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【卓球】パリ五輪狙う美宇、美誠ともに辛勝の初戦

伊藤条太卓球コラムニスト
平野美宇(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

26日、全日本卓球選手権(以下、全日本)では男女シングルスのスーパーシード選手の初戦となる4回戦が行われた。

登場したのはパリ五輪のシングルス代表枠を34.5ポイントの僅差で争う平野美宇と伊藤美誠。お互いに反対のブロックなので直接対戦は決勝までない組み合わせ。伊藤が平野より2回多く勝てば逆転で伊藤がシングルス枠を獲得し、それ以外では平野が逃げ切ることになる。

図らずも二人の試合は隣どうしのコート。その気になればお互いに相手の試合の様子がスコアまでわかる距離だ。なんという緊張だろう。

伊藤美誠
伊藤美誠写真:YUTAKA/アフロスポーツ

平野の相手は今大会ジュニア準優勝の高校生、面手凛。両ハンドの剛球が武器だ。特にバックハンドのスピードは平野を上回り、バック対バックのラリーで優位に立った。といって平野が面手のフォアを狙えばリーチの長さを生かしてフォアクロスに抜き返す。平野の回転量の多いドライブの成功確率が面手の速球の成功率をわずかに上回る紙一重の差で平野の勝利となった。

面手凛
面手凛写真:長田洋平/アフロスポーツ

伊藤の相手は伊藤を徹底的に研究しつくしたと思われる野村。リーチの短い伊藤の両サイドを非常なまでに狙うプレーで先制した。相手の両サイドを狙うことには自分も相手に動かされるリスクがある。相手が打つ位置が変わるので、飛んで来るボールの範囲が変わるからだ。野村は打つと同時に立ち位置を変えてそのリスクに対応した。フォアを突かれた伊藤がときにはそれを読んで待ち伏せし、ときには捨て身で飛びつきざまにフォアクロスに打ち返すボールを野村は待ち伏せして仕留めた。なんというレベルの高さだろう。10年前の全日本なら決勝のプレーだ。それが4回戦、ベスト32決定で行われている。

野村萌
野村萌写真:長田洋平/アフロスポーツ

両試合とも、最終ゲームにもつれこみ、パリ五輪候補の二人があわや初戦敗退かと思われたが、最終ゲームはいずれも最後は点差を離しての勝利となった。東京五輪で極限状態を味わった二人の経験の差だったといえよう。

テレビカメラに囲まれ、観客も五輪候補選手の応援が圧倒的な中、ぎりぎりまで相手を追い詰めた面手と野村にも拍手を送りたい。二人の全日本は終わった。

それぞれの選手が親やチームメイト、そして指導者の夢を一身に背負って舞台に立つ。これが全日本だ。

卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、ソニー株式会社にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、地域の小中学生の卓球指導をしながら執筆活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。「ロックカフェ新宿ロフト」でのトークライブ配信中。チケットは下記「関連サイト」より。

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