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マレーシアで日本人留学生が隔離~大学「予定通り」強調も親は「心配」

石渡嶺司大学ジャーナリスト
梅光学院大学サイトより。マレーシアへの留学者が隔離状態に。大学は「予定通り」。

◆コロナショックの中、16日にマレーシアへ出発

コロナショックは学生の海外留学・研修にも大きな影響が出ています。

後述しますが、大学は中止・延期を決めるところがおおくあります。

そんな中、3月16日、梅光学院大学(山口県下関市)の学生約80人と引率の教員2人が9か月間の長期留学プログラムのために日本を出国しました。

行先はマレーシアであり、クアラルンプール空港到着後、体温チェックで学生1人が抵触。他の学生も2週間の隔離状態となっています。

保護者からは「そもそも、なぜこの時期に留学を強行したのか」と疑問視する意見が出ています。

一方、大学は「2週間の隔離はもともと予定されており、問題ない」と安全を強調しています。

◆梅光学院大学は留学重視で定員割れから脱却

梅光学院大学は1967年設立、山口県下関市にある私立大学です。

文学部、子ども学部の2学部で学生総数は1305人(2019年現在)と小規模なキリスト教系の大学です。

2000年代には一時的に定員割れとなるなど、厳しい状況でした。それが2010年代以降、奨学金制度の充実(実用英検2級で初年度奨学金として32万円給付)、学部の再編、教育改革などにより、復調。

2019年の倍率は1.1倍(旺文社『蛍雪時代臨時増刊 全国大学内容案内号2019』)、新入生総数は354人(学部定員310人)。

倍率1.1倍・学部定員越えは地方私大としては健闘している方に入ります。

そして、その復調・健闘を支えてきた柱の一つが海外留学でした。梅光学院大学は留学制度の充実を「留学ホーダイ」と称しています。

大学の海外留学制度は学内で選抜を行うことが一般的ですが、本学の留学ホーダイは希望者全員が留学可能。実際に多くの学生がこの制度を利用して海外で学んでいます。

その結果として、英国の高等教育機関専門誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)』が発表する『THE世界大学ランキング日本版』において、2017年度には短期留学経験者の割合が高い大学の全国第1位、2018年度には短期・中長期あわせた留学経験者の割合が高い大学 全国第8位(中四国エリア第1位)」を獲得しています。

と、大学サイトには紹介されています。

『大学ランキング2020』(朝日新聞出版、2019年刊行)の「海外留学制度ランキング」によると、梅光学院大学が派遣した留学生数は34人。中四国エリアでは環太平洋大学(46人)に次いで2位となっています。

この留学制度の一つが今回、問題となったマレーシア留学でした。

◆出発前の説明では「保険に入っているから大丈夫」

本稿執筆のため、私は梅光学院大学、留学に参加中の学生、その保護者、それぞれに取材を申し込みました。

大学は取材申し込みが3月21日(土曜)の夕方ということもあり、不通。

参加学生Aさん、保護者BさんとはそれぞれTwitter・DMにより、取材に応じていただきました。

以下、時系列順にまとめていきます。

※以下、コメント内容は原文ママ。ただし、一部、筆者が言葉を補うなどの編集を入れている

この留学について、全体の説明会があったのは春休みに入る前のことでした。

保護者Bさん

いつかは定かじゃないのですが、春休みに入る前の段階に全体の説明会がありました。

確か、中国からの日本人がチャーター機で帰国した辺りでした。

説明する側は担当教員や海外旅行保険の代理店員など。

予定通りの話が始まり13時辺りから15時辺りだったでしょうか

「質問ある方〜」の時に多くの手が上がりました。

先頭はやはりコロナについて。

私も質問しました。

「もし現地で(新型コロナウイルスが)発生した際はどうしますか」

という趣旨の質問です。

回答は「海外旅行保険に加入するので大丈夫」と。

内心笑うしかない状態。

一度、会を締めた後、ずらーーりと親御さんが並び質問。

私は過去にも学校の対応に不満があったので早々に会場の部屋から離れました。

1月下旬の時点だと、中国での爆発的な感染が注目されていた時期です。

日本の大学が海外留学・研修の中止や延期を表明していったのは2月に入ってからでした。1月時点では、中国への留学・研修はともかく、中国以外については、どの大学も中止・延期を表明していません。

