早稲田大学医学部の誕生も?~東京医大事件の今後のシナリオを検証してみた

東京医科大学でのデモ。この抗議がもとで早稲田大学医学部誕生も?(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

裏口入学に続き不正入試まで

名門だった東京医科大はもはや、女性差別の象徴的な存在にまでなってしまいました。

7月4日に文部科学省・佐野太局長(当時)が逮捕。私立大学支援事業の見返りに自分の息子を入学させた、いわゆる裏口入学です。しかも大学理事長・学長(当時)が関与する組織的なものでした。

大学の経営幹部が関与する裏口入学事件は2001年の帝京大学事件、2004年の神奈川歯科大学事件以来のことです。

そもそも、裏口入学というキーワード自体、聞かなくなったところでの事件であり、大きな話題となりました。

この裏口入学事件が落ち着いたところに、出たのが女子・多浪の受験生に対する得点調整、いわゆる不正入試が8月に発覚。

この不正入試事件も理事長・学長(当時)が関与する、組織的なものであったことが明らかになっています。

裏口入学・不正入試、どちらも大学としてはあってはならない事件です。それがほぼ同時期に発覚してしまいました。

それでは東京医科大学は今後どうなるのでしょうか。

2001年の帝京大学事件では49億円の返還・減額

まず、補助金の返還・減額から。

2001年の帝京大学事件では、2003年の毎日新聞記事で49億円の返還命令が出た、とあります。

帝京大学寄付金事件 元会長に有罪判決 「口利き料隠し、悪質」--東京地裁

2003.04.14 毎日新聞大阪夕刊

帝京大学(東京都板橋区)の入試をめぐり、受験生側から集めた寄付金を隠し、所得税約1億4000万円を脱税したとして、所得税法違反の罪に問われた学校法人「帝京学園」(同)元会長、冲永嘉計(よしかず)被告(59)に対し、東京地裁は14日、懲役1年6月、執行猶予4年、罰金3500万円(求刑・懲役1年6月、罰金4200万円)を言い渡した。伊名波宏仁裁判長は「受験生の父母の心情につけ込み、口利き料を要求し、全額を秘匿した悪質な犯行」と非難した。

(中略)

冲永被告は、冲永荘一・元帝京大総長の実弟。国税当局は「帝京育英財団」(愛媛県大洲市)が集めた寄付金のうち、複数の関連財団に分散して簿外処理した約65億円を所得隠しと認定し、重加算税を含め約27億円を追徴課税した。「口利き」が発覚した宮路和明衆院議員は副厚生労働相を辞任、文部科学省は帝京大に対し、過去5年間の補助金49億円余の返還命令を出した。

東京医科大学の補助金は例年、約23億円。5年間で115億円。不正入試を実施していたとされる8年分だと184億円。

仮に50%減額でも57億円~92億円。

まして、裏口入学だけでなく、不正入試もあるため、全額カット、ということも考えられます。

そうなると、補助金の返還命令だけで、少なく見ても57億円。多ければ184億円にもなります。

損害賠償は受験料だけで10億円超えも

次に不正入試の損害賠償について。

関西テレビ8月12日配信 入試で“女子”や“多浪”の受験生を不利に…法律上、大学側に『詐欺』の可能性 受験料返還も

関西テレビ配信の動画記事(放送は関西テレビ8月8日『報道ランナー』内「そこが聞きたい!菊地の法律ジャッジ」)では、菊地幸夫弁護士が詐欺罪から、

大学側は詐欺となる可能性があり、受験生は受験料を返してもらえると思います。

と、コメント。

受験料は6万円。東京医科大学は志願者数が例年3000人前後います。

1000人が返還を請求、認められれば、それだけで6000万円。これが8年間だと、4.8億円。1000人どころか2000人が返還請求をしてそれが8年分だと、9.6億円にもなります。

さらに人数が増えれば10億円を超える可能性すらあるのです。

不正入試被害者は数百万円どころではない

さらに深刻なのが、不正入試によって不合格扱いとなった受験生です。

こちらは少なくとも1人あたり数百万円(×8年分)はかかります。

過去の例で言えば、2017年に起きた大阪大学の採点ミス事件があります。一般入試の採点ミスで追加合格となった学生に対しては、「追加合格者にこれまで通った大学や予備校の授業料などの補償、慰謝料」(2018年3月7日付読売新聞夕刊)とあります。

この金額が数百万円程度と見ることができます。

同じ採点ミスだと、入学後の話として鹿児島大学歯学部事件があります。卒業試験の採点ミスから留年した元学生が鹿児島大学を提訴。

2015年3月4日朝日新聞西部本社版朝刊記事によると、

卒業試験の採点ミスで留年させられ歯科医になるのが遅れたとして、鹿児島大学歯学部の学生だった歯科医の男性=霧島市=が、鹿児島大を相手取って4159万円の損害賠償を求めた訴訟で、男性側は、大学に374万円の支払いを命じた2月18日の鹿児島地裁判決を不服として控訴した。3月2日付。

