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【卓球】戸上隼輔の「みなさん!元気ですかーっ!」で振り返る印象に残る歴代優勝インタビュー

伊藤条太卓球コラムニスト
戸上隼輔(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

2023年全日本卓球選手権大会(以下、全日本)最終日、男子シングルスで優勝した戸上隼輔(明治大)の優勝インタビューは異例のものだった。前半こそ普通に喜びを語ったが、途中で「根拠のない自信を持って戦いました」と答えてインタビュアーを戸惑わせたあたりから、何かやらかしたい感じが滲み出ていたが、最後に全国の卓球ファンに向けたメッセージを問われると「みなさん!元気ですかー!」と叫んで拳を突き上げた。昨年亡くなったアントニオ猪木の定番フレーズだった。

さすがに「ダーッ!」まではやらなかったが「僕、プロレスが大好きで、どうしても優勝してこのフレーズを言いたかったので・・・すいません」と照れ臭そうに笑った。

過去の全日本でも印象的な優勝インタビューはあった。

名言が多かった選手と言えば1980年代に活躍した斎藤清だろう。8回も優勝しているので、回数そのものが多い。不調に打ち勝って優勝した1984年度は、溢れる涙を拭いながら「僕だから勝てたんだと思います」と語り、最後となった1992年度は、やはり涙で声を詰まらせながら「8回も優勝したのは僕しかいませんからね」「僕の試合を見ればわかるように卓球に打ち込む姿勢が大事なんです」と語って、日本卓球を背負った男の強烈な自負を表現した。

斎藤清
斎藤清写真:山田真市/アフロ

さらに強烈だったのが、2004年度優勝の吉田海偉だった。吉田は、中国名・宋海偉として河北省に生まれ、高校1年から青森山田高に留学した。インターハイ3連覇、全日本学生優勝を含め、破格の強さを示していたが、日本国籍を取得していなかったため全日本には出られなかった。23歳となる2004年に満を持して出場した全日本でぶっち切りで優勝し、その優勝インタビューで「優勝、当たり前です」と語って卓球人の心を鷲掴みにした。インタビュアーが趣味を尋ねると「趣味はありません。卓球しか考えてないです」と、シンプルで切れ味の鋭いコメントを残した。「高校の時から全日本に出たかった。8年間も我慢した」(「卓球王国」2005年4月号)と語った男は、その後日本代表として世界で活躍し、今日の日本男子の礎を築いた。41歳となった今なお現役という鉄人である。

吉田海偉
吉田海偉写真:築田純/アフロスポーツ

近年で印象に残ったのは2019年の水谷隼だろう。前年の決勝で14歳の張本智和に敗れ、そこから王座に返り咲いてV10を遂げた優勝だったが、その優勝インタビューで「今年で最後の全日本選手権にしたい」「来年は出場しないんじゃないかなと思います」と語って会場をどよめかせた。そして実際にそれが最後の全日本となった。自己プロデュース能力に長けた水谷らしい演出だったと言える。

水谷隼
水谷隼写真:西村尚己/アフロスポーツ

こうした中にあって、今回の戸上は、日本卓球史において異質のくだけた優勝インタビューである。よりによってそれが「人間止めますか、卓球止めますか」的な爆裂卓球の戸上の口から発せられるというのが面白い。

ユニークなチャンピオンの更なる活躍を期待したい。

卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、ソニー株式会社にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、地域の小中学生の卓球指導をしながら執筆活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。「ロックカフェ新宿ロフト」でのトークライブ配信中。チケットは下記「関連サイト」より。

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