内定辞退が当然の時代~企業・採用担当者はどうする?

合同説明会に参加するいづよね。就活生への対応が毎年評判に(石渡撮影)

内定辞退記事が大反響

5月15日に日経産業新聞が内定辞退に関する記事を公開。直接訪問というマナー指導が不評ですぐ炎上。

それを受けて私が採用担当者や就活カウンセラーに取材してYahoo!ニュース個人記事としたところ、こちらはYahoo!トピックス入りし、様々なご意見・コメントをいただきました。

その後も、各メディアで内定辞退関連の記事が出るほど、大反響でした。

前回は学生視線で辞退の手法・時期などをまとめています。今回は、企業視点で内定辞退対策をどうするか、前回記事の反響を踏まえながらまとめました。

賛否両論の「賛」は40代以上で多数

記事関連のコメントで多かったのが、

「タイトルは賛否両論とあるが、『賛』はいないじゃないか」

「就職氷河期には内定辞退は直接訪問、とあるけど、自分は電話で済ませた」

の2点。

この2コメントが採用担当者の内定辞退に関する意識と大きく離れていることを示しているので、少しご紹介&コメントを。

前者ですが、確かにネット上では否定論ばかりでした。

ただ、記事公開後も、採用担当者やキャリアセンター職員などに話を聞くと、

「今だと、確かに電話かメール、というので十分」

としつつも、

「できれば、直接話すことで最後は笑って別れたい、というのもある」

との意見も複数ありました。

こうした意見は、心なしか40代、50代で多数。

「昔のマニュアル本や就活体験記には、内定辞退は直接訪問と書いてあった気もする」

そこで古いマニュアル本や就活体験記を調べると、確かに直接訪問がマナーとして出ていました。

内定の事態を伝えることを、電話だけで安易にすませてはならない。会社を訪問して直接お詫びを述べるのが、基本的なマナーといえるだろう。そのうえでお詫びの手紙も書くようにするべきだ。

『2010年版 こう動く!就職活動オールガイド』(2008年、成美堂出版)

・辞退する際には誠意を持って事情をちゃんと説明してください。(食品メーカー内定者)

・私が聞いた話では会社先に丁寧に断りに行ったにも関わらず社員から罵声を浴びせられた人もいると聞いています。(機械メーカー内定者)

・内定の辞退は丁重に行いましょう。会社には採用計画というものがあり、それに基づいて採用人数を決めたりします。つまり、辞退するということは、個人の都合で会社に迷惑を掛けるということです。できる限り直に会って、お詫びの旨と辞退の理由を伝えるのがBESTです。(銀行内定者)

『就職活動体験記 2003』(京都産業大学進路センター)

もちろん、マニュアルや就活体験記に書いていることが全てではありません。社会人に取材すると、就職氷河期であっても、内定辞退は電話・メールだった、とする方もいました。

が、当時のマニュアルとしては、内定辞退は直接訪問がスタンダートだった、ということは改めてお伝えします。

まあ、「内定辞退は直接訪問」との意識ある方がキャリアセンター担当者だと、現在の就職状況とやや乖離してしまいます。だからこそ、日経産業新聞記事は炎上したわけで。

サイレンス辞退で盛り上がる

内定辞退記事のコメントで多かったのが、選考に落ちた恨みを内定辞退でぶつけよう、というものです。

「企業と学生は対等のはず。選考の時はお祈りメール1本で済ますくせに、内定辞退は直接来い、なんてふざけている」

「お祈りメールどころか、サイレントで選考落ちを知らせない企業もひどい」

「内定辞退はメール。それも末尾に『貴社益々のご発展をお祈り申し上げます』とお祈りメールを送ってやれ」

「いっそ、内定辞退もサイレントでいいじゃないか。」

お祈りメールやサイレント辞退、いくら何でもSNS上だけの、いわゆるネタだろう、と思いきや、

「たまにいます。サイレント辞退が一番困る」(流通)

