくる。その場合はテレビ局の悪質な捏造報道であり、宮崎氏はとんだ濡れ衣を着せられたことになる。

いずれが実態なのかわからないが、結果として、あまりにも配慮に欠ける異常な放送になっていたことは事実である。宮崎氏と日本テレビのいずれに原因があるにしても、日本卓球協会として断固とした処置が必要である。二度とこのようなことを許してはならない。

卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、ソニー株式会社にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、地域の小中学生の卓球指導をしながら執筆活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。「ロックカフェ新宿ロフト」でのトークライブ配信中。チケットは下記「関連サイト」より。

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