とあります。

その後、2016年に和解が成立。原告側の元学生、被告側の鹿児島大学とも和解内容は明らかにしていませんが、控訴後の損害賠償額が2200万円と当初の4159万円から減額しています。

それで和解ですから、鹿児島地裁判決の374万円と同額か、それ以上、と見るのが自然でしょう。

この鹿児島大学事件、他の元学生も提訴しており、こちらは2520万円の損害賠償に対して800万円で和解(2011年12月17日付熊本日日新聞朝刊「鹿児島大歯学部の卒業試験操作訴訟、800万円支払いで和解 鹿児島地裁 裁判」)。

しかも、採点ミスはまだしも、東京医科大学の不正入試事件は悪質さ、という点では前代未聞です。

そのため、1人あたり数百万円どころか500万円ないし1000万円以上となってもおかしくはありません。

仮に1人あたり500万円として、年10人×8年分で4億円。1人当たり1000万円なら8億円。人数が年20人であれば、16億円にもなります。

一時的には支払えるが、長期的には立て直しは困難?

まとめますと、補助金の返還が57億円~184億円。

損害賠償が受験料と合わせて14億円~26億円。

合計すると、71億円から210億円にもなります。

東京医科大学は今のところ預金が277億円あります。そのため、補助金返還・損害賠償の累計が210億円だったとしても支払いは可能です。

ただし、預金の相当額が消えることになりますし、長期的にはイメージの悪さから附属病院への来院者数も減少。医療収入が大きく落ち込むこともあり得ます。

そうなると、東京医科大学単独での生き残り・再建は長期的にはかなり難しいことが予想されます。

総合大との合併で偏差値上昇の例も

そこで考えられるシナリオが、総合大学による買収・合併です。

実際、2000年代に入ってからはいくつか、前例があります。

共立薬科大学(薬学部)

2008年に慶應義塾大学と合併(構想は2006年発表)

現・慶應義塾大学薬学部

聖和大学(教育学部)

2009年に関西学院大学と合併(構想は2006年発表)

現・関西学院大学教育学部

聖母大学(看護学部)

2014年に上智大学と合併(構想は2011年発表)

現・上智大学総合人間科学部看護学科

こうした合併は、結果としてはいずれも成功しています。

共立薬科、聖和、聖母の3校とも合併したことで、受験生の人気が上昇。偏差値が引き上がることになりました。

駿台予備学校・河合塾偏差値/志願者数/競争率

2004年

共立薬科大学 57・60.0/3739/10.2

聖母大学 42・50.0/293/7.6

聖和大学教育学部 42・47.5/366/3.8

2018年

慶應義塾大学薬学部(6年制) 60・65.0/2440/4.0

上智大学総合人間科学部看護学科 57・57.5(学科別)/380(一般入試のみ)/4.6

関西学院大学教育学部 54・57.5(全学文系)/2316/3.9 

※データは『旺文社臨時増刊 全国大学内容案内号』2004年・2018年版から引用

合併した総合大学としても、多様な学部学科を揃えれば、それだけスケールメリットを出すことができます。

では、どの総合大学が合併に動くでしょうか。

そもそも、医学部の単科大学を総合大学が買収・合併する、という事例はこの30年間、ありません。前代未聞の事態といっていいでしょう。

そのため、関西や東北など他地域の私大、あるいは、東北・中四国・九州など医師不足に悩む地域の国公立大学が動くということも可能性としてはゼロではありません。

ちなみに、私立大→国公立大への転換は高知工科大学など公設民営大学では次々と進んでいます。公設民営大学以外の私立大学でも成美大学→福知山公立大学(2016年)などの例があります。