とのこと。

「サイレンス辞退と川崎殺傷事件、同じじゃないか」

この内定辞退のお祈りメールやサイレンス辞退、採用担当者に取材したところ、悪評しきり。

「なぜ、選考で落ちた恨みを内定出しの企業にぶつけるのか、そのメンタルが理解できない」

「サイレンス辞退が一番困ります。まあ、入社後、すぐやめる、と言われるよりはまだましですが」

「お祈りメールでの内定辞退は、もし、身内にいれば大説教です。仮にそのときはご縁がなくても礼儀を尽くすのがうちの流儀なので」

中には、こんな意見も。

「内定辞退のお祈りメールだの、サイレンス辞退だの、これって、川崎殺傷事件の岩崎容疑者と何が違うのでしょうね?精神的な構造は同じじゃないですか?」

私もその通り、と思います。

そもそも、選考の過程でネガティブな事象があり、その選考参加企業に苦情を伝えるべきです。

恨みつらみを選考落ち企業ではなく、内定を出した企業にぶつけて留飲を下げる、これが内定辞退のお祈りメールであり、サイレント辞退というものでしょう。

川崎殺傷事件は岩崎容疑者による無差別殺傷事件です。容疑者死亡のため、まだ解明されていませんが、今のところ、拡大自殺との見方が有力です。

「犯人の経歴、人柄は詳しく分かっていませんが、自らの人生がうまくいかず、社会や世間が悪いと他責的な傾向が強いように思えます。拡大自殺をする人は、人生に絶望しており、社会への復讐感情が強いことが特徴です。おとなしく死ぬのはイヤだと思い、誰でもいいので巻き添えにして、打ち上げ花火を上げて死ぬパターンです」

(JCASTニュース「川崎・児童ら殺傷事件と『拡大自殺』 精神科医に関係の有無を聞いた」/コメントは精神科医の片田珠美氏)

「社会や世間が悪いと他責的」「社会への復讐感情が強い」…。

岩崎容疑者は、無辜の児童・市民を殺傷し、悪ノリする就活生は選考落ちとは無関係の企業にお祈りメールで辞退(またはサイレント辞退)。

無関係の児童・市民(または企業)に復讐感情をぶつける、という点で精神構造は同じです。

これからビジネス社会で生きていかなければならない就活生が無差別殺人の容疑者と五十歩百歩とはあまりにも情けない限り。内定辞退は直接訪問であれ、メール・電話であれ、最低限の礼節はもって進めることを強くお勧めします。

採用担当者は内定辞退対策を

内定辞退のお祈りメールやサイレント辞退はごく少数(と信じたい)。

ただ、日経産業新聞記事や私のYahoo!ニュース個人記事などが大反響となったあたり、それだけ内定辞退が今の就活生にとって珍しくないことを示しています。

リクルート就職みらい研究所の調査でも、選考解禁日の6月1日時点で、内定辞退を経験したことがある学生の数は2019年卒では43.2%。2017年卒・32.8%、2018年卒・36.5%と年々増加しており、今年は半数を超えてもおかしくない、との見方もあるほど。

この内定辞退が当然の売り手市場において採用担当者は苦労します。

内定・内々定を出しても、内定承諾をしたうえで、入社してくれないと、選考でいくら苦労しても水の泡と化してしまうのが現代です。

特に中小企業は、

「内定を出して、承諾書をもらうとなにもせずに4月1日を待っている企業も多いです。大手・中堅企業だと、内定式をちょっと凝るとか、内定式までの期間は内定者懇親会や勉強会を開催するなどしています。そこまでやっても辞退者が出るのが現代の売り手市場。それなのに、中小企業の多くは内定者懇親会・勉強会など全くしていません。採用難に陥るのも無理ないところでしょう」(中小企業の採用事情に詳しい採用コンサルタント・柳本周介さん)

と言って、大企業では内定辞退が出ないか、と言えばそんなことはありません。内定者懇親会・勉強会などをやっても、辞退者が出てしまいます。

もちろん、全くやらない企業に比べれば辞退者が少なくなります。

「選考中盤からは就活生としっかりコミュニケーションを取ること。辞退するにしても、お互い笑って別れられるくらい、信頼関係を築いていくことが重要」(商社)

「内々定を出しても、『うちは期限を設けない。いつまでも待つ。ただ、どんな状況か、報告は入れてね』と話すようにする」(商社)

「2年前に採用に疎い部長に変わったときが大変だった。内定承諾期限を無制限にしたい、と話すと『そんなに伸ばすなんて学生を甘やかしている。俺の時代はせいぜい1か月だった』と言い出した。『1か月で結論を出せ、と強く迫るくらいでちょうどいいじゃないか』とも言いだして、それやったら、オワハラと言われますよ、となんとか説得した」(メーカー)

