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業界絞りという就活謎ルール~先輩就活生の4割が後悔しているのに

石渡嶺司大学ジャーナリスト
業界研究本の2022年版(著者作成)。業界絞り、就活生はどうする?

◆時期不問の「業界絞り」という謎ルール

大学1・2年生「まだ、就活とか先なので業界は絞れないのですが」

大学3年生夏「インターンシップをこれから受けていこうと思います。ただ、業界が絞れなくて」

大学3年生秋「これから就活を進めるのですが、どうすれば業界を絞れるのでしょうか?」

大学3年生冬「周囲は就活をどんどん進めているのに、自分だけまだ業界を絞れず(以下略)」

大学4年生春「志望業界が全滅したので他の業界を受けるのですがどうすれば(以下略)」

就活には多くの謎ルールや落とし穴が存在します。

その中でも「業界を絞らないとならない」くらい、学年・時期を問わない謎ルールは存在しません。

実際に、私は毎年、上記のように、学年・時期を問わず「業界絞り」についての質問を受けます。

直接質問を受けないにしても、就活生のものと思しきSNSを観察していると、「業界をまだ絞れていない」との書き込みをよく見かけます。

もちろん、その逆に「業界を絞ったことで内定が取れた」との書き込みも。

では、就活生は「業界絞り」という謎ルールにどう向き合えばいいのでしょうか?

◆実際は4割の就活生が後悔

まずは、結論から。

総合職(一般事務職も含む)を目指す就活生であれば、業界は下手に絞らない方が就活で間違いなく得をします。

特に、文系学部、それから、理工系など専門学部から専門分野以外の業界を目指す場合は、業界を広く見ていく方がいいでしょう。

なぜか、と言えば、過去の就活生は、「無理に業界を絞る」→「就活中盤に業界を広げる」というパターンが確立しているからです。

これを示すのが、マイナビ2022 年卒大学生活動実態調査 (5 月)です。同調査によりますと、「未内定なので『業界』の幅を広げる」と回答した就活生は、3月時点で36.4%、4月時点で41.1%(いずれも複数回答)。

何のことはありません、約4割の就活生が「業界絞り」という謎ルールに振り回されて、結局は業界の幅を広げているのです。

だったら、最初から広く見ておけばいいのに、と思わずにはいられません。

そもそも、中堅規模以上の総合大学で内定学生を5人でも10人でも捕まえてみれば(面倒だ、というのであれば内定者による就活体験記をどうぞ)、答えは明らかです。

「業界を絞ったことで内定が出た」という内定学生は少数。多くは「複数業界を志望して複数業界の企業から内定を貰った」と答えているはずです。

◆業界絞ると優良企業が軒並み対象外

岩波書店の『広辞苑 第七版』には「業界」について次のように書かれています。

同じ産業にたずさわる人々の社会。特に、マスコミ・広告などに関係する人々の社会。

後段の、「マスコミ・広告など~」がどこから来たのかは不明。ああ、でも、その昔、「ギョーカイ君が行く!」なんてテレビドラマがあったくらいだし…(1987年フジテレビ/主演・とんねるず)。

前段の「同じ産業にたずさわる人々の社会」、これはよく分かります。

だから、食品業界であれば、食品関連。マスコミ業界であればマスコミ関連だ、と。

では、複数のビジネスを展開している企業はどうでしょうか?

たとえば、「お値段以上」のニトリ。就活生や一般社会人のイメージからすれば、家具ないしホームセンターでしょう。

確かに1972年創業時点では「似鳥家具卸センター株式会社」であり、家具販売のみでした。しかし、2022年現在はどうでしょうか。北海道から沖縄まで、そして海外店舗も合わせると801店舗(2022年2月現在/島忠事業56店舗を含む)。

