東京福祉大学、中国籍の外国人研究生を差別か~学費の差は何のため?
東京福祉大学、中国籍とそれ以外とで学費に差
東京福祉大学は留学生の所在不明問題で大きな注目を集めています。
これまでも留学生が所在不明問題で注目されたことはありました。が、いずれも正規留学生であり、研究生という盲点を突いたのはこの東京福祉大学が初めてです。
ところで、この東京福祉大学の「2019 年度 4 月・10 月入学生 外国人留学生 研究生(学部・大学院)・ 日本語別科 国内選考入試募集要項」をよくよく読んでいくと、中国籍の留学生に対して、国籍差別と非難されかねない項目がありました。
それが学費の部分です。
大学学部外国人研究生の募集要項(9ページ目から)には学費についての記載もあります。
ところが、11ページにある学費部分には「中国籍の出願者」という項目があり、一括納入だと87万円とあります。
一方、12ページ目にある学費部分には「中国籍以外の出願者」という項目があり、一括納入だと62万8000円とあります。
つまり、中国籍の留学生は中国籍以外の留学生よりも24万2000円、高く設定されています。
これは、国籍差別をしている、と非難されかねない、きわめて問題のある記述内容と言わざるを得ません。
なぜ、差をつけるのか、合理的かつ社会性ある説明が必要
2002年の「私立大学における入学者選抜の公正確保等について」(文部科学事務次官通知)は、当時の医学部不正入試がきっかけで出されました。
こちらを改めて参照します。
1 入学者選抜の公正確保
(1) 入学者の選抜に当たっては、合否判定等基本に係る部分について学長及び教授会が実質的に責任を果たし得る体制を確立し、関係法令等の規定に基づき適正な手続きにより厳正に行うとともに、これらに関する学内規程の整備を図ること。
(2) 大学教育を受けるにふさわしい能力、適性等を備えた者を公正かつ妥当な方法により選抜し得るよう、合否判定基準の明確化その他選抜方法の改善に努めること。
(略)
(5) 繰り上げ合格者に係る合格発表方法及び入学手続期日等入学手続きに関する事項について、学生募集要項に記載するなどによりあらかじめ公表すること。
要するに、「公平公正に入試をやれ、細かいことは募集要項に先に書け」と言うことですね。
これは、非正規の学生である外国人研究生にも適用される、と見る方が自然でしょう。
つまり、どの出身地、どの国籍だろうが、差をつけるのであれば、そこに合理的かつ社会性のある説明義務が大学には発生します。
東京福祉大学の外国人研究生の募集要項を改めて読んでみると、「中国籍の出願者」「中国籍以外の出願者」という項目はそれぞれあります。
が、なぜ学費に差が出るのか、その説明は一切ありません。
では、どうして中国籍の留学生のみ、高い金額に設定しているのでしょうか?
考えられる理由はいくつかあります。
1:中国籍の留学生のみ、入学前に事前研修などをしている。その費用を一括納入の学費に上乗せしている。
2:中国籍の留学生は富裕層が多い。中国籍以外の留学生は経済的に苦しい家庭出身が多いため奨学金を用意した。その奨学金の分を引くと差が出る。
3:中国籍の留学生は富裕層が多いか、親戚などとの結びつきが強い。そのため、学費を高く設定しても払うだろう。
4:中国籍の留学生に対してはブローカーに払う分が含まれる。
まず、1ですが、中国籍の留学生のみに特別な事前研修などを実施するなどの事情があるのであれば、募集要項に事前に記載する必要があります。
2も同様です。もし、経済的に苦しい家庭出身の留学生を支援する奨学金を用意した、と言うのであれば、最初から募集要項に記載するべきでしょう。
1・2とも、どちらにしても東京福祉大学は説明義務を果たした、とは到底言えません。
そもそも、2は、留学生を受け入れるにあたって、どの大学(または短大・専門学校)も、経費支弁計画書の提出が求められます。つまり、経済的に無理のない留学かどうか、ということですね。
仮にですが東京福祉大学が2を主張するのであれば、そもそも論として経済的に無理のある留学生を研究生として受け入れていたのか、という疑問が発生します。