そうした状況を考えれば、梅光学院大学の対応は他大学と同じだった、と言えます。

ただ、コロナ感染の状況を不安視する質問が出てきたのに、コロナ感染した場合はどうするか、と解釈して「保険があるから大丈夫です」とする回答はどうでしょうか。

ややズレていた、と言わざるを得ません。

◆中国行きは中止でメールによる注意喚起も

説明会後、梅光学院大学は参加学生には注意喚起のメールは送付したと留学参加中の学生Aさんは説明します。

留学参加中の学生Aさん

出発前、新型コロナウイルスに関する注意喚起や対策のメールは何度か送られてきていましたが、中止や延期予定、入国後に留学の打ち切りなどの説明はありませんでした。この状況の中マレーシア留学を実施するにおいての措置や変更事項の連絡はありました。

なお、梅光学院大学は2月8日時点で、中国留学の延期を決めています。

梅光学院大学(下関市)では、今月17日から1、2年生10人が中国・山東省の青島大へ留学する予定だったが、出国を4月以降に延期した。青島は武漢から北東に800キロほど離れているが、福岡―青島便が3月末まで運休することもあり延期を決めた。大学の担当者は「青島大からの情報も踏まえて状況を見極めたい」と話した。

※朝日新聞2月8日朝刊(西部地方版/山口)「新型肺炎、県内も備え 県、手洗い徹底呼びかけ /山口県」

一方、保護者向けに文書等が送られてきたわけではない、と保護者Bさんは話します。

春休みから出発前日までに学院大学から保護者あてには文書は一切送られてきません。

来たのは振り袖の斡旋カタログくらい。

◆16日に到着後、体温チェックで1人が抵触

3月に入ると、欧米や中国・韓国以外のアジア諸国での感染が広がります。

マレーシアで新型コロナウイルスの感染者が確認されたのは1月26日。

2月4日に10人、3月1日に24人、3月10日に117人、出発直前の3月15日には238人と感染者は増えていきました。

ただ、大学からの連絡は保護者にはなく、参加学生には、「予定通り実施」「空港で検温を実施、37.5度以上の場合、搭乗を控えていただく場合もある」などの連絡があります。

その連絡の中には、次の一文もありました。

プログラムの一部変更:マレーシア政府の要請により、今回のプログラムの受け入れ先であるINITI大学では、感染を防ぐ目的で、受け入れ学生は2週間学内の寮に滞在し、そこでオンライン授業をすることになりました。

これは要するに隔離状態におく、ということを意味します。

この隔離状態について、梅光学院大学は大学サイト等には出していません。

16日に学生約80人と引率の教員2人は福岡空港から出発。同日午後、マレーシア・クアラルンプール空港に到着します。

到着した同日、マレーシア首相は18日からの国境封鎖措置を発表します。

マレーシアのムヒディン首相は16日テレビ演説し、18日から国民の海外渡航と外国人の入国を禁止する事実上の国境封鎖措置を発表した。

※FNNプライムニュース2020年3月17日配信「新型コロナ急増でマレーシアが国境封鎖 フィリピンも首都マニラ含むルソン島全体で移動制限」

もちろん、梅光学院大学の学生は16日に入国しているので封鎖措置の影響は受けません。

一方、入国後に検温チェックをしたところ、そのうちの1人が発熱により抵触。PCR検査を受けます。

他の学生は梅光学院大学側が言うところの「予定通り」2週間、学内の寮で生活することとなりました。

◆地元紙は「監禁生活」、学生は否定も

この様子を、山口県の地方紙・長周新聞は3月20日に同紙・サイトで記事を公開

その中で寮での隔離を「監禁生活」としています。

それぞれの寮の入口にスタッフがおり、出入りするたびに検温と本人確認をされる監禁生活を送っている。学生たちは時間を持て余し、友だちと話したり一緒に食事をとったりしているようだ。

 現地の気温は28~30度と、日本の真夏日といっても過言ではない。しかし一人部屋にはエアコンも冷蔵庫もなく、天井にプロペラの換気扇が一つついているだけだ。大変なのが食事で、初日の夜は「弁当がもらえた」「ケータリングで弁当を注文した」という連絡があったが、翌17日以後は現地の人々にも移動制限が出た関係からか、ケータリングも注文できなくなり、廊下に置かれたダンボールに入れてあるカップラーメンかクッキーで三食をしのいでいるという。

※同記事から引用

この様子について、留学参加中の学生Aさんは否定します。

空港での検温に引っかかった友人の検査結果が出るまでは、トイレやシャワーなど以外は極力人との交流を控えるよう言われていましたが、結果が出た後は同じフロアでの移動は自由になりました。することが限られる中でも、みんな友人との時間を楽しんでいます。