扱う品目は家具だけでなく、マットレスなどの寝具、Wi-Fiエアコンなどの電機製品まで多岐にわたります。

「住まいの豊かさ」を実現していくためには、誰もが気軽に買える価格設定と、高い品質・機能を両立させることが必要です。そこで、ニトリは従来の「製造小売業」と呼ばれる事業モデルに、物流機能をプラス。商品の企画や原材料の調達から、製造・物流・販売に至るまでの一連の過程を、中間コストを極力削減しながらグループ全体でプロデュースする新たなビジネスモデル「製造物流小売業」を確立しています。

※ニトリホールディングスHP「ビジネスモデル」より

つまり、製造メーカーと販売・小売業、両方を兼ねているのがニトリなのです。

しかも、これだけ全国展開している企業である以上、物流や広告、ITなどの部門も、一企業の枠を大きく超えている、と言えるでしょう。

ニトリだけではありません。

メーカー・商社(小売)を兼ねている企業は、他にも多くあります。

それから、複数のビジネスを展開している企業は、オムロン(ヘルスケア、工業用制御機器など)、鉄道会社各社(鉄道事業の他に、小売・不動産・観光など)、三谷産業(情報、樹脂、空調、エネルギーなど)など、こちらも多数あります。

就職人気ランキングでは上位の常連企業である、東京海上日動。狭義の業界分けでは、金融ないし保険となります。しかし、こちらも、営業担当が総合商社なのか、メーカーなのか、あるいはアクチュアリー担当なのか、代理店経営支援担当なのか…、部署によって仕事内容は相当変わります。

◆謎ルールはどこから?~背景には4説

それでは、「業界絞り」という謎ルールはどこから来て、いまだに就活生を振り回しているのでしょうか。

私は「就活本~年度版商法と業界研究本」「志望動機重視」「軸との勘違い」「夢教育の悪影響」、この4点が「業界を絞らないと内定が取れない」という謎ルールにつながっている、と見ています。

どれか1点だけ、というよりは、この4点が複雑に絡み合っている、と言えましょう。

◆謎ルールの起源・その1~年度版商法と業界研究本

私は普段から就活本をチェックしています。

現在、大型書店で入手できる就活マニュアル本は20冊前後(エントリーシートや面接、SPIなどに特化した本は除く)。

このうち、「業界絞り」に否定的な内容の本は『内定メンタル』(光城悠人、すばる舎、2021年)、『就活事変!』(新田龍、ガイドワークス、2021年)の2冊でした。

「業界絞り」を否定する2冊。他の部分も参考になる(著者作成)
「業界絞り」を否定する2冊。他の部分も参考になる(著者作成)

新田氏は『就活事変!』の中で、ソニーと日立製作所を比較したうえで次のようにまとめています。

両社とも同じ「大手メーカー」ながら、内情はこのように大きく異なる。単に「メーカー」というだけでよく調べないまま応募し、幸いにも内定を得たとしても、社風や社員のタイプがあなたに合っていなければ、入社後「こんなはずじゃなかった!」と悔いることになりかねない。まずは「業界」よりも個々の「会社」単位で見極めるべきなのだ。

光城氏は『内定メンタル』の中で項目として「『業界を絞る』という無意味」と断言。

小見出しでは「大学名で恋人探すタイプ?」とまで言い切っています。

さらに「『業界』は広げたほうがおもしろい」という項目の中では次のように説明しています。

「先生に影響を受けたから教員か塾講師に」「人を喜ばせたいからエンタメ・企画に」「グローバルな影響力で総合商社」って、ちょっと待ってほしいんです。

そこから、あと一歩か二歩、進めてみよう。

「先生・教員」の場合、それがもし「人の人生に影響を与える」のであれば、人材だって金融だって、マスコミだって飲食だってコンサルだってできること。

(中略)

そういう自分の興味や働き方、身につけたいことを考えたときに「業界」なんかで絞るのは、あまりに選択肢が減り過ぎちゃう。

そんなカテゴライズに大して意味はありません。

この2冊は2021年刊行で年度版ではありません。

一方、毎年、刊行している就活マニュアル本は「業界絞り」に肯定的です。

「サービス業を志望しています」では、通用しません。採用担当者はもっと絞り込んだ志望内容を求めているからです。例えばサービスの中には、「不動産」「ガス・エネルギー」「観光・旅行」…と更に細かい仕事グループが存在しています。この細かいグループ単位で理解を深め、志望することが大切だということをしっかりと認識してください。