就職氷河期よりも、さらに学生の就活を尊重しながら敬意をもって接することができるかどうかが重要、と採用担当者は話します。

土光敏夫・元経団連会長は昭和40年代から選考落ち学生にも気を遣う

内定辞退対策ではないですが、選考落ちの学生に対して気遣ったのは、何も現代の話ではありません。1960年代まで遡ることができます。

土光敏夫・元経団連会長は石川島播磨重工業、東芝の社長・会長を歴任。1981年には第二次臨時行政調査会会長として行政改革に取り組んだ昭和の名経営者です。

土光・元会長が選考落ちの学生を気遣うようになったのが東芝の社長にしゅうにんしてから、というエピソードが西日本新聞2015年8月19日夕刊「がめ煮」記事で紹介されています。

東芝の入社試験受験者の家庭にはたいてい東芝製品が、と知って土光敏夫氏は「おろそかに扱っては罰が当たる」。

再建を頼まれ社長になった昭和40年代のこと。不採用者への通知にも神経を使い、心をこめた文章を添えたという。

この土光・元会長の姿勢が知られるようになってから模倣する企業が増えました。

一方で、土光・元会長の姿勢とは真逆で、選考落ちや内定辞退者に高圧的に接する企業も相当数あったのは不思議、としか言いようがありません。

付言しますと、選考落ちや内定辞退で不当な扱いを受けた就活生が、

「あのメーカーの商品は今後、絶対に買わない」

「あの銀行の内定辞退者への説教にはうんざり。絶対に預金しない」

などと話すのも、私はよく聞いています。

カゴメの神対応の「お祈りBOX」

土光・元会長の姿勢を具現した、と言えるのが、食品メーカーのカゴメです。

同社は選考落ちの学生にも自社製品の詰め合わせ(就活生いわく「お祈りBOX」)を全員に送付しています。

E太 内定ほしさに、少しでも有利になろうと参加しちゃうっすよね。俺はカゴメの対応に驚きましたよ。ESの通過率が低くて狭き門ですが、落ちても自社製品の詰め合わせが送られてくるんすよね(笑)。

C美 それ知ってる。「お祈りBOX」でしょ(笑)。お客さんでもある就活生に、カゴメを嫌いにならないでほしいのかな。(週刊朝日2014年2月28日号「現役就活生×大手企業採用担当者 就活のホンネ座談会」)

カゴメはESを提出した学生全員に自社製品を贈っている。年によって多少の変化はあるものの、トマトジュースと、肉や野菜などの素材を加えるだけで料理ができる合わせ調味料などのセットが多い。面接などで本社を訪れた学生には直接渡し、ESで不採用となった学生には自宅に送付する。

この取り組みを始めたのは05年。「学生は就活の限られた時間の中でESを書くのも大変。その中でカゴメに興味を持ってもらえたことについて、企業理念の『感謝』を形にしたもの。応募を増やすためではない」(同社)という。

(中略)

毎年7000以上の応募を集めるカゴメ。「手間やコストを考えればやらないほうが効率的。だが、学生とのつながりは就活のときだけに限らない」(同社)。

(週刊東洋経済2018年10月27日記事「就職活動のリアル--採用難時代に負けない 有望新卒獲得の新手法」)

選考落ち学生と食事会・他社紹介も

カゴメは東京商工リサーチデータによると、従業員数1592人。

「誰もが知る大手企業だから、自社製品詰め合わせも送れるはず」

そう考える方もいるでしょう。

このカゴメに比べて、はるかに小規模な企業が、神戸で米穀業を展開するいづよね。従業員はわずか5人(帝国データバンクの企業データ)。

同社は2016年~2018年に選考落ちの学生を食事会(焼肉)に招待しました。

「わざわざ、受けてくれた学生に不採用通知一枚を送るだけでいいのか、という思いから、食事会を実施しました」

と話すのは、川崎恭雄社長。

今年は食事会は見送ったとのこと。

代わりに昨年から始めたのが、他社紹介です。

「3次選考まで残った学生、および2次選考でも当落線上だった学生に中小企業家同友会の仲間の企業を紹介し面接してもらったりしています。そのまま採用に至り、4月から元気に働いているケースもありました」

「食事会も企業紹介もご縁を大事にしたい、という私の思いからです。選考でご縁がなくても、どこかで別のご縁があるかもしれない。そのご縁を大事にしたい、と私は考えています」(川崎社長)