住環境や食事についても、長周新聞記事は悪く書きすぎ、としています。

清潔で安全で、便利な物が当たり前のように沢山ある日本から来たため、不便に感じる時もありますが、普通に生活できています。風通しも良く、扇風機も換気扇も涼しいですし、デリバリーもできるので、美味しい食べ物も食べられています。毎日タピオカをデリバリーする子もいます。日本と比べれば非常に不便ですが、こんなに悪く書かれる程可哀想な生活はしていません。こういう間違った情報が拡散されて、正直嫌な気持ちになりました。あの記事を見て、実際はそうではなく楽しくやっている写真や動画をあげて、事実を伝えようとしている人も少なくなかったです。

なお、体温チェックに抵触した学生は結果は陰性だった、とのこと。

(体温チェックに抵触した学生は)1人です。結果は陰性でした。結果が出るまでは、学内の寮ですが、誰とも会わないような部屋で隔離されていたそうです。陰性と分かってからは、みんながいるフロアに移動していました。今は私たちと同じ状況です。

◆保護者には「出す必要がない」

参加学生Aさんは「普通に生活できている」としています。

一方、保護者の受け止め方はまた違うようです。保護者Bさんは16日、参加学生の一人が体温チェックに抵触したことを知り、翌日17日に大学側に連絡します。が、その返事は説明責任を果たした、とは言えないものでした。

翌日、15時過ぎに大学に電話したところ担当からは当事者の親には知らせましたが一切学院としては出す必要がないとの返事。

またまた呆れるばかりでした。

隣席にいた生徒の気持ち、親の気持ちなんか知るものかといった言葉でした。

この対応は他の保護者にも同様だった、と話す保護者Bさんは憤り、文部科学省などにも問い合わせます。

それもあってか、3月18日には梅光学院大学が大学ホームページ上で「本学学生のマレーシア留学について」とのプレースを公表します。

2020年3月16日から本学学生がマレーシアの「INTIインターナショナル大学」へ留学をしております。

本プログラムは今年度当初より計画されていたものであり、予め同大学と緊密な連絡をとり、安全を確認の上、実施しております。また、渡航時及び現地での学生の安全確保及び日常生活の維持につきましては、本学教員が帯同すると共に、同大学と緊密に連携を取り、万全の体制を整え、予定通りプログラムを開始しております。

そして19日には、保護者にも「マレーシア留学の状況について」と題する文書がメールで送付されました。

到着後、2週間の健康チェックをすることはあらかじめ計画されていた(中略)

健康状態:学生たちの健康は保たれている

食事について:現地スタッフの献身的な尽力により、学生たちはアプリを使ってキャンパス内及び学外のデリバリーサービスを廉価で利用し、寮において様々な食事の提供を受けている。いろいろな味に挑戦しながら同時に実用英語の学びが始まっている。

※送付文書から該当部分を引用

これについて、保護者Bさんは、次のように話します。

話をした夕方に先程の文書が出ました。

もしかしたら文科省か、地元のテレビ局などに問い合わせたからか??と感じました。

◆地元紙報道に学生は「嫌な気持ち」

20日には、地元紙・長周新聞が記事化。

ネットに出たこともあり、21日頃からTwitterでも話題となり始めます。

私は同日、Twitterで確認し、取材を開始しました。

ネット上では今のところ、長周新聞記事と大学側が18日に出したリリース以外、特にありません。

情報量から言えば長周新聞記事が圧倒的に多いため、ネット上では同記事がベースとなって話が進んでいます。

この長周新聞記事は隔離状態について「監禁生活」と表現。それから記事中で食事は「カップラーメンかクッキーで三食をしのいでいるという」などとしています。

これについて、留学中の学生Aさんは「嫌な気持ちになった」としています。

日本と比べれば非常に不便ですが、こんなに悪く書かれる程可哀想な生活はしていません。こういう間違った情報が拡散されて、正直嫌な気持ちになりました。あの記事を見て、実際はそうではなく楽しくやっている写真や動画をあげて、事実を伝えようとしている人も少なくなかったです。

◆他大学は延期・中止か、実施かで悩む

ここまで留学実施の経緯や梅光学院大学の対応などについて、時系列でまとめました。

ここからは、大学取材18年の私の知見から、考察を加えていきます。

今回の梅光学院大学・マレーシア留学で議論の分かれるポイントは「そもそも留学は延期するか、中止にするべきではなかったか」「保護者やマスコミ等への対応は適切だったか」の2点あります。