※『マイナビ2023 内定獲得のメソッド 就職活動がまるごと分かる本』(岡茂信、マイナビ)「業種研究で内定にぐっと近付こう」(88~90P)より

志望業界を決める際は、まずピックアップする業界を3つまで絞ってください。受ける業界が多すぎると、業界の研究がしっかりできず、志望動機をきちんと書くことができないからです。

※『効率よく「内定」獲得 就活の教科書 これさえあれば。 2024年度版』(竹内健登、TAC出版)「志望業界・職種を絞ろう」(70~71P)

就活は業界の全体像を知ることから始まります。まずは、社会にどんな業界が存在するかを把握しましょう。

(中略)

業界・企業研究の中で自分のキャリアビジョンや価値観が見えてくると、それらが就活の軸になっていきます。自分の就活の軸と業界・企業の特性をかけ算していくことで、客観的で納得感のある、筋道の通った志望動機が作成できます。

※『超人気企業・人事部出身者が教える240の内定法則 トップ就活 最強の教科書』(ユースフル、小学館)「業界の構造や特性を把握して就活の時期やキャリアビジョンに合う企業を絞り込もう」(28~31P)より

こうした就活マニュアル本の中には、年度版として刊行されるものが多くあります。

就活生からすれば、最新情報が欲しいので最新版を買い求めるのは当然の心境でしょう。ただ、就活マニュアル本の年度版は、「年度版商法」と言っていいほど、内容が変わっていません。

名指ししませんが、古いものだと、10年前、20年前と内容が同じ、というものも。

もちろん、就活のマニュアルが変わっていなければ、今も昔も同じ内容を出してもいいでしょう。が、就活取材を20年続けている筆者からすれば、「ちょっと、それ、古くない?」という内容も多々あります。「業界絞り」がその典型です。これを推奨している就活マニュアル本は、その変化をきちんと把握しないまま、古い内容をそのまま出している可能性が高い、と言わざるを得ません。

◆業界研究本の限界が誤解生む

就活本では年度版商法ともう1点、業界研究本も挙げられます。

具体的には、業界を見開きでまとめており、2022年現在は『会社四季報 業界地図』(東洋経済新報社)と『日経業界地図』(日本経済新聞出版)が2トップ。

この2冊は毎年8月下旬に年度版が刊行されます。

他に、『改訂新版 ひとめでわかる 産業図鑑業界地図』(イノウ、技術評論社、2021年)、『北海道の業界地図 2022~23』(北海道新聞社・編、北海道新聞社)、『まるわかり関西ビジネス 注目企業の未来像×業界地図』(日本経済新聞社・編、日本経済新聞出版)など、業界や地域に限定したものもあります。

こうした業界研究本が刊行されるようになったのは2000年代半ばの就職氷河期でした。

この業界研究本も大半が年度版として刊行されています。ただし、就活マニュアル本と違い、最新の企業・業界データが更新され、ビジネスが拡大したテーマ・業界は毎年のように追加されています。年度だけ変えて中身はほぼ同じとなる就活マニュアル本のような年度版商法とは天と地ほどの差がある、と言えるでしょう。

ただ、この業界研究本が「業界絞り」という謎ルールを助長していることは否定できません。いずれの業界研究本とも「業界を絞った方がいい」とは推奨していません。

各業界の現状や主要企業を丁寧にまとめています。

では、何が問題か、と言えば、その構成にあります。基本的には、見開き2ページ(小さな業界であれば1ページ)で完結するのが業界研究本の主流です。

そのため、盛り込む企業には限度があります。

例えば、『会社四季報 業界地図2022』には、食品関連は「加工食品」「食材」「飲料・乳業」「酒類」「農業」「スマート農業」「漁業・水産」「食肉」に分かれています。