ただ、現実的な可能性で言えば、在京の総合大学でしょう。その中でも医療系学部・薬学部をすでに設置している大学だと、既存学部との連携効果が期待できます。

医学部なし・医療系学部ありの総合大学

上智大学 総合人間科学部2005年/看護学科は2014年

駒澤大学 医療健康科学部2003年

創価大学 看護学部2013年

大東文化大学 スポーツ・健康科学部2005年

東京理科大学 薬学部1960年

文京学院大学 保健医療技術学部2006年

武蔵野大学 薬学部2004年 看護学部2006年

目白大学 保健医療学部2005年/看護学部2006年

帝京平成大学 ヒューマンケア学部2004年/健康メディカル学部2002年/健康医療スポーツ学部2008年

帝京科学大学 医療科学部2007年

東京医療保健大学 医療保健学部2005年/東が丘・立川看護学部2010年/千葉看護学部2018年/和歌山看護学部2018年

上記の大学11校のうち、帝京平成大学・帝京科学大学はグループ校の帝京大学に医学部があります。

ただ、同じ学校法人が医学部のある大学を複数経営してはならない、というわけではありません。

東京医療保健大学は総合大学ではないのですが、2005年の開設以降、看護系学部を拡大。2018年には千葉・和歌山にそれぞれ看護系学部を開設しています。

いずれも、既存学部との連携効果を考えれば、東京医科大学の買収・統合は十分にあり得ます。

早稲田は悲願で新総長も構想あり

医療系学部を持つ総合大学でなくても、もし東京医科大学を買収、医学部が新設できれば、他学部も含めて人気が上昇します。格も上がりますし、数百億円以上、買収費用がかかるとしても、それを高い、とは考えない総合大学は少なからずあります。

医療系学部がなくても、医学部新設が悲願でもある総合大学と言えば、私大の雄・早稲田大学。

大隈重信が早稲田大学を開設したときは資金難。その後も何度か、話が出ては消えています。

西原春夫元総長によると、約100年も前に、理工学部と医学部両方の開設を目指して募金を集めたところ金額が足りず、理工学部を選んだ経緯がある。西原氏が総長だった80年代も、多くの校友から「医学部を持ってくれ」「『早稲田付属病院』で死にたい」という声が寄せられていた、という。

「当時、複数の有力な単科医科大学から合併の申し入れがあったんです。ものすごく強く希望した大学もあったが、OBからの反対など相手側の要因でつぶれるのが常でした。ただ、当時と今の状況はまた違いますから、今後のことはわかりませんけどね」

「AERA」2006年12月4日号 「『慶応大薬学部』の実力 早慶『医薬』合併バトルと『次』の全予測」

が、早稲田大学は医学部新設の布石とも取れる動きを2000年代以降に進めています。

早稲田大学と医学関連の動き

2000年 東京女子医科大学と学術交流協定を締結

→2010年に大学院共同教育課程を開設

2007年 先進理工学部生命医科学科を開設

2008年 筑波大学と連携協力協定を締結/理工系3学部と筑波大学医学群との連携で両分野に精通した人材養成

2011年 茨城県、早稲田大学・鎌田薫総長(当時)に新設医学部を同県内の県畜産試験場跡地(笠間市)に設置するよう橋本昌知事(当時)の書簡を提出

2011年 神戸大学医学部と連携協定を締結

2012年 茨城県議会、早稲田大医学部の県畜産試験場跡地への誘致を求める決議案を賛成多数で可決

2016年 稲門医師会を設立

2018年 医学部新設をマニフェストに盛り込んだ田中愛治教授が総長に当選

東京女子医科大学、筑波大学、神戸大学とそれぞれ協定を締結。理工系3学部と医学部(群)との人材交流・養成を進めています。

早稲田大学が医学部新設を表明していないのに、茨城県は誘致を県議会で決議しています。

2016年の稲門医師会とは、早稲田大学を卒業後、医学部に入り直し、医師となった卒業生を中心とした卒業生組織です。

早稲田大学はこの稲門医師会についてのリリースを出していますが、そのタイトルは「医学部のない早稲田大学に『稲門医師会』が誕生」

それぞれ細かい動きを見ていくと、医学部新設を相当意識していると見るのが自然でしょう。

そして、7月の総長選挙に当選した田中愛治教授はマニフェスト第3弾の「『世界で輝くWASEDA』に何が必要か? CHANGE for Waseda!」の中で「医学部の検討」という項目を入れています。

「世界で輝く WASEDA」を実現するためには、生命医科学の研究・教育を抜本的に拡充する必要があります。新たに医学部を本学が増設することは全国医学部長病院長会議の承認が必要なため、ほぼ不可能と言われています。したがって、実行可能性を見極めつつも、単科医科大学を吸収合併する戦略に絞って考えていく必要があります。

水面下で動く大学

すでに早稲田大学は東京女子医科大学、筑波大学、神戸大学と連携協定を締結。特に東京女子医科大学との合併は2000年代からずっと噂されていました。

が、そもそも大学合併は水面下では様々な動きがあります。

早稲田大学は2000年代以前、合併相手は日本医科大学と言われていましたし、共立薬科大学と合併した慶應義塾大学は、他の薬科大学と統合を検討していました。

慶應のケースだと、とある単科薬科大学と統合発表の直前まで話は進んだのですが、創業者一族の大反対でとん挫した、という経緯があります。

そのため、早稲田大学が東京医科大学と合併しても、それが不自然とか不義理、ということは特にないのです。

早稲田大学以外の総合大学も、東京医科大学の合併は検討に値します。

そのため、今後、水面下で様々な動きがあることでしょう。

あるいは、総合大学からのラブコールを振り切って、単独の生き残りを東京医科大学は検討するかもしれません。今後の展開に注目です。