まずは前者から。

保護者Bさんによると、担当教員は「マレーシアから入国禁止が出ない限り行きますの一点張りでした」とのこと。

梅光学院大学は2月に中国留学について延期としています。さらに保護者Bさんによると、韓国やアメリカなど他国への留学も中止・延期となったとのこと。

では、他大学が渡航禁止・自粛の出ていない国への留学・研修について、どんな対応をしたか、と言えば、分かれています。

大学野球などで有名な亜細亜大学(東京都武蔵野市)は1988年から5か月間にわたるアメリカ留学プログラム(AUAP)を実施しており、過去に1.4万人が参加(大学サイトより)しています。

同プラグラムでの留学は2月下旬からであり、2月7日には出発直前の研修会を実施、アメリカには2月25日に到着しています。この模様はそれぞれ、大学サイトにも掲載されています。

2月7日時点でアメリカの感染者は12人、出発日の24日も35人でした。この時点ではアメリカでコロナショックは市民生活への影響が全くない状況だったのです。

感染者が爆発的に増えたのは3月以降のことです(3月21日現在で感染者15219人)。

私はこの件で他大学の教職員2人に取材しました(C氏、D氏/それぞれ留学・研修以外の部署に所属)。

入国禁止などが出ていない限りは留学・研修を中止・延期というのも難しい、とするのはC氏。

うちもだが、留学しても「留年せず、4年で卒業できる」とアピールする大学が多い。もし、留学プログラムを中止ないし延期となると、いつなら代替のプログラムをできるのか、となる。実施できても学生は延期した分だけ留年するかもしれない。そうした状況を考えれば、入国禁止となっていない限り、留学は実施するのが自然ではないか。

一方、D氏は、2月下旬以降なら学生の安全確保が最優先だったのでは、としています。

安倍首相が一斉休校を小中高に要請したのは2月27日のことです。この時点で日本だけでなく世界中に感染が広まっていました。それより前に出発した亜細亜大学のケースはまだ理解できなくもありません。しかし、3月16日出発の梅光学院大学のケースは入国禁止となっていなくても延期を検討すべきだったのではないでしょうか。

こうした見解に立った大学は全国でも多く、東北文化学園大学は2月28日にカナダ研修の中止を発表。

一斉休校・大規模イベントの自粛より前の2月中旬に中止を決めた大学もあります。

東海大学は1968年から実施している海外研修航海を2月20日からマレーシア、タイ、ベトナム、台湾を一か月かけて実施予定でした。が、2月10日に中止を発表しています。

東海大学の海外研修航海・航路予定図(同大サイトより)
東海大学の海外研修航海・航路予定図(同大サイトより)

報道や公的機関からの情報を鑑みるとともに、感染症専門家の医療従事者の視点に立脚した意見を総合的に判断した結果、本学としては今回の海外研修航海を中止させていただくこととなりました。

※大学サイトのリリースより引用

東海大学が中止を発表した2月10日時点での感染者はマレーシア18人、タイ32人、ベトナム14人、台湾18人。

東北文化学園大学が中止を発表した2月28日時点でのカナダの感染者は11人。

それぞれ、少数であり、各国とも入国中止などは出していません。

※台湾は2月6日に中国人の入境禁止と合わせて各国・地域を運行するクルーズ船の寄港禁止も出しています。これが東海大学の中止に影響した可能性はあります。

その後、感染者が広まっていき、3月21日現在だと、カナダ736人、マレーシア900人、タイ322人、ベトナム85人、台湾135人(日本はクルーズ船以外で1003人)と増加しています。

◆広報は「下手すぎる」

もう一つのポイント、「保護者やマスコミ等への対応は適切だったか」については、C氏、D氏とも梅光学院大学に対して否定的でした。

1月に説明会を実施しただけ、という点に批判的なのがC氏。

1月から2月上旬にかけてと、一斉休校や大規模イベント自粛などが次々と出た2月中下旬以降とでは、明らかに状況が異なる。

3月上旬に留学参加の学生だけでなく、保護者向けにも説明会を実施するべきだった。

それから、実施する以上は毎日、大学から保護者や外部に対して情報発信をすべきだ。

小規模校だからマンパワーに限度がある事情は分かる。が、それでも保護者に対する説明責任を果たしている、とは言いがたい。

D氏は「大学広報が下手すぎる典型例」と指摘します。

新型コロナウイルスの感染が広がる中での留学実施はリスクが大きすぎます。感染リスクもそうですし、情報リスクもあります。

この時期に、何も発信しないまま、留学を実施すると「あの大学は感染リスクを無視して留学を実施した」と批判されかねません。

このリスクに対応するためには感染対策だけでなく、情報公開しかないのです。

プログラム変更で入国後、2週間は健康チェックやオンライン授業、とありますね。私が梅光学院大学の担当者なら、こうした情報を全部、出発前に参加学生や保護者だけでなく、大学サイトでも全部、公開します。