当然ながら、大企業のみで中堅以下の企業は掲載されていません(できない、というべきでしょうけど)。

それから、食品関連で言えば、原料も食品業界ですし、包装・パックも当てはまるでしょう。あるいは、食品製造の機械も食品業界に入るはず。

原料だと、林原、高砂香料工業、長谷川香料など。

包装・パックなら、エフピコ、東洋製罐ホールディングス、など。

製造機械なら、イシダ、鈴茂器工など。

いずれも、ニッチ分野をがっちりと抑えた優良企業です。が、こうした優良企業は『就職四季報 業界地図』では掲載されていません(『日経業界地図』では、東洋製罐ホールディングス、高砂香料工業、長谷川香料の記載あり)。

もちろん、こうした企業を全て掲載すると、業界研究本は収拾がつかなくなる、という出版社側の都合があります。私も出版業界の片隅にいる人間なのでそうした事情は分かります。

とは言え、就活生からすれば、業界研究本を読んで、業界を狭く考えてしまう、それが「業界絞り」という謎ルールをさらに助長していることは否定できません。

◆謎ルールの起源・その2~志望動機重視

2点目は志望動機重視についてです。

前記・1点目で「業界絞り」を推奨している就活マニュアル本はいずれも志望動機のため、としています。

これは、ある時期まで、志望動機が就活で重視されていたことをよく示しています。

では、現在は、と言えば、志望動機の重要度は一時期ほど下がっています。

細かい話は、2021年5月31日公開「志望動機依存症が企業を殺す~37.2%が正社員不足となる理由」にまとめました。

ざっくりまとめますと、長引く売り手市場(コロナ禍以降も大半の企業で継続)で就活のトレンドが大きく変化しました。

つまり、志望度は、就活生側が最初から上げていくのではなく、採用側が上げていき、最終面接で確認する、そうした企業が大規模~中堅規模の企業に広がっています。

その具体例としては、エントリーシートの段階で志望動機を外す企業、あるいは、志望動機を書かせるにしても、自己PRやガクチカ(学生時代に力を入れたこと、の略称)よりも文字数が少ない、などの企業が増えています。

私が取材していると、志望動機が重視されるのは、大企業だと最終面接(担当する社長・役員からすれば志望度の高い学生に来てほしい)、あるいは、中小企業(特に従業員数が300人未満、または、社長も採用担当者も古い就活の価値観しか知らない)が中心です。

ところが、就活マニュアル本の年度版商法やネット(こちらも古い情報が上書き保存されているだけ、ということが多々あります)で志望動機こそ重要、だから業界を絞るべき、という古いマニュアルが脈々と続いている、とも言えるのです。

◆謎ルールの起源・その3~「就活の軸」との勘違い

3点目は、「就活の軸」との勘違いです。

多くの大学ではキャリアセンター・就職課主催のガイダンスで「就活は軸を持った方がいい」とアドバイスをします。

「適当に大企業だけ選んでいく学生がいるので、それに歯止めをかけるためにも、軸は考えてもらう」

ある大学キャリアセンター職員は、その主旨について、こう説明しました。

私もそこは同感です。

ただ、学生に話を聞くとどうもそうではないようです。

「え?軸を持つって、要するに、業界を絞る、ということですよね?」

私が就活生から「業界絞り」について質問されるたびにこのやり取りを何度したことか(遠い目)。

就活の軸とは、自分なりの価値観であり、業界ではありません。

そうした話を、大学の就職ガイダンスでも出ているはずなのですが、なぜか、就活生は勘違いしてしまうようです。

◆謎ルールの起源・その4~夢教育の悪影響

4点目は小中高と大学で展開されるキャリア教育です。

2000年代以降、「夢を実現しよう、そのための進路選択をしよう」という「夢教育」が小中高のキャリア教育で展開されるようになりました。大学でも同様です。

この「夢教育」、賛否両論あり、しかも、生徒・学生の適性や能力、志向などにも大きく左右されます。

本稿はこの「夢教育」検証が主テーマではないので、これ以上は措くとします。

ただ、現代の大学生が「夢教育」の影響を小中高(または大学)のいずれかで受けており、そのために「志望業界を絞らなくては」と思い込んでいることも、謎ルールを助長している、と言えます。

