Yahoo!ニュース

「全日本卓球2024」組み合わせ抽選がパリ五輪代表選考に与える重大すぎる影響とは

伊藤条太卓球コラムニスト
パリ五輪選考ポイント2位の平野美宇(写真:アフロ)

来年1月に迫った「2024年全日本卓球選手権大会」(以下、全日本)の組み合わせが近日中に発表される。

全日本の組み合わせが今回ほど重要な意味を持つのは、日本卓球史の中でも希なことであろう。2年間にわたるパリ五輪選考レースの結果を大きく左右するからである。

これまでも全日本の優勝者を世界選手権の代表にすることは普通に行われてきたが、今回ほど組み合わせが重要な意味を持ったことはない。優勝者は誰よりも強いのだから、組み合わせによらず優勝するはずだという建前があるのに対して、今回の全日本は「何回戦まで勝ち進むか」がパリ五輪選考結果を直接的に左右し、それは組み合わせに大きく左右されるからだ。

2年前の9月11日、日本卓球協会は衝撃的な発表を行った。国内でトーナメント戦を繰り返して戦績をポイント化し、その合計点でパリ五輪のシングルス代表2人を決めるというのだ。世界選手権など一部の国際大会やTリーグもポイント対象にするとはいえ、あくまでもメインは国内トーナメント戦という前代未聞の選考方法である。

それまでの五輪や世界選手権の選考には主に世界ランキングが使われていたが、同年から導入された世界ランキングの基となるWTTは、選手の出場機会が公平性に欠けるというのがその理由だった。

トーナメント戦では、優勝者以外は結果が組み合わせに大きく左右され、実力が順位に反映され難いが、何度も繰り返せば正しく反映されるようになるというのが強化本部の目論見である。

こうして導入されたパリ五輪選考システムは、「選考会」「Tリーグ個人戦」そして「全日本」など2年間にわたる10大会がポイント対象となり、その最後の大会が1月22日から始まる全日本なのである。

ここまでの選考レースは、男子は全日本を待つまでもなく、張本智和と戸上隼輔が3位以下に圧倒的差をつけてシングルス代表2枠を確実にしているが、問題は女子である。1位の早田ひなはシングルス代表が確定しているが、2位の平野美宇と3位の伊藤美誠がポイント差34.5という僅差で2枠目を争っているのである。

ポイント3位の伊藤美誠
ポイント3位の伊藤美誠写真:西村尚己/アフロスポーツ

12月15日から名古屋で開催される「WTT 女子ファイナルズ2023」で伊藤が中国選手を破って「中国ポイント」を上積みしない場合(平野は世界ランキングの関係で不出場)、2人はこのポイント差のまま全日本を迎えることとなる。

そしてこの差は、2人がそれぞれ何回戦まで勝ち進むかで逆転し得る差なのである。平野と伊藤が直接対戦して雌雄を決するのなら誰もが納得するが、どちらか一方が圧倒的強者の早田や、先月の選考会でその早田を破って優勝して勢いづいている怖い物なしの15歳、張本美和と早めに当たったら、不利になることは否めない。もしもそこで残念ながら敗戦ということになれば、釈然としない結末となるだろう。

それでは、早い回に平野と伊藤が直接対戦するように組み合わせを操作してしまえばよいかと言えば、実は全日本の組み合わせは「組み合わせ委員会」がその規定に従って決めるのであり、強化本部は関与できない(厳密には強化本部長の馬場美香氏が組み合わせ委員でもあるので「関与」はできるが、決め方が決まっているのでコントロールはできない)。

もともと全日本は、強化とは関係なく昭和11年から大東亜戦争期間を除いて連綿と続いてきた国内最高権威の大会であり、強化本部はそれを選考に「利用」しているのにすぎないからだ。

「組み合わせ委員会規定」によれば、全日本の16シードとなる選手は、前年度全日本でベスト16入りした選手となり、8シードとなる選手は同様に前年度全日本でベスト8入りした選手となる。早田、平野、伊藤、張本のいずれも前年度全日本でベスト16入りしているので、これらの選手がベスト16決定戦以前に対戦することはない。

しかし、早田と平野が前年度全日本でベスト8入りしている一方、伊藤と張本はベスト8入りしていないため、早田vs伊藤、平野vs伊藤、平野vs張本という対戦がベスト8決定戦で起こり得る。これらは、組み合わせ委員が非公開で行う「組み合わせ会議」で厳正なる抽選によって決定される。従って、それぞれの対戦が1/8の確率で起こり得る。

強化本部の目論見通り、トーナメント戦を繰り返したことによって妥当な順位に落ち着いてきたようには見える。

しかし、最後の最後まで競り合いとなった場合には、その決着が最後の全日本の組み合わせ一発の偶然性に左右されてしまうこともまた、この選考方法が発表されたときから誰もが懸念していたことである。それが現実となっている。これが強化本部がやりたかったことなのだろうか。

卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、ソニー株式会社にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、地域の小中学生の卓球指導をしながら執筆活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。「ロックカフェ新宿ロフト」でのトークライブ配信中。チケットは下記「関連サイト」より。

伊藤条太の最近の記事