仮に感染者が出たとしても、情報を最初から全部出していれば、「大学はやれることはやったし、情報も全部出していた」と言えます。まあ、保険ですよね。

それが梅光学院大学は情報発信をほとんどしていません。そうなると、「感染リスクを無視した」と批判されてしまいます。さらに感染者が出れば「情報を隠蔽していた」とさらに批判されてしまうでしょう。

私もC氏、D氏とほぼ同じ見解です。

梅光学院大学は中国留学を2月上旬に中止しています。つまり、同大のリスク管理は全くできていない、というわけではありません。

問題なのは、3月22日現在、大学サイトでこの件を出していない点です。前記のように私は朝日新聞の地方版でこの情報を知りました。

3月22日現在、同大サイトのお知らせ欄には、中国等への留学中止を出していません。

梅光学院大学サイトのお知らせ一覧(右)
梅光学院大学サイトのお知らせ一覧(右)

なお、他大学は新型コロナウイルスの感染対策や大学行事の中止など、細かく出している大学が大半です。

大学として、感染対策をしているのであれば、大学サイトでもその情報を出して行くべきでしょう。それが大学広報としての常道です。

マレーシア留学であれば、保護者にメール等で情報発信をしていくのも必要です。が、メールだけでなく、サイトなどでも見られるにしておくのが大学広報というものです。

取材に応じてくれた留学中の学生Aさんは、長周新聞記事の書き方に否定的であり、

あの記事を見て、実際はそうではなく楽しくやっている写真や動画をあげて、事実を伝えようとしている人も少なくなかったです。

としています。

学生が「事実を伝えよう」としているのに梅光学院大学は、マスメディアに対しても、保護者に対しても、「事実を伝えよう」とする努力が見受けられない、この点が残念でなりません。

◆「2週間」は安全か、危険か

それから、私が梅光学院大学に対してもう1点、残念に思うのは「2週間」の説明です。

参加学生、保護者への取材から梅光学院大学は「到着後、2週間の健康チェックをすることはあらかじめ計画されて」(保護者向けに送付した19日の説明メール)おり、それを過ぎれば安全、その後も感染対策をすれば大丈夫、と考えているようです。

その通りかもしれません。

一方で、「2週間の観察期間が過ぎても感染リスクはある以上、行くべきではない」という考え方もあるわけです。

どちらが正しいか、ではありません。

これだけ感染が広がっている中で留学を実施する以上、梅光学院大学は、最初から2週間の隔離状態について参加学生や保護者だけでなく、大学サイトにも公表して明らかにすべきでした。

こうした説明がないままだと、結果として学生を守ることができないことにもなってしまいます。

◆保護者や学外への説明を

梅光学院大学は2016年に教員の雇い止め問題・パワハラ等で卒業生などから理事長の退任要求が起き、提訴されています。2020年には蔵書の廃棄処分をめぐるトラブルも起きました。それぞれ、地元紙や全国紙地方版などで報じられています。

詳細は本稿と無関係なので省きます。

が、こうした状況から梅光学院大学の経営幹部がメディア対応などにナーバスになっていたことが想像できます。

しかし、大学は国公立大学はもちろんのこと、私立大学にも税金が投入されている教育機関です。つまり、大学の状況を学外に出して行くのは社会的な責務とも言えるでしょう。

いくら小規模校であっても、メディアから否定的に報じられることが多かったとしても、それが大学広報をしなくていい理由にはなりません。

客観的に申し上げれば、梅光学院大学は大学広報、という社会的な責務を十分に果たしているとは言えません。

そして、その結果、留学に参加した学生を傷つける結果になってしまっています。

学生は現在、マレーシアに入国しています。

留学中の学生Aさんは、今後について、

少なくとも同じ棟の人は留学を続けると言っています。他の棟にいる友人も、留学を続けたいと言っている人はいます。12月まで留学を続け、英語力を高めたいね、とみんなで前向きに話し合っています。

とのこと。

一方、保護者Bさんは大学側に対して、

なぜにこの世界中が自粛な中で決行したのか、保護者、職員に対し誠実な返事がほしいです。

としたうえで、次のように話してくれました。

どうか子供たちが健康に現地で過ごせるよう願うばかりです。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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