◆「業界絞り」で成功した就活生も存在

ここまで、「業界絞り」という謎ルールの起因について4点、ご紹介しました。

では、就活生にとって「業界を絞らない=内定を得やすい」となるのでしょうか。

実は、全員に当てはまるか、と言えばそうとも言えません。

その理由をご説明する前に、次の3例・6人について、それぞれご紹介しましょう。

●公務員志望

A君:大学1年生から公務員を志望し、大学生協の公務員講座を受講。自治体のことを深く知るために自治体主催のインターンシップに参加、新聞でも地方面で自治体関連の情報を随時チェック。

→志望する自治体事務職に内定。

B君:進路未定で大学3年秋になり、親からの強い勧めで公務員志望に。ただ、民間企業も諦めきれず、結果、公務員試験対策はほぼ手つかず。

→公務員試験は全滅。

●広告・マーケティング志望

Cさん:大学1年次に広告・マーケティングに興味を持つ。広告・マーケティング関連の授業を受講し、単位互換制度で他大学のものも受講。言葉の使い方次第で反応が変わることに気づき、大学2年次から新聞購読も開始。広告・マーケティング出身の新書を読み漁り、著者にはひたすらメール。半数とは対面ないしzoomなどでやり取り。

→著者の1人から紹介を受けた広告会社に内定。

D君:大学1年次に広告・マーケティングに興味を持ち、3年秋に関連業界・職種に絞る。マーケティング職のインターンシップに参加も、コピー取りとweb記事を1本、練習で書いただけで3か月過ぎた。大学3年冬から広告・マーケティングに絞って選考に参加するも20社、選考落ち。

→広告・マーケティング以外に方向転換。

●テレビ業界志望

Eさん:華やかさに憧れてテレビ業界を志望。アナウンサースクールには大学1年次から通うも、それ以上は特にせず。新聞も読まなかったため、模擬面接で時事問題を問われたところ、全く回答できず、ファシリテーターにドン引きされた。

→テレビ業界以外に方向転換。

Fさん:中学2年にはアナウンサーを志望。地方から東京への進学を反対されるも、受験勉強を続けて説得、東京の難関私大に入学。大学ではアナウンサースクール以外に、アルバイトも複数経験。バスガイドも経験し「同じ説明でも、相手の年齢などで反応が全然違う」ことに気づく。

→大手テレビ局に内定、昼バラエティ番組のアシスタントに抜擢

A~Eさんの5人は、私がこれまでに接したことのある就活生です(場合によっては複数人で1人のエピソードを構成)。

Fさんは、日本テレビアナウンサー・滝菜月さんのことであり、読売新聞記事(2021年10月17日朝刊「2022進学特集 準備にベスト尽くしてこそ後悔ない結果に 日本テレビアナウンサー 滝菜月さん」より)を参考に構成しました。

公務員志望のA君、広告・マーケティング志望のCさん、テレビ業界志望のFさん(滝さん)は、いずれも、早い時期に業界・職種を絞り、かつ、そのための準備に取り掛かっています。

一方、Bさん、D君、Eさんはいずれも、そこまで準備したとは言えません。

Bさんの場合、いくら、親に言われたから、だったとしても、公務員試験の準備は大学3年生秋からでは遅すぎます。

D君も、マーケティング職のインターンシップに参加するのはいいとしても、Cさんのように、もっと準備は早いうちからできたはず。

Eさんの場合、時事問題を取り扱うテレビ局を志望していて新聞を読まなくていい、と思ったのか、理解に苦しみます。

このように、早い時期に業界・職種を絞ったことで就活に成功した例は探せばいくらでも出てきます。それが「業界絞り」という謎ルールを延命させているとも言えるのです。

◆専門性と本人の能力も大きく左右

それでは、「業界絞り」で就活に成功した学生と、失敗した学生、その差は何でしょうか。それは、専門性の高低、それから、本人の能力・志向、この2点が明暗を分けています。

