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【卓球】パリ五輪選考会では何が行われているのか

伊藤条太卓球コラムニスト
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

7日に終わった卓球の第4回パリ五輪代表選考会は、これまでにも増して波乱の多い大会となった。その原因として、上位選手陣が国際大会に出ずっぱりで疲労の色が濃いこと、もともと層が厚く中堅にも有望な選手が多いことの他に、組み合わせの要素があった。トーナメント戦なのだから組み合わせは極めて重要である(そもそもトーナメント戦だけで選手を選考すること自体が常軌を逸しているわけだが、ここではおいておく)。

トーナメント戦では、強い選手同士を離して配置するのが基本である(種を蒔くように離すことからシードと言う)。なおかつ、各ブロックの選手の強さの平均が同程度になるように配置する。たとえば1位から8位の選手は下のように配置する。

筆者作成
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このようにすると、1位から3位までは比較的楽にベスト4に入れるが、4位の選手は僅差の5位の選手に勝たなければベスト4に入れない。しかしこれは理不尽なことではない。ベスト4を決めるのに、4位と5位が争うことは至極当然のことである。もしも4位が8位に勝って楽々ベスト4に入ったり、5位が1位に負けてベスト4を逃したらそちらの方が理不尽だろう。こうした考えに基づいてシードを組むのがトーナメントの基本である。

下の図は、今回の選考会の組み合わせ(2回戦以降)に、大会前の選考ポイント順位を添えたものである(引退した石川佳純は除外して以下を繰り上げ)。選考ポイント順位は、これで五輪代表を決めようというくらいだから、選手の実力として最も信頼性が高いと強化本部が考えているはずの指標である。当然、それを基準にシードを決めているかと思いきや、1位と4位と5位が同じブロックに入っているではないか。結果、4位の伊藤が5位の長崎に破れ、ベスト8にすら入れなかった。1位の早田にしてみても、ベスト4決定でこんなに上位の選手とやらされたのではたまったものではないだろう。

筆者作成
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それでは、最新のポイント対象大会である1月の全日本選手権の順位でシードを決めたのだろうか。全日本選手権の順位を添えたのが下の図である。

筆者作成
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1位と3位が2回戦で激突なのだから笑うしかない。これだから優勝した早田ひなはインタビューで「現実を受け入れるのに時間がかかった」と語ったのだ。そして実際に早田は横井咲桜に8回もマッチポイントを握られ、フルゲーム17-15という死闘の末に勝ったのである。これほど恐ろしい2回戦があろうか(そして明らかにこの大会ナンバー2だった横井は、ベスト16の20ポイントしか得られないというこの選考会の理不尽さよ)。

選考ポイント順でも最新の大会の結果でもないとしたら、一体どうやってシードは決められたのか。

昨年11月に行った第3回選考会の順位で決められたのだ。「選考会のシードは直前の選考会の結果だけを使う」という規則に従っているからだ。全日本選手権も選考ポイント対象大会なのに「選考会」ではないため参考にしないのだ。

その第3回選考会の順位を添えたのが下の図である。

筆者作成
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たしかに1位から8位までの選手がきっちりシードされてはいる。しかし、詳細を見ると、ここでもシードの基本を外していることがわかる。本来なら1位は8位と当たるべきなのに5位と当たっているし、7位と当たるべき2位が6位と同じブロックになっている。なぜこうなっているかと言えば、5位から8位の4人の配置をくじ引きで決めたからだ(抽選会の様子が動画で公開されている)。トーナメント全体で前回大会で負けた相手と決勝まで当たらないよう工夫しているため(興行としては見事な工夫である)、前回早田に負けた張本美和は左側2ヶ所でくじ引きし、前回平野美宇に負けた伊藤美誠は右側2ヶ所でくじ引きをしたのである。シードの基本通りに配置すると、決勝前に前回と同カードが発生する可能性があるため、それを避けることを優先してシードの基本を崩したのだ。結果、前回1位の平野は理不尽にも5位から8位の中で最強である5位の張本と当たり、そして敗れた。

つまり今回の選考会は、選考ポイント順位でもなければ最新の大会結果でもない、半年も前の選考会の結果を根拠にし、そのうえ5位から8位はくじ引きでシードが決められたのである。

これが、選手たちが満身創痍で挑んでいるパリ五輪選考会で行われていることである。

私は、選考会をすること自体に反対で、世界ランキングと国際大会の対戦成績から総合判断して早めに監督が決めて強化に時間を割くべきだと思っているが、どうしても選考会をやりたいのなら協会推薦の数人での総当たり戦にすべきだという考えである。それも無理で、どうしてもトーナメント戦を繰り返したいのなら、少なくともベスト8までは選考ポイント順にシードの基本通りに配置すべきという考えである。選手選考の目的は、最強の選手を選ぶことなのだから。

卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、ソニー株式会社にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、地域の小中学生の卓球指導をしながら執筆活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。「ロックカフェ新宿ロフト」でのトークライブ配信中。チケットは下記「関連サイト」より。

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