同社が加盟する兵庫県中小企業家同友会は毎年3~6月の2回、合同説明会「ひょうご就職サミット」を開催しています。この川崎社長の姿勢が就活生に強く、伝わるのか、2017年から今年2019年1回目まで5回連続で、ブース訪問の学生数がトップとなっています。

同社は明日(2019年6月1日)の合同説明会「ひょうご就職サミット」には「すでに内定者を出しているので参加しません」とのこと。

兵庫就職サミットに参加する中小企業。他地域以上に派手なブースが多く、参加者も200~300人と中小企業合説ではトップクラスの集客。他地域からの視察も多い。
兵庫就職サミットに参加する中小企業。他地域以上に派手なブースが多く、参加者も200~300人と中小企業合説ではトップクラスの集客。他地域からの視察も多い。

内定SNS企業は「リアルとネット、両方大事な時代に」

カゴメ・いづよねとも、選考落ち学生への対応ですが、内定辞退も、両社に比肩するくらいの対応が求められます。

内定辞退対策で注目を集めているのが内定者SNSです。

これは内定学生のみ参加できるSNSで専門のIT企業が運営。

内定辞退対策を考える企業が運営会社に利用料を払うと、管理者権限が与えられます。

この内定者SNSで企業情報を流したり、内定者研修の課題を出すなど、内定学生と採用担当者がやりとりする、というもの。

内定学生だけで、ということであれば、FacebookやLINEグループなどでやり取りできます。

採用担当者に管理者権限があることで、内定学生が本当に入社する意欲があるかどうか、などが判明するところがポイント。

内定者SNSの最大手であるEDGE株式会社の佐原資寛・代表取締役社長によると、

「学生の心境把握をリアルタイムで行わないと、内々定時点どころか、入社直前ですら辞退されるリスクの高い時代となりました。企業からすれば内定辞退防止をどうするか考えなければなりません。おかげさまで弊社サービスの利用、問い合わせの企業は年々増加しています。この10年で、延べ4000社以上にご利用いただいています」

とのこと。

内定辞退対策については、「選ばれる側の自覚」「接点の濃さと回数」「リアルとネット」の3点、と話します。

「1点目ですが、内々定を出した瞬間、企業は学生から選ばれる立場になります。特にここ5年以上、続いている売り手市場では、内々定出しから内定承諾までの期限は数か月から半年、あるいは無制限とする企業が増えています。逆に『内定承諾は待つとしても2週間程度』『内定意思を固めてくれないと最終選考には参加できない』などの対応は就活生から敬遠されます。怖いのは、その就活生だけでなく、次年度以降も、悪評につながってしまうことですね。悪評を招かないためにも企業側には『選ばれる自覚』が求められます」

「2点目ですが、内定者懇親会や研修など接点を増やすことが大事です。それも単に飲み食いさせればいい、というわけではありません。内定学生と採用担当者、あるいは役員クラスも含めて信頼関係を構築するよう、考えられる企業ほど、内定辞退が少なくなります」

「3点目ですが、内定者懇親会・研修など、リアルでやっている、という企業は多いでしょう。が、リアルでの内定辞退対策があまりにも多すぎると、今度は内定学生の時間を奪いすぎ、これはこれで『オワハラ』と批判されかねません。今の学生は理系だけでなく文系も社会人が想像する以上に講義・ゼミやアルバイトなど忙しく過ごしています。そのためにも、弊社の内定者SNSを含めネットでの内定辞退対策が求められます」

内定者SNSも、単に採用担当者だけが内定学生とやり取りする、というだけではないようです。

「内定辞退対策の進む企業だと、内定者SNSに採用担当者だけでなく、他部署の社員も参加。内定学生の質問にも応じています。その受け答えから、入社後にどんなキャリアとなるか、内定学生が想像できるようになります」(佐原社長)

今年(2020年卒)の就活は、例年以上に内定者辞退が出る見通しです。

例年以上に、企業は大手・中小を問わず、内定辞退対策が求められるでしょう。就職氷河期の裏返し、採用氷河期はまだまだ続きそうです。

修正(2019年5月31日19時34分)

6月1日の「ひょうご就職サミット」について、いづよねは不参加とのこと。

また、ブース訪問学生数1位は2017年~2019年まで5回連続との指摘をいただき、それぞれ修正しました。