まず、専門性の高低について。

専門性の高い職種ないし業界の場合、そのための準備や前提条件が一般的な就活とは同じではありません。

製造メーカーの技術職・研究職であれば、「機械工学・電気電子工学専攻者のみ」「化学系の学生のみ募集」など、学科・専攻の条件が付けられます。よくネット界隈では学歴フィルターが話題になりますが、これは「専攻フィルター」です。

それから、上記で例として出した公務員や教員の場合、広く浅く出題される筆記試験対策が必要です。もし、公務員・教員を志望する場合は、早い時期から筆記試験対策をしないと、内定は厳しいでしょう。

本稿で例に挙げたテレビ業界以外でも、エアラインなどの業界・職種によっては、専門性が高く、早い時期からの準備が必要となります。

2点目の本人の能力・志向について。

専門性の高い職種・業界は早い時期から準備をしていれば内定が取れるか、と言えばそんなことはありません。

テレビ業界、それもアナウンサーの場合、滝菜月アナウンサーのように、アナウンサースクールに通う学生は山のようにいます。

学生によっては、東京キー局だけでなく、北海道から沖縄まで全国のテレビ局の選考に参加します。そこまでやっても、内定が取れず、テレビ業界を断念する就活生は、毎年、多くいます。

ものすごく残酷な言い方になりますが、本人の能力や適性、そして、夢・志向にかける思いがどれだけ深いものか。

そうしたものも大きく明暗を分けることになるのです。

この能力や適性、夢・志向にかける思い、そのための準備などは、「ここまでやれば内定」「これをやれば得をする」など、定量的に測れるものではありません。

しかも、そこに、業界の専門性の高低や、その時代の経済状況、採用側の戦略など、変数が多すぎます。

それを、業界絞りで就活がうまく行った例を見て、「業界を絞ると内定が得やすい」と単純化してしまうのは、私は誤解が多すぎるのではないか、と考えます。

◆「業界絞り」はどうすればいい?

それでは、就活生は「業界絞り」という謎ルールにどう向き合えばいいでしょうか。

私はこの3ステップでチェックしていけばいい、と考えます。

●ステップ1

専門性の高い職種・業界を志望している

→YES/ステップ2へ

→NO/総合職志望なので、業界を絞る必然性はあまりない

●ステップ2

専門性の高い職種・業界のための準備を進めている

→YES/ステップ3へ

→NO/「業界絞り」で損をする可能性大、総合職・「業界は広く見る」への転換を

●ステップ3

専門性の高い職種・業界を志望しており、他者からもその適性・能力・準備などが認められる

→YES/「業界絞り」の方が得

→NO/「業界絞り」で損をする可能性大、総合職・「業界は広く見る」への転換を

専門性の高低、そのための準備、そして、能力・適性。この3点が備わっているのであれば、「業界絞り」で得をする可能性が高いでしょう。

ただ、そうした就活生は私のこれまでの就活取材20年の経験から言えば少数派。いいところ、2割程度ではないでしょうか。

文系学部ないし専門性の高い学部から方向転換しての総合職志望の場合だと、そこまで業界を絞ることに力を入れなくてもいい、と考える次第です。

◆時期によっても変わる「業界絞り」

さらに、総合職志望の就活生にとって「業界絞り」の謎ルールにどう向き合えばいいのか、もう少し、ご説明します。

私は就活時期にもよっても変化するのでは、と見ています。

●3年生夏~12月ごろ

インターンシップで「業界をどうしよう」と悩む就活生が大量に発生する時期

→インターンシップは、「就業体験」もあれば「セミナー・会社説明」「業界説明」「就活体験・支援」など様々なタイプが混在。しかも、期間も長期間もあれば、短期間・1日も存在。

そのため、総合職志望であれば、無理に業界を絞らず、複数の業界・企業のインターンシップ、それも1日~短期間のものを複数参加することで、仕事・社会についても研究を進めていく方が得をする。

合わせて、業界以外で、どのような軸で業界や企業を考えていくのか、自分なりに考えていく。この「就活の軸」、一度決めたら終わり、ではなく、途中で変わっていっても特に問題はない。

●3年生1月~3年生3月

就活が一気に加速する時期。早期内定者も出て、就活生は「××は内定を貰ったのに自分はまだ」と変に焦って、そこから「業界絞り」に結びつきやすい

→まずは自分なりの就活の軸を定めること。それに外れていなければ業界が複数であっても全く問題はない。

就活のスタートが遅かった学生は、他の就活生の2倍、3倍、複数業界のインターンシップ・セミナーに参加することで検討すること。

●4年生4月以降

企業の内々定出しが加速する時期。就活のスタートが遅かった学生や「業界絞り」に振り回されて専門業界・職種を志望(でも、そこまで能力・適性は高くなかった/準備不足)という就活生は、選考落ちで焦る時期

→それまでの「業界絞り」を維持するか、それとも広く見るか、悩む就活生が続出。多くは、選考落ちという現実を受け入れて業界を広く見るように転換する。

が、一部の就活生(特にエアライン、テレビ局志望)は「今まで準備してきたのに、ここで方向転換するなんて」と悩む。いわゆるコンコルド効果(埋没費用効果 〈 sunk cost effect 〉とも)で、しかも、エアラインスクールやマスコミ就活予備校の一部はこうした就活生に「ここで夢をあきらめるなんてもったいない」とささやく。

スクール・予備校関係者のささやきは、善意ではなく、単に「方向転換を思いとどまらせれば、うちのスクール・予備校に費用を払ってくれてメシウマ」という思いが90%。

だが、そうした思惑に気づかずスクール・予備校に高額な費用を払い続ける学生が一定数存在。

エアラインにしろ、マスコミにしろ、一度は他業界に就職した後にあきらめられなければ、社会人転職を狙う手がある。が、そうした余計な話をスクール・予備校関係者はまずしない。

◆業界研究本は「業界絞り」以外で

最後に業界研究本についても触れておきましょう。

「業界絞り」の起因の一つが業界研究本にあることは前記の通りです。

それでは、業界研究本の購入が就活生にとって役立つのか、それとも無意味なのか。

業界研究本を出す出版社と私はなんら利害関係がありません。ニュートラル、という前提でお答えしますと、私は業界研究本は、買う価値あり、と就活生にアドバイスしています。

業界研究本の2トップ『会社四季報業界地図』と『日経業界地図』の2022年版(著者作成)。例年、8月下旬に新年度版が刊行される。
業界研究本の2トップ『会社四季報業界地図』と『日経業界地図』の2022年版(著者作成)。例年、8月下旬に新年度版が刊行される。

※なお、24卒生は8月下旬に「2023年版」が出るので、それまでは図書館や大学キャリアセンターにおいてある古い版を読む程度で十分です

ただし、業界研究本は業界を絞るためではありません。

世の中には、様々な業界があること、大企業は複数業界にまたがることなどを確認するためです。

そのためには、1冊1300円前後という価格はそう高くはない、と考えます。

私のおススメは志望企業かどうかに関係なく、自分の知っている大企業がどの業界の項目に出るのか、逆引きで見ていくことです。

一度にやると疲れるので、1日3社とか、その日にCMや看板で目に付いたところ、などと限定していってもいいでしょう。

例えばですが、NTTは『日経業界地図2022』だと4項目、イオンは10項目に登場します。それがどの業界とどの業界か、見ていくと、その意外さから、視野も広がっていくことでしょう。その分だけ、就活でも得する可能性が高くなるに違いありません。

以上、「業界絞り」という謎ルールの起因、そして、就活生の向き合い方をまとめました。

さて、就活生のあなたは、どこまで業界を絞りますか?それとも、絞りませんか?

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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