3・4はまずないと信じたいところですが、論外です。そんな理由で学費に差をつけている時点で国籍差別、と非難されても東京福祉大学は抗弁できないでしょう。
1~4、いずれにしてもそれ以外の理由にしても、募集要項に「中国籍/中国籍以外」という項目を出して学費に差をつけているのは言語道断です。
学費や奨学金の違いには合理性・社会性が必要
日本の大学において、学費や奨学金が完全に公平か、と言えばそんなことはありません。平等か不平等か、で言えば、明らかに不平等です。
ただし、その不平等は合理性があり、かつ、社会性があるものです。つまり、社会からも広く認められたものなのです。
まず、よくある学費格差で言えば、公立大学の出身地による学費格差。
公立大学の運営自治体(都道府県または市町村)の住民が入学する場合、それ以外の学生に比べて入学金に差が出ています。
たとえば、首都大学東京の場合、東京都の住民は入学金が14.1万円。それ以外だと倍の28.2万円となっています。
こうした差は他の公立大学でも全く同じ。
では、不平等が問題視されるか、と言えば全くそんなことはありません。公立大学は設置自治体がその自治体の住民サービスの一環で設立・運営をしています。地域住民か、それ以外かで入学金に差が出るのは当然です。その差がある、という前提で地域外の受験生も志願しているわけですし。
奨学金も同じです。家庭の収入、学業成績、入試成績、取得資格などでそれぞれ条件があります。条件に合わない受験生は奨学金の対象とはなりません。
が、その条件については事前に募集要項などに記載があります。かつ、その条件設定は対象外となる受験生も含めて、社会的に認められたものと言えるでしょう。
あえて言えば、女子受験生のみ対象とした奨学金は議論の分かれるところです。
ただ、議論が分かれるとは言え、大学が女子学生を増やしたい、という思いがあれば、それは合理性・社会性がある、と言えるでしょう。
文部科学省は国籍差別禁止の徹底を
他大学の学費・奨学金の不平等が合理性・社会性があることを出したうえで東京福祉大学の「中国籍/中国籍以外」の記載に戻ります。
確かに募集要項で「中国籍/中国籍以外」との記載はあります。
が、前記の通り、なぜ中国籍の留学生に対して学費を高く設定しているのか、説明は一切ありません。
そして、どう考えても、この学費格差は他大学の学費・奨学金のような、合理性・社会性のある不平等とは言えません。
東京福祉大学はこの「中国籍/中国籍以外」の記載が国籍差別と非難されても抗弁できない、日本の高等教育研究機関にあるまじき事態であることを強く認識すべきでしょう。
当然ですが、この件についての釈明なり謝罪なりが求められます。
そして文部科学省は、こうした差別的かつ、どう転んでも合理性・社会性あるものとは言いがたい記載を募集要項に記載した大学がある、という点を認識すべきです。
そのうえで、こうした国籍差別とも非難されかねない募集要項の記載ないし大学入試の運営に対して禁止を徹底すべきです。
2008年の「留学生30万人計画」について、文部科学省ならびに関係省庁の出した骨子にはこうあります。
「留学生30万人計画」は、日本を世界により開かれた国とし、アジア、世界の間のヒト・モノ・カネ、情報の流れを拡大する「グローバル戦略」を展開する一環として、2020年を目途に30万人の留学生受入れを目指すものです。
特定の国籍を差別した、と非難されかねない記載が大学の募集要項にあって、それで「世界により開かれた国」?
「中国籍/中国籍以外」なんてふざけた記載を放置している限り、「世界により開かれた国」なんて、どの面下げて言えばいいのでしょうか?
文部科学省はこうした事態について認識したうえで一刻も早く是正することを強く期待します。
追記(2019年3月22日10時57分)
東京福祉大学に電話で取材をしたところ、「担当者が不在で回答できる者がいない」とのことでした。
追記(2019年3月22日15時11分)
Yahoo!ニュース個人編集部の指摘により、誤記部分などを含めて